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1 クロとの出会い

作者名を免独斎頼運に変更して新作、SSランク冒険者のお仕事は下着の洗濯です ~討伐依頼? そんなものありません~の投稿を開始しました。

今迄の作品は全て改訂予定ですがだいぶ先になる予定です。

申し訳ありません。

「マヤ、今日からお屋敷で手伝いだ。」

「ほんと?」

「おお、本当だ。偉い人も沢山いるから良い子にするんだぞ。」

「うん。」

父さんはお屋敷の厩舎で馬の世話をしている。

動物が、特に馬が好きな俺にとっては憧れの職業。

俺もいつかは父さんのような立派な調教師になりたいと思っている。

今日から父さんと一緒に働ける。

大通りで眺めるだけだった馬の世話が出来る。

俺はお屋敷で働けると父さんに認められた事が嬉しかった。



大きな門の前には二人の兵士が立っていた。

「おはようございます。」

父さんが兵士に挨拶する。

「おはようございます!」

俺も元気に挨拶した。

「おう、おはよう。元気があっていいぞ。厩舎長、この子がお前の息子か。」

兵士は俺のことを知っているようだ。

「はい、やんちゃで困っています。」

「元気で何よりだ。坊も馬が好きか」

「うん!」

「そうかそうか。」

門番達と話しながら、父さんに連れられてお屋敷の門を潜る。

「立派な門だね。」

「こんなに立派な門でも裏門だ。表門は裏門の3倍は立派だぞ。」

「凄い。」

「そうだろ。」

父さんは自慢げ。

このお屋敷はこの街だけでなく隣の隣のそのまた隣の町も治めている領主様のお屋敷。

お屋敷で働く使用人は、厳しい審査で選ばれた技術の持ち主であると同時に、身元のしっかりとした信用できる家の生まれ。それだけに給料も高くて、子供にとっては憧れの職業。

