第20話 タネ明かし
どさっと、金貨袋を受付に置く。
大きな皮袋に、はち切れんばかりの金貨が詰め込まれていた。
「耳を揃えて2000万ノリス、これで文句はねえよな?」
受付嬢がギョッとした顔で、アイスとその金貨袋を交互に凝視している。
昼過ぎに追い払ったはずの冒険者ですらない男達が、大金を持って戻ってきたのだ。
袋の中身を開けて何度確認しても、確かに金貨が2000枚ある。
これを見せられてしまえば、ギルドも首を縦に振るほかなかった。
「……分かりました。ゴールドの冒険者として認めます」
終始驚きを隠せず、訝しい目をしていた受付嬢だったが、彼女は受付に置いてあったゴールドのプレートを四つ、アイスに渡した。
アイスはそれを受け取り、受付を後にする。
時刻は夕方になり、ギルドも人が少なくなってきた。
窓から入る夕日の光が、ギルドの建物内に落ち着いた雰囲気を作り出している。
アイスがプレートを持って円卓の方に戻ると、セラフィリアが机を叩いて立ち上がった。
「さあ、説明してもらおうか……!」
セラフィリアがアイスに詰め寄る。
奥にはラガスが座っていたが、彼も困惑した表情でアイスを見ていた。
それに対しアイスは、さも当然といった表情で返答する。
「説明も何も一芝居打っただけだ。この街の詐欺師さんから金を頂いたまでだぜ」
ターゲットはクレイグ一派の冒険者。
この街の冒険者の中で最も金を持っている集団であり、金の匂いに敏感である。
少しでも金になりそうな話をちらつかせてやれば、すぐに食いつくと思っていた。
そんなアイスの読み通り、商品を買ったのは全てクレイグ一派の冒険者達だった。
「そんなことはどうでもいい! いつの間にあんな術が使えたんだ? まさか————貴様は本当は賢者なのか!?」
「意味の分からねえ物言いになってるぜ、セリー」
興奮したセラフィリアにリルがツッコミを入れる。
そんなリルは、ジトーっとした目でアイスを見ていた。
「そうだな。運営にはマジックのタネ明かしをしたっていい」
アイスはシーナに合図をして、とんがり帽子を持って来させた。
その帽子は先ほどの屋台で使ったものであり、セラフィリアから借りたものだ。
「私の帽子に何をしたんだ!?」
「————シーナ、見せてやれよ」
「あ、はい」
シーナはなんだか申し訳なさそうな表情をしながら、帽子の中に手を入れ、何かを取り出す。
それは、湿った綿。
白くふわふわした特徴を持つ植物の毛。
それが液体を吸って重くなっており、ほんのりと緑色だった。
「……なんだこれは」
なんとなく、トリックのタネが分かってしまったような気もするが、一応セラフィリアは質問した。
「帽子の中に綿を詰め込んでおいたのさ。その上からポーションを注ぐことで、液体がこぼれないようにしただけ」
「しょうもな」
リルが肩を竦め、鼻で笑うように言った。
市場で売っていた寝具に詰められている綿を取り出して、ただセラフィリアの帽子に入れていただけだという。
どうして気づかなかったのかと思うくらい、簡単な仕組みだった。
一応、まだ分かっていないことがあるのでセラフィリアは確認する。
「————で? 凝縮ポーションと言ってたやつはなんなんだ? 帽子から出てきたやつ」
「あたしのマスカットドロップだよ……ったく、アイスよぉ、ヤニを紛らわすもんまで取り上げやがったな?」
リルは不満そうな目でアイスを見る。
詳しく話を聞いてみると、緑色の果実の風味がする飴をリルが持っていたらしく、それをポーションを固めたものに見せかけたという。
分かってしまえば単純なもので、なんだか肩透かしを食らった気分だった。
「でも、賢者様! いくらなんでも指を千切るなんてやりすぎです。私の回復魔法がなかったら————」
シーナが非難するように訴えた。
確かにセラフィリアの目からも、指が右手から完全に離れたように見えた。
ポーションの効力を示すのにはとても効果的だったのだろうが、あれはただの飴だ。
あれは、一体どうやったのだろうかと思っていたのだが————
「あ? 指なんて千切るわけねえだろ」
「「え?」」
アイスはあっさりと否定した。
シーナ、セラフィリア、ラガスが固まる。
すると、アイスはゴールドのプレートを円卓に起き、両手を出す。
さっきの屋台でやって見せたように、再び右手の親指を左手で握った。
そして、あっさりと左手を動かし、右親指を手から千切り取った。
「うわっ!? アイス————え?」
何の躊躇いもなくそれを見せられ、面食らいそうになったが、よく観察すると————
右手の親指だと思っていたそれは、左手の親指だった。
ただ左の親指を曲げ、それを左手の別の指で握っていただけである。
「……」
「ガキでもできる手品だ」
アイスは手をぶらぶらと振り、無傷であることを見せびらかす。
皆、あまりのくだらなさに頭を抱えていた。
シーナ、セラフィリア、ラガスもあの場にいた冒険者と同じく、この男に騙されていたのである。
こんな取るに足らない手品を素人がやってもこうはならなかったであろう。
あそこには道がいっぱいになるくらいの人がいた。
あれほどの人間達を騙すことができたのは、アイスの人間観察の精度と、彼の見せ方が卓越しているからに他ならない。
アイスこそ、本物の詐欺師であった。
「一応演出として、手に切り傷を入れて血を出したんだ。まあそれもシーナの治癒魔法で治っちまったんだがな」
そういえばあの時、治癒の魔力光が発現していた。
あれは、アイスにとって予想していなかったことのようだが、あれもまたいい演出になっていた。
「そうだったんですか……よかった————」
その時、シーナは安心したような顔で前に倒れ込んだ。
「シーナ!」
咄嗟にセラフィリアが手を前に出し、倒れるシーナを受け止める。
まるで魂が抜けたように倒れ、さすがのアイスも少し焦ったような表情になっていた気がした。
「————大丈夫、気を失っているだけだ」
「こんだけのことでか? 心配しすぎだぜ」
こっちが心配するじゃねえか。
リルがそう言ってしゃがみ込み、シーナの額をぺちっと叩く。
「朝から歩き詰めだったし、疲れも溜まっていたのだろう……今日はゆっくり休もう」
シーナに限らず全員疲れているので、アイス達はアベントで宿を取り、一晩休むことにした。
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