第43話 生の価値
私は、魔女家に人造人間として生まれつきました。
生まれた時から変わらない、13歳の姿。
背丈がこれ以上伸びることもないし、銀髪を切る必要もない。
この体は全て、人間を模して作られています。
人と同じように食事をし、人と同じように眠りにつく。
人の営みの中に紛れる、偽りの存在。
そんな私の使命、生きる理由はただ一つ。
魔女になることでした。
『さあ————今日も勉強の時間よ』
人造人間は私の他にもう一人いました。
私より前に作られた個体。
私と違って大人の姿で作られた個体。
私はそれをお母様と呼ぶことにしました。
子供の姿なりに、母親を求めるようになっていたのかもしれません。
お母様も、子供を望んでいたのかもしれません。
お互いに求め合っていましたが、その実は偽物の親子。
それでも、私はお母様のことが好きでした。
『————ここに書かれているのが賢者、地下の扉の向こうで眠っていらっしゃる崇高なお方。この方を信仰していれば、きっと私達、そして世界中の人達を救ってくださるわ』
その頃のお母様との暮らしはとても穏やかでした。
三食決められた食事を行い、ベッドの上で眠る。
この世界のことを学び、魔女となるために魔法を学ぶ。
そして、一日に一回はお母様と地下へ行き、扉の前で祈りを捧げました。
『賢者様、賢者様、私達に知恵を授けてください』
祈祷を捧げ、扉を綺麗に掃除する。
いつ賢者様が復活されても、不快にならないように。
賢者様に尽くすことで、心が洗われているようでした。
『賢者様は誰よりも優れた知性と、誰よりも慈悲深い心を持っているわ。賢者様に付き添っていれば、きっとそれが分かるはず。騙されたと思って信じてみなさい』
私はお母様の言葉をずっと信じてきました。
全てが変わってしまった今でも、ずっと騙されていました。
お母様と生活した日々は、とても幸せなものでした。
その頃は主人様達も皆優しく、私達を可愛がってくれていました。
とてもあったかい、安らぎのある記憶でした。
でも、そんな日々は長くは続きませんでした。
その日も、私達は魔女になるために、魔法の訓練を受けていました。
お母様が壊れてしまったのは————その時でした。
『どうして私じゃないの!?』
お母様は顔に黒い紋様を浮かびあがらせながら、叫んでいました。
耳を塞いでも聞こえてくる悲痛な叫び。
お母様は、魔女になれなかったのです。
呪いによって魔法が使えないと分かったお母様への扱いは一変しました。
寝る場所は地下の牢獄へと変わり、残飯のような食事を与えられ、厳しい労働を押し付けられる。
召使よりも酷い扱いを受けていました。
私はそれを直視することはできなくなっていました。
以前と同じように、一緒に賢者様への祈祷を捧げることもできませんでした。
そしてお母様は、以前と変わらずに寵愛を受け続けるシーナを憎むようになりました。
どうして私だけと、どうして選ばれたのが私なのかと、地下の牢獄でずっとシーナを責め続ける声が聞こえてきました。
『あなたなんか、生まれてくるんじゃなかった————』
やがて、館でお母様の姿を見ることは無くなりました。
お母様と過ごした幸せな日々も、全て紛い物だったのです。
そしてシーナも、お母様と同じ運命を辿ることになりました————
私に、生きる意味なんてあったのでしょうか。
生きる資格なんてあったのでしょうか。
お母様の犠牲の上に成り立っているにも関わらず、私は何をしたでしょうか。
誰かの役に立ち、誰かの印象に残っていたでしょうか。
いえ————きっと、何もなかったでしょう。
私には、何もない。
それでも、あの扉から賢者様が現れた時は、何か変わると思っていました。
けど、賢者様も偽物だったとのことです。
きっと私を救ってはくださらないでしょう。
何も変わらない。
私は————いてもいなくても同じなのでしょう。
『————それを殺してはいけない』
どこかで声が聞こえる。
聞いたことがある気がする声。
それとはなんなのでしょう。
私自身のことだったら、生きる価値のない私のことだったら。
それはなんの意味もない助言です。
『————扉を開けろ』
私に、開ける扉などありません。
そこから進む道も、ありません。
私に、未来など必要ないのですから————




