第83話 復讐の狼煙
「くそがぁぁああっ!!」
Cクラスの教室の空気が、ショーイの怒号に震えていた。
制御を完全に失い、ぶつけどころのない感情に苦しむかのように、暴れまわる。
木製の机や椅子に当たり、周囲の生徒たちは恐怖に震えながら悲鳴を上げていた。
床には彼の感情の痕跡が散乱し、教室全体が嵐の後のような惨状を呈していた。
「暴れるな! 傷が悪化するぞ!」
フェンがショーイを止めようとするが、ショーイの怒りは収まらない。
血まみれの拳で机を粉砕し、床に散らばる破片は彼の敗北への怒りと挫折を象徴するかのようだった。
そんな痛々しいショーイを、これ以上見ていられなかった。
「おい、今すぐ魔法煙草をよこせ! 今からでももう一度戦いに行って、ぶち殺してやる……!」
「きゃあっ!」
ショーイは、悲鳴をあげるエリナのローブから、無理やり魔法煙草を奪い取る。
そして乱暴に口に咥えて、貪るように吸い始めた。
その姿はまるで血に飢えた獣のような様子で、見ているのがあまりにもつらい。
「————落ち着けよ……お前は負けたんだよ」
フェンはできるだけ冷静に、ショーイに語りかける。
「決闘のペナルティがあるから、しばらく決闘は禁止される……それに、その怪我じゃ、もう戦えないだろ」
決闘の敗者は、一定期間決闘を禁止される。
おそらく、次の定期試験まで、序列をあげることを許されなくなる。
だがそんなことよりも、フェンはショーイにこれ以上無理をしてほしくなかっただけなのだ。
荒い呼吸のまま、魔法煙草を吸うショーイだったが、フェンの言葉を聞いて次第に落ち着きを取り戻してくれた。
「……すまん。周りが見えなくなってた。焦っちまってたんだ……」
後悔と疲労が滲み出す声で、ショーイは謝罪する。
ようやくフェンの言葉に聞く耳を持ってくれて、ひとまずほっとしたが、激情の嵐が過ぎ去った後の虚脱感は、まるで腫れ物のようであり、触れることはできなかった。
「魔法煙草を使って俺も強くなった。Aクラスでも一握りの生徒しか攻略できなかったダンジョンも攻略できた————フェン、お前にも負けないぐらい自分が強くなってるって、俺は思いたかったんだよ」
だから、フェンの名前を出されて簡単に挑発に乗っちまった。罠だって少し考えれば分かるはずなのに————
ショーイは体を震わせて、その場に崩れ落ちる
「————俺だってやれるって思いたかったんだ……お前に、置いてかれたくなかったんだよ……!」
ショーイの目には涙が浮かんでいた。
その姿を見るのが途轍もなく悲しく、胸が痛くなる。
最近のショーイは、感情を表に出すことが多い。
それが嬉しく思えることもあったけど、今は辛い。
フェンが最近変わったと言われるように、ショーイも変わったのかもしれない。
「……分かるよ。友達に置いてかれると思うのは、寂しいよね」
エリナは優しくショーイの肩に手を添える。
もしかしたら、エリナもショーイと同じことを考えていたのかもしれない。
カナを救うためなら、何を犠牲にしても、どんなことでもやる。
その思いに、今も変わりはない。
ただ、自分の願いのためだけに突き進んでいたフェンの行動は、こんなにも周りに負担をかけていたとは、考えたこともなかった。
こんなにも誰かに影響を与えているとは————知らなかった。
「本当にすまねえ、フェン……結局、お前を巻き込んじまった。お前が『ロード・オブ・ウィザード』になるのを、邪魔したくなかったのに……」
第三位のあいつと戦うなら、もっと時間をかけて準備するべきだったのに————
後悔と自責の念が、ショーイの言葉を震わせていた。
本当にこいつは————
自分には勿体無いくらいの、いい奴だ。
その肩をフェンは、軽く叩く。
「————いいさ。僕はお前達を置いて行ったりはしない」
そして、フェンは静かに魔法煙草に火をつけた。
鋭い視線を、どこかにいるであろう第三位のスカし野郎に向けながら————
「僕もキレてんだよ————友達を傷つけられて、めちゃくちゃ頭にきてる」
フェンの声は冷静だが、その奥底には煮えたぎる怒りが宿っていた。
復讐の炎が、彼の瞳に火をつける。
友達をこんな目に遭わせた奴を、僕は絶対に許さない————
すると、その様子を見ていたCクラスの生徒達も、フェンの元に駆け寄った。
「ショーイの奴、こんなに痛めつけられて————あいつ、許せねえよ!」
「何か手伝えることはないか!? 第三位をみんなでぶっ倒そうぜ!」
どうやらCクラスの皆も、フェンと同じ気持ちだったようだ。
生徒たちの怒りは、もはや個人的な感情を超え、クラス全体の共通の思いへと昇華していた。
ショーイとエリナも顔をあげ、フェンに話しかける。
「フェン、俺も全力で手伝うからな!」
「私も! マジで頭きた!」
彼らの目には、かつての敗北感は存在せず、リベンジへの強い決意が燃えていた。
フェンは仲間たちの熱い思いを一身に受け止め、静かな声で応える。
「ああ、皆であいつを倒す方法を考えよう」
「「おお!」」
高らかな呼応の声が、Cクラス教室の壁を震わせた。
絶対に勝つ。
フェンは心に誓った。
僕の野望はもう僕だけのものじゃない。ショーイの、見下されている全員の思いを背負っているんだ。
三日後、必ずサルヴァトールを倒す。
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