第11話 逃亡の先
「————ったく、杖を持ってねえとてめえも屋敷から出られねえのかよ。なんで無くすんだよ」
「うるさいなぁ! 貴様が私から魔法の杖を奪ってどこかにやったんでしょうが!」
「そんなもん奪われる方が悪いじゃねえか」
「なんだとぉ!?」
アイス、リル、そして魔女のセラフィリアの三人は、アストラ家の屋敷の通路を走っていた。
天井や壁に大蜘蛛が張り付いているが、こちらを襲ってくる様子はない。
近くにこの家の主人がいるからだろう。
セラフィリア曰く、この屋敷を出るには『転移魔法』なるものを使う必要があるらしい。
魔女にしか使えない魔法だそうだ。
しかし、その発動には魔法の杖を用いる必要があるとのこと。
リルとの戦闘時にどこかに無くしてしまったため、それを探さなければならなかった。
無論、その間にセラフィリアの兄でありながらリル達を牢屋に入れた男————ラムエリアに見つかったら、そこで終わりである。
「まったく……とんだ兄妹喧嘩に巻き込まれたもんだ」
「ほんとだぜアイス。ギャングどものいざこざに巻き込まれていたのが、今度はショートヒューズなポンコツ魔女の家のいざこざに巻き込まれるとはな」
「おい貴様……何を言っているか理解できないが、馬鹿にしているだろう!」
セラフィリアがすぐにリルに噛みつき、導火線の短さを如実に表している。
言い合いながらも、三人は足早に屋敷の通路を駆け回った。
いつ例の兄貴に見つかるかも分からない。
早く魔法の杖を探し、ここから脱出しなければ————
「おっと、そう簡単にここから出しちゃくれねえみたいだな」
アイスの目線の先には、複数の黒い影が道を塞いでいた。
ラムエリアの周りに付き従っていた、黒ローブの魔法使い集団だ。
魔法使い達はアイス達を視認した後、全員が機械的にこちらに振り向く。
そして、杖をこちらに向け————一斉に魔法を発動した。
「あぶねえ!!」
三人は慌てて通路の影に退避する。
魔法使い達が放つ様々な属性の魔法が、七色の光線となり通路の壁を粉砕した。
その魔法は、このアストラ家の主人の一人であるセラフィリアをも確実に巻き込むものであった。
「おい待て! 私はセラフィリアだ! この私に向かってどういうつもりだ!?」
「どうやら、奴さんにはそんなもの通じないみたいだぜ」
セラフィリアの顔が青ざめる。
三人を完全に敵として認識しているようだ。
それはつまり、ラムエリアにとって実の妹であるセラフィリアすらも敵として扱われているということになる。
セラフィリアが動揺している中、魔法使いの一人がこちらに突撃してきた。
リルが反応して、鋭い顔出しで一人を撃ち倒した。
しかし、魔法使い達の勢いは止まらず、二人三人と全速力で突っ込んできた。
「おいおい死ぬのが怖くねえのか? 馬鹿みてえにとつってきやがって!」
「あれは兄上が森で捕まえた人間に『蛇の目』を使って操っているんだ。兄上の使う目に魅入られれば、人間としての理性を失って人形も同然になる……!」
「そいつはおもしろくもねえ話だ。もう一度捕まりゃ、あの愉快な仮装パーティの仲間入りってことかよ」
そう言いながら、アイスも銃を取り出して応戦する。
リルとアイスによって撃たれた操り人形達は、糸が切れたかのように倒れていく。
少しずつ数を減らすことはできているが、通路の奥から魔法使いがどんどん増えていっていた。
「ちっ、拉致があかねえ————おらよ、セリー」
「なんだ!? うわっ————」
リルは懐からもう一丁の銃を取り出し、セラフィリアに投げて渡した。
セラフィリアは初めて触る金属の冷たさと重さに驚き、リルの方を見返す。
「お前杖がねえと弱っちいんだからこれでも使え」
「な、なにをぉ!? そ、それにこんなもの渡されても使い方なんて————」
「敵に向けて構えて引き金引くだけだ! 簡単だろうが!!」
リルは再び向かってくる敵を狙い撃つ。
アイスも的確に射撃を繰り返し、確実に集団の勢いを弱めていた。
セラフィリアはおっかなびっくり銃を構えては、射撃の衝撃で転び、あさっての方向に弾を飛ばしていた。
リルとアイスの精密な射撃により敵を倒してはいるが、敵の数が一向に減らない。
じりじりと距離を詰められていた。
「こりゃ逃げるしかねえな、あいつらに捕まったら終わりだ」
銃で牽制しながら、徐々に後ろに下がる。
そして通路を曲がり、全力で走り出した。
松明が映す三つの影をどんどん追い越して進む。
右に左と、もはや自分が進んでいる方角がどこか分からなくなるぐらい、目まぐるしく進路を変えてただ走った。
しかし、アイス達の進行方向からも魔法使いの集団が現れる。
「はあああっ!!」
その時、セラフィリアが一瞬で地属性魔法を唱え、正面に巨大な壁を出現させた。
このままでは敵の集団に飲み込まれてしまっていたところを、道を塞いで回避したのだ。
「曲がれ! こっちだ!」
セラフィリアが指差し、全員がそれに続く。
アイス達は銃で敵を牽制しながら進み、避けられない時はセラフィリアが壁を生み出して回避した。
それを繰り返して通路をひた走る。
だが、次第に選択肢が無くなっていく。
ついには、前後から魔法使い達に挟まれ、逃げることができなくなってしまった。
「ふざけんじゃねえ……! こんなのどうしようもねえじゃねえか」
数十分にわたり全力の逃走を続けて、アイス達は疲弊していた。
このままでは前後からすりつぶされて終わりだ。
リルは諦めずに前に銃を向けて、敵を倒そうとする。
その時————リルは前方の集団に黒いローブではない存在を見つけた。
「アイス————おい、あれ!」
リルが指差した先には、給仕服を着た背の低い少女。
アイス達が賢者の扉の前で出会った、シーナだった。
「貴様は……!」
「セラフィリア様! 杖をお持ちしました! これを————」
シーナは後ろに迫る魔法使いの一人に足を掴まれ、キャッと悲鳴をあげて転ぶ。
その手から何かがこぼれ落ちた。
セラフィリアの足元に転がってきたのは、セラフィリアの魔法の杖だった。
魔法使いは杖をシーナに向けてとどめを刺そうとするが、それに反応したのはリル。
咄嗟に頭を打ち抜き、戦闘不能にした。
セラフィリアが杖を拾い、そのままシーナの元に向かった。
アイス達もそれに続く。
前方、そして背後から、すぐそこまで敵が迫ってきていた。
「セリー!!」
「セラフィリア様!」
全員がセラフィリアに注目する。
セラフィリアは杖を流動的な所作で振り上げた。
そして————魔法を詠唱する。
『転移』
魔法使いの手がアイス達に触れる寸前————アイス達の姿が掻き消えた。
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