見習いであってもお屋敷で働けるのは凄いことなのだ。


「わあっ!」

門を抜けると広大な敷地が広がっていた。

領都と言えば小さな家がびっしりと建っている所という俺の常識が消し飛んだ。

「すっごい!」

「広いだろ?」

「うん。」

見渡す限り続く高い塀に囲まれた敷地には大きな家がパラパラと建っている。

「あそこは農場で働く使用人の家や工房だ。父さんも昔はあそこに住んでいたんだぞ。」

「そうなんだ。」

暫く歩くと沢山の馬が見えて来た。

「あそこに見えるのが厩舎だ。」

父さんが教えてくれた方を見ると、大きな建物が沢山建っている。

「侯爵様や騎士様の馬だけでなく、馬車を牽く馬もいるから200頭はいるな。」

「すげえ!」

「マヤも今日からここで父さんの手伝いだ。厩舎に行ったらちゃんと挨拶をするんだぞ。」

「うん。」

「うん、じゃなくてはいだ。」

「はい!」

この世界では5歳になったら親の仕事を手伝ったり子守をするのが当たり前。

8歳~10歳になると本格的に働きに出る。

二十歳過ぎまで働かない前世とはえらい違いだが、俺にとっては見るもの聞くものすべてが新鮮で面白い。

前世の知識を持って生まれたので、最初は中世のような貧しい生活に驚いた。

でも前世よりも劣るところを嘆いても意味は無い。

前世とは違ってこの世界は人情や愛情に溢れている。

何よりも自分が役に立っている事が実感できる。

近所の子供達は“兄ちゃん兄ちゃん“と慕ってくれる。

親御さん達は”いつもありがとうね“と感謝してくれる。

そう言えば、前世で人に感謝された事ってあったかな。

今はこの世界に生まれ変われた事を幸せに思っている。



「マヤ、8歳です。よろしくおねがいします。」

父さんが紹介してくれた厩舎の皆さんに挨拶をして、馬の手入れを手伝った。

まあ軽いものを運んだり、掃除の手伝いをする程度しか出来ないけど。

200頭もいると馬房の掃除だけで大変。

夕方には馬の糞まみれ。

それでも厩舎で働く馬丁さん達に“頑張ったな”“偉いぞ”と声を掛けて貰っただけで嬉しくて疲れも吹き飛んだ。

仕事終わりには井戸の水で体を洗い、持って来た服に着替えて与えられた部屋に帰る。

今の季節は良いが、冬になると寒そうだ。

それまでにもっと体を鍛えなくちゃ。

嫌な事でも前向きに考えればどうと言う事は無かった。



あっという間に1年が過ぎ、仕事にも慣れて来た。

「今日からこの馬をマヤに預ける。しっかり世話をするんだぞ。」

「はい!」

俺の責任で世話をするだけ、他の人も世話をしてくれるし、俺にも色々な雑用がある。

しかし、自分が中心になって世話を出来る馬がいるということは凄く嬉しかった。

まだ生まれたばかりの仔馬、真っ黒なのでクロと名付けた。

毛並みと言い骨格の太さと言い他の仔馬とは比べようもない程の馬。

いずれは侯爵様ご家族の愛馬か王室への献上馬となるのは間違いない。


この1年で判ったが、侯爵領は大陸1と言われる名馬の産地。

その中でも侯爵屋敷の厩舎は特に優れた種牡馬と繁殖馬を育てている。

この厩舎で育った馬は、外国の王室への献上品となることも多いと馬丁のおっちゃん達が自慢していた。

そんな馬達に囲まれて生活している俺が、この仔は凄いと思ったほどの仔馬だった。

「クロ、ちゃんと食べた? うん、全部食べたね。偉い偉い。」

「ブラシを掛けるからじっとしているんだよ。」

「そう、クロは賢いね。」

「はい、お水。沢山飲むんだよ。」

クロの傍にいる時には何をするにしろクロに話しかけてからするようにした。

嫌な時はクロの目が嫌だと訴えてくれる。

「御免ね、嫌かもしれないけど今はこれしかないんだ。これを食べないと大きくなれないから我慢して食べてね。」

クロは乾草が嫌い。でも冬の間は新鮮な青草が無い。

嫌いな乾草を食べている間中たてがみを撫ぜてやる。

クロはたてがみを撫ぜられるのが大好きだから。

クロの世話を任されたのが悔しいのか、先輩に意地悪されることもあった。

そんな時でもクロの優しい目で見つめられると心が和んだ。

少しでも時間が出来るとクロの傍で一緒に過ごす。


半年が過ぎる頃にはクロの気持ちが何となく判るようになった。

1年が経ち、鞍を付けての乗馬訓練が始まった。

「ゆっくり歩くよ。」

「そうそう。上手だね。」

「次は右に曲がるよ。」

「上手い、上手い。」

「向こうの木の横で止まるよ。」

クロはパカパカと走っていくと、俺が手綱を操作する前に木の横にピタリと止まった。

「凄い、俺の言葉が判るんだ。」

“当然だ”

「へっ?」

いきなり頭の中に言葉が響いて驚いた。

あたりを見回しても誰もいない。

“どこを見ている。俺だ、クロだ”

「クロ、クロの声なの?」

“そうだ、マヤには動物と話す力がある”

そうなの? 

動物と話す力があるから人と話すのが苦手なの?

俺は人と話す時は妙に緊張して上手く話せない。

“それは関係ない”

馬に即答された。

ぐぬぬ。

「考えたことまで判るの?」

“マヤの心の声が聞こえるだけだ。穢れのない者のみが生き物と心を通わせられる”

「俺って、穢れてるよ。毎日馬糞まみれだし。」

“穢れの意味が違う”

「まあいいや。クロと話せたら楽しいから難しい事は考えない。」

“それで良い。ただし、他の者には話せることを知られるな”

「うん。」

“言葉に出さずとも、伝えようと思えば伝わる。一人で話していると奇妙に思われるぞ”

“わかった。これで伝わった?”

心の中で話す。

“上手い、上手い”

クロが歯茎をむき出しにして笑う。

馬に褒められてしまった。


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