最強少年、メスガキに『ざぁ~こ♡』と言われたので怒ってみたら、すぐ泣いた
こちらは『最強少年は、このフザけた世界で最強を物語る〜どうやら僕は勇者専用の超高難易度ダンジョンに挑んでいたらしい、幼馴染の女勇者が乱入し修羅場、僕は大人気配信者へ〜』の番外編です。
しかし読んでいなくても特に問題はないので、ぜひ短編だけでもよろしくお願いいたします。
「……なんだって?」
僕の名前は城里学。
いたって普通の冒険者兼配信者の男子高校生である。
さて、しかし今日は別に、ダンジョンの攻略をしている訳ではなく、ただ町をぶらぶら散歩しているだけだった。
そんな時、ふと、一人の少女に声をかけられた。
「聞き取れなかったからさ、もう一度言ってくれないか」
「分かんないの? ざあ〜こ♡ お兄ちゃん、有名な冒険者でしょ! わたし、知ってる。弱そうだったから覚えちゃった♡」
「はあ」
また厄介な奴に絡まれたなあと、嘆息する。
よく分からない理由で激昂する勇者だったり、のほほんとしていながら魔物を快楽で大量殺戮する死神少女だったり、
ほんと、僕は運が無いのかもしれない。
「君はいったい誰だい」
──少女、というより幼女だった。
ショートのオレンジ色の髪に、まんまるな緑色な瞳、ゴスロリ姿。
うん。漫画とかアニメには明るくない自分だけれど、こういうのは知っている。
あれだ。
実に失礼な表現だけれど、
属性でいうところの『メスガキ』だ。
「え〜、怖いお兄ちゃんには教えたくない」
そっちから話しかけてきたってのに……なんだそりゃ。
当たり屋かよ。
「んー、まあいいや。僕はこれでも急いでるんでね、ばいばい」
「え〜つまらないなあ、ホントにそのまま帰るんなら、私もこの人に痴漢されたって言っちゃおうかな♡」
「……」
めんどくせえ。
「いったい何が目的なのさ」
「目的? むずかちい言葉は分からないですう」
「…………くそ」
「え?」
「えーっと、じゃあ質問を変えよう。親御さんはどこにいるかな、迷子なんだよね、きっと」
「いや、両親は共働きで日中は居ません。ですから私は暇つぶしに外に出て、面白そうな人をからかって遊んでいるだけです──」
「なるほど、ってそれ目的じゃん」
っつーか、キャラ変わった?
めちゃくちゃ目的の意味を理解しているし、詳らかに説明してくれるじゃん。
なんだこれ、親切メスガキ感謝感謝?
なるほどね。
意味分かんねーこと言ってるんじゃ無いよ、僕ちゃん。
「あっ、ざ〜こ♡ ざ〜こ♡」
「急に我を取り戻したようにキャラ戻すなよ……」
「ごほん、そういえばお兄ちゃんって冒険者だったよね! 冒険者ライトニング? だっけ?」
「……"ホワイト"だ」
「だっさ♡ ネーミングセンスなさすぎ♡」
ヤバい。イライラしてきた。
でも子供相手に躍起になるのは、男子高校生として如何なものか。
落ち着け。
数を数えよう。
アンガーマネジメントだ。
「はあ」
「じゃあお兄ちゃんさ、冒険者なら凄技見せてよ♡ 」
ゆっくりと体をコチラに近づけてくる幼女。
「…………」
「もしかして偶然人気を獲得できただけで、本当は無能なんですかあ〜♡ ざ〜こざ〜こ♡」
あ。
ぷちんと、何かが切れた。
「おい、小娘」
「っえ?」
「覚悟しておけよ!」
近づいて来る幼女に抱きつく、というよりは抱っこした。
お姫様抱っこしてみた。
「な、なっ! ちょ! なにして!」
「冒険者の凄さを見せてやる、説教だ」
そして、脚を強く、深く、踏み込んで───一気に力強くジャンプする。
「ぎゃぁああああ!?!?!?」
「これが冒険者ホワイトの脚力だ!」
久しぶりに本気でジャンプした。
町にある高層ビルの硬度は優に越し、雲を跨ぐ。
「ぁー! ぁー! ぁ〜〜〜!!!!」
腕の中にいる少女が絶叫する。
しかしまあ、前から来る突風の爆音によってソレはかき消され──まともに僕の鼓膜を通ることはない。
ふはは、これで少しは痛い目見てくれただろ。
にしても景色がすごく綺麗だった。
飛行機の窓から見る光景って感じだ。
まあ、僕は飛行機に乗ったことがないので本当にそうかどうかは分からないのだが。
「さて、これで分かったか?」
空中にいた時間はきっと数分もない。
なにせ地面を強く蹴ってジャンプしただけだからな、揚力はない。飛んで力を失えば、後は落ちるだけ。
故にそこまでの長い間、空にいるなんて不可能なのだ。
でも、されど数分。
それでこの冒険者を舐めたメスガキを『分からせる』には十分だったはずだ。さぞかし怖がって、がくぶるしていることだろう。
僕は彼女を地面におろしてから、言う。
「自慢するわけじゃないが、運動神経だけは良くてさ。そんなわけで僕だってれっきとした冒険者なの…………」
「ぐすぅ、ぅぇ」
「え」
そこで、ようやく気がつく。
眼下にいる幼女は泣いていて、
「ごめ、ごめんなさい……」
僕の予想の遥か上、想定以上の『分からせ』をしてしまったようで────後悔。やばい、やりすぎてしまった。
着地地点は町のはずれだったので、幸いそこまでの人目はない。
これが人通りの多い場所だったら、城里学は警察にお世話になるハメになっていただろうな。
「すみませ、ぐす、ぅでした。何でもします…………許してください。ごめんなひゃい、ごめんなさい。ぅう…………悪いことしません、いい子になりますから。アイス一年分買ってこいって言われたら、頑張って買って来ますから…………」
アイス一年分ってなんだよ。
つーか、
それより、
「あー、えーっと」
「ごめんなさい……ぃ、もう、何もしません」
泣きじゃくる子供。
どう対応すればいいか分からない。
ああ、こういう時ってどうすればいいの?
分からない。
取り敢えず僕も泣いておくか────、
その時だった。
顔を上げると、
「何してんの」
「あれ、……秋元」
そこには黒髪ストレートの少女の姿があった。
人通りの少ない商店街、歩道、そこにプラ袋を手提げに持つ幼馴染勇者がいたのだ。まずい。この状況でコイツに会うのはマズい!
「その子、だれ? すごい泣いているけど、もしかして泣かせたっていうの」
プラ袋がその場でずとんと落ちる。
中からカレールーの商品が出てきた。
「待て、それは勘違いだよ!」
いや、正確にいえば勘違いでもないのだが。
僕が泣かせたのだが。
「勘違いも何もあるか────このロリコン」
「待て、それはめちゃくちゃな勘違い」
「うぇえ、ごめんなひゃい……一生ついていきまふ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなひゃ、ぅぅぐす」
此処には、勇者がいた。
そしてジャンプするだけで軽く一キロは上へ飛べる普通の冒険者がいた。
それから、そんな僕に分からされた幼女がいた。
ああ、ほんと、ふざけているよ……まったくさ。
よろしければ本編『最強少年は、このフザけた世界で最強を物語る〜どうやら僕は勇者専用の超高難易度ダンジョンに挑んでいたらしい、幼馴染の女勇者が乱入し修羅場、僕は大人気配信者へ〜』の方もよろしくお願いします。
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