episode22〜ヴァスカの過去〜
初連載の二部幕、開始しました!
お初にお目にかかってくださる方も、心の奥底で待っていてくれた方も、緩く読んで頂けると嬉しいです。
初めての方は、一部から読んで頂けると、話が繋がり読みやすいかと思います。
一部とは少し異なり、冒険感のある二部となっております。
毎日の更新を心掛けております。
再び、岩場の影に身を隠し始めたゾル。
(こいつと二人きりで、本当に危険じゃないのか? 信じて良いのか?)
アディを横目に、恐る恐るカヌア達の方にも目をやる。
しかしアディは、岩に腰を下ろし、離れて話す二人を静かに見つめていた。
カヌアが、過去にあったという残虐な出来事について、ヴァスカと二人きりで話がしたいと申し出たからだ。
「ヴァスカ… 二人きりでも、話したくないのかもしれない… 今はまだ、全ては話さなくてもいい。だけど、このままヴァスカが他の者に変に疑われてしまうのは嫌だから」
「… 疑われてしまう? その言い方だと、信じているんですか? 俺のこと… もしかしたら本当に、残忍なのかもしれ… 」
「それはない! 信じてるよ! でも! 言葉が足りない! 信じるにも、ちゃんと… 要素は欲しい… 」
「… ふふ、わかりました。これから言うことは、本当に誰にも口外してない事です。信じるか信じないかは… お任せします」
意外にも柔らかく笑うヴァスカの顔とは裏腹に、カヌアは少し緊張した面持ちで頷いた。
「今から百年以上前の事です。そう… この世のあらゆる種族が滅びゆこうとした、あの日。まだ十にも満たなかった俺は、気が付いたらそこに居たんです。辺り一面のあの光景は、今でも脳裏に張り付いて離れることはありません。あの場所が悪かったのか、それとも… あの時の俺には、何が起こったのかわかりませんでした」
カヌアの額からゆっくりと汗が滴る。
「おそらくその数日前、俺と同じ様な容姿の種族に、ある暗い場所に閉じ込められました。今思えばあれは家族だったのでしょう。遠い昔過ぎて顔は覚えてませんが。とても、暗くて、足も伸ばせないほど狭い場所。俺は… ひたすら泣き叫びました。それまでに経験した事のない不安と恐怖。堪える方法が分からなかった。もがき、悲しみ… そしていつの間にか眠りについては目が覚め… その繰り返しでした。しかしどのくらいか経ったある時… 大きな地響きが起こりました。その反動で、閉じ込められていた扉から小さな光が漏れたんです。その時に扉がズレたことに気が付き、外に出ることができました。しかし、遅かった… 何もかもが… 」
少し言葉に詰まり始めたヴァスカの肩に、そっと触れるカヌア。
その温もりに、再び話始めた。
「… 外に出た俺は、それまでに感じていた悲しみや痛みさえも忘れるほどでした。あまりの恐怖で感情が塗り替えられたんです」
「何を… 見たの?」
「一面に横たわる… 亡骸です。それも… あらゆる種族の… 」
カヌアは、その言葉に震えが止まらなかった。
「俺は頭の中が真っ白になりながらも、生存者がいないかその足を前に進めました。その中に… 俺を閉じ込めた家族を見つけて… お、俺は… 」
そう言いながら、ヴァスカはゆっくりと腰を床に下ろした。
カヌアも身を屈めて、同じ目線になって言う。
「ヴァスカの家族は… 何かから助ける為にあなたを閉じ込めたの?」
「わかりません… 」
(彼らはこれから何が起こるのか、わかっていたのかしら? それとも偶然?)
「そして俺は、何が何だか分からないまま、更に生存者を探しました。しかし、誰一人息をしている者がおりませんでした。そこで… 俺は、ある事を決意しました。弔おうと… その場にいる全員… 時間が許す限り、一人一人を… 何日も何日もかけて… 何人、何十人、何百人っ… 何万人とその行為をしても、心が慣れることはありませんでした。その光景が今でも夢に出てくるんです… 俺は… 」
その瞬間、ヴァスカの身体が温かい何かに包まれた。
ヴァスカは目を見開いたまま、一滴の雫を溢した。
何故溢れたのかはわからない。
その一滴が流れたせいで、次々と涙が溢れ始めた。
初めの一滴は、その何かがヴァスカの黒い心に触れたからである。
カヌアが、その身でヴァスカを優しく包んでいた。
「辛かったね… 一人で… 何万人もの亡骸を埋葬したんでしょ? 到底出来ないよ。感覚がなくなるのもわかる。でも感情は変わる事なく、それを全てやり遂げた。彼らの為に… 偉いよ、ヴァスカ」
カヌアの頬にも、大きな涙が零れ落ちる。
しかしそれ以上に、その胸の中で咽び泣くヴァスカが、感情を露わにしていた。
遠くで様子を見ていたアディが、その変化に気が付く。
「ふぅ… 」
(さてこれからどうするか… )
アディは少し晴れないような顔をしつつも、ヴァスカに対しての脅威は既に打ち解けていた。
そしてその殺気が無くなったことに、ゾルも感じていた。
(あれ? 何があったんだ? 急に空気が変わったな?)
ある程度感情を流したヴァスカ。
我に返るとあることに気が付いた。
(ハッ… マ、マズい… 服が… しかもカヌア様の元でこんな醜態を… 殺される… ウィル様に知られたら… )
ヴァスカは自身の涙で濡れた、カヌアのその右肩を見て、一気に血の気が引いた。
カヌアがその視線に気が付く。
「あ、これ? 平気平気! 気にしないで? すぐ乾くから! それよりも… もう大丈夫? ヴァスカ、その… 中々癒える様な出来事ではなかったと思う。また思い出して、気分が落ち込む時も出てくると思うんだ。その時はいつでも… 」
「ふふ… はい、お陰様で… カヌア様、失礼をお許し下さい。しかし、このような事は、今後控えますゆえ」
「そう? いつでもこの豊かな胸を貸すわよ?」
「え? 乏しいの間違いでは無くてですか?」
「んっんなっ! 失礼ね! 折角の好意をっ…」
すると、ヴァスカはひざまづき、カヌアの手を軽く持ち上げると、礼を述べた。
「いえ… ありがとうございます。心から感謝申し上げます。お陰で心が軽くなりました。あと、お頼み申し上げたいのですが… 今回の件、あまり他言は… 」
「えぇ… わかってる… あなたを傷つける様なことはしないわ。でも、あの子達にはなんて説明する?」
「そうですね、アディティアが私の事を残忍だと思っているのは、おそらく埋葬中、あるいはその後の血を浴びた姿を見たからだと思うのですが… この事を説明して納得してくれるのか… 」
(ん? 血を浴びた? 血が付いたって事よね?)
カヌア達は少し不安な気持ちを持ちながら、アディとゾルの方を向いた。
しかし、次の瞬間その気持ちは一瞬にして無くなった。
アディがゾルを抱えて、カヌア達の目の前に飛んできのだ。
「うわぁっ! びっくりした! 急に来ないでよ! な、何!?」
「全員をここに、集めろ」
「あ、え?」
唐突すぎるアディの予想外の言葉に、カヌアは驚きを隠せなかった。
「月華山へと行くんだろ? 術がないこともない。アンセクト族をここへ… 」
「え? えとっ、うん、そうなんだけど… いいの?」
「何がだ?」
「その、ヴァスカの事聞きたいんじゃ… 」
「全て… 聞かせてもらったからな… いや、本当に先程のが ’全て’ だったのかは、怪しいがな」
(ん? 聞こえてた? あの距離から!? しかも… 何だか納得してくれて… る?)
カヌアは、事が少しだけ明るくなり始めたことに嬉しくなった。
そして思わず、アディにハグをした。
「ありがとう! アディ!」
「ぬぁっ、はっ離せ! おいっ! 力強いな!」
その光景を見ていたゾルが、堪えきれずに噴き出した。
「ぷっ… ふふ、あ、す、すまん! つい… ゔぅん! 仲間は既に、ライが声を掛けている。あとは俺が全員を、ここに連れてくれば良いんだな? すぐに呼んでくるからよ! 待ってろ!」
そう言ってゾルは、その場から姿を消した。
「ゾル、頼んだわよ! さぁいよいよね! 後は… あの子をどうするかよね… 」
カヌアは眠っているトゥバンの方を見て言った。
「それについてだが、考えがある。トゥバンは普段は主人に対しては、従順であるはずだ。何故、あんなに気が荒くなっていたのかは… 分からないが、奴を従えさえすれば… トゥバンに乗って、月華山まで行ける。あの大きさなら、全員乗れ… 」
「えっ!? ちょっちょっと待って! まさかトゥバンに乗って行く気!?」
「たった今そう言わなかったか?」
「正気なの!?」
カヌアのその言葉にニヤリとして、アディが応える。
「あぁ」
最後まで読んで頂きありがとうございます。
またまた突っ走って書きたいように書いてしまっているので、文章が乱れていることもあるかと思います。
何かお気づきの点があれば、いつでもメッセージお待ちしております。
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