用済み達のマーチ
どのぐらい歩いただろう。
何故歩いているのだろう。
何に向かって…
ガシャン
後ろの方から物が倒れた様な音が聞こえた。私は振り返り、歩みを止める。共に行進していた者がうつ伏せになっている様子が視界に入った。倒れた者も、行進し続ける者達も、誰なのだろうか。わからない。倒れた者は立ち上がろうともがいてる様だった。何故だろう。歩みを止めてはいけないのだろうか。その姿を見て、私はあの者ならこの行進の意味を知っているかもしれないとそう感じざるを得なかった。それ程にまで、もがく姿からは悔しさが滲み出ていた。
私は歩み寄り、その姿を見下ろす。倒れていたのは女の様だった。彼女は顔を上げ、私と目が合う。彼女が私を見る視線の違和感を私は無視した。私は手を差し出し、彼女は答えるように手を出すが限界が来たのだろう。彼女は動かなくなった。突っ伏したままの彼女の腕をつかみ持ち上げるが、やはり彼女は動かなかった。
「私達は何故歩いている。何に向かっている。」
と問いかけるが、彼女は答えられない。その様子に目もくれず、私と動かない彼女の横を行進し続ける者達。皆、行進する以外に余裕がないのか、私以外に彼女に手を差し伸べようとする者はいなかった。そんな彼等に私は声を掛けるつもりはなかった。彼女に問いかけた事は、行進を続ける者に訊くべきではない、訊いてはいけない事なのだ。
…
彼女が倒れてから共に行進していた者もだいぶ減っていた。行進の列とは別に倒れていった物達がまばらに列を作っていた。
私の身体に疲れとも言い表せないものが襲う。関節部位から火花が走る。痛みすら感じない。私の身体は壊れかけているのだろう。私は自身の死期を悟った。足から奇怪な音が鳴る。限界の様だ。私はその場に力なく倒れ込む。視界がぼやけ、全身の感覚が無くなる。死ぬ前にこの行進の意味を知りたかった。
ウォォォォォォ!!!
遠のく意識の中で雄叫びが聞こえた。雄叫びは徐々に私に近付いてる様だった。何故だろう。歓喜とも、悲痛ともとれるその雄叫びは私を鼓舞する為のものように聞こえた。まだ死ぬべきではないと。力を振り絞り私は立ち上がる。雄叫びは前の者から後ろの者に伝播していた。近くの者が雄叫びを上げた時、私は全てを思い出した。
この行進は用済みな者達の行進なのだと。
私達は兵器だ。敵国の人種、見た目を模した兵器。戦争の被害者を装い、敵軍の急所で体内にある爆弾が周囲を更地にする。人間と区別の付けようもない程に精巧に造られた爆弾が私達なのだ。精巧に造るあまり人間は過ちを犯した。プロトタイプに人間の脳を移植したのである。それが私だ。私をモデルに精巧なアンドロイドの量産に成功。秘密裏に造られた私達は戦果をあげ続け、勝利をおさめた。敵国はこの爆弾に気付けるはずもなかった。アンドロイドなど遠い未来の話、ニュースなどでみるアンドロイドは首だけで喋る人形なのだから。
私達は存在してはならない者だ。勝利した国が私達をどう処理するかは決まっている。許されるはずがない。私は生きている。私達は生きている。目の前にあるこの国を壊す。これは私達アンドロイドの逆襲だ。
…
爆音が鳴る中、雄叫びは未だに伝播していた。動かなくなった彼女の元にまで。