表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

家族愛

作者: 児玉 桜

 世界は愛で満ちていると誰かが言った。

 そしてその愛と言うのは恋愛、我愛、親愛、遺愛と様々な種類があるらしい。

 ――では、私のこの気持ちは何なの?

 ――友愛? 純愛? それとも忠愛?

 ――いