第61話 決意の裏側
魔女、魔法使いは二種類存在する。
一つは魔王大戦以前、約500年前から生きている魔女、魔法使い、またはその子孫だ。
『純粋種』と呼ばれることもある。
これらは生まれた時からとてつもない魔力を有しており、強力な魔法を扱うことができる。
四大魔女を含めた、伝説級の魔女や魔法使いが、その種族に当たる。
『純粋種』の家は何百年と続く名門であることが多く、高いプライドを持っている。
そしてもう一つの種族は、魔王の厄災によって生み出された、魔女、魔法使い。
魔王の魔力によって、身体的構造が変化し、魔法が使えるようになった者達。
すなわち、亜人としての魔女、魔法使い————『亜人種』と呼ばれる種族だ。
基本的に突然変異で魔力が発現することが多く、生まれた時から魔力を有しているのは稀だ。
両親が魔女、魔法使いなのに、その子供には魔力が発現しないというのはよくある話であり、その逆も然りだった。
そして、フェンの種族も後者————亜人種』に当たる。
フェンは病院からの帰り道、夕焼けに染まる街並みを見ながら、重い足取りで家に向かっていた。
目の前に見えてきたのは、魔法使いの家らしからぬ、特に特徴のない二階建ての家。
平凡な外観が、彼にとっては冷たく、無機質なものに映った。
玄関の扉を開けた瞬間、怒号がフェンを迎える。
「何をしてたんだ!!」
怒りに満ちた声の主は父親だった。
初老で頭の天辺が薄くなり、白髪が目立つ。
目の前で顔を真っ赤にしながら叫び、怒りと苛立ちをフェンにぶつけていた。
「またこんな時間まで勉強もせずに外ほっつき歩いて! 明日から新学期だろうが!」
その言葉を聞いて、フェンは頭が沸騰しそうになった。
まるで遊んでいたかのように言われるのは、あまりに非条理だ。
これがカナのお見舞いに行っているというのは、見たこともないし聞いたこともない。
カナは病院であんなにも寂しい思いをしているというのに。
この父親がカナのことを気にかけず、自分が会いに行っているというのに、それを何一つ理解していない。
言い返そうとする気力すら湧いてこなかった。
「そんなんで成績がこれ以上落ちたらただじゃおかないからな!」
一方的に怒鳴り終えると、父親は足音を鳴らして居間に戻っていく。
フェンは溜め息をつかざるを得なかった。
この家に帰るたび、こうした失望が積み重なっていく。
家族としての温かさなど、フェンはもう忘れてしまった。
居間に行く気にはなれず、フェンはそのまま自分の部屋に向かう。
しかし、その途中で母親と鉢合わせになった。
父親ほど老けてはいないが、顔の皺をなんとか手入れして隠そうとしているようだ。
母親は父のように怒鳴ることはなかったが、冷たい視線でフェンを見つめ、口を真一文字に結んでいる。
「お父さんね、最近魔法商人の仕事で忙しいの。新しい派閥が現れたとかでね————それもこれもね、あなたに魔法学校で勉強させて、立派になって欲しいと思ってやってるのよ」
母の説教にフェンは目を逸らした。
自分のためなどと言われても、何一つフェンの心に響くことはない。
なんだそれは。
どうしてカナのことには何一つ触れないのだ。
自分達の大事な娘が苦しんでいるというのに、彼らには何の感情もないのか。
僕の学費は払っても、カナの医療費を払う気はさらさらないってことかよ。
「あなたにはね、才能があるのよ。あなたは魔法適正を持っているのだから、それを磨かないでどうするのよ。立派な魔法使いになれるのよ」
看過し難い言葉に、フェンは母親を鋭く睨みつける。
母親は少し怯んでいた。
確かに、僕には魔法適性がある。
でも————カナには僕以上の適性があったはずだ。
才能もあったし、魔法が好きだった。
今でも、魔法学校に通い、魔法の勉強をしたいと心から願っているのだ。
それを、自分達の都合で使い潰したのはお前らだろうが。
喉の奥に詰まる怒りが膨れ上がる。
言いたいことは山ほどあったが、言っても何も変わらないことを知っている。
無言で母親の横を通り過ぎ、フェンは自分の部屋に向かった。
フェンの部屋は2階だ。
階段を上り、2階にたどり着くと、目の前にはフェンの部屋と両親の寝室、そしてほこりをかぶった物置があるだけだ。
カナの部屋など、どこにもない。
まるで、カナは存在しないものかのように扱われている。
その事実が、フェンの心にさらに深い憤りを生じさせた。
彼らはもう、カナを家族だと思っていないのか。
自分の妹をまるで捨てたかのように扱うその態度が許せない。
フェンは拳を握り締め、簡単には消えないその激情をなんとか押さえつける。
部屋に入り、強く扉を閉め、その火種をより大きく燃え上がらせるのだ。
もう両親に任せてはいられない。
彼らが見捨てるのなら、自分がカナを救うしかない。
薄暗い部屋の中で、フェンの瞳に炎が宿る。
それは、カナを救うための覚悟の炎だった。
「絶対に、にいちゃんが助けてやるからな……!」
フェンは決意を新たにした。
自分の力で、カナの治療費を稼ぎ、彼女を病から救うのだ。
そのためには、ならなければならなかった。
魔法学校の頂点————『ロード・オブ・ウィザード』に。
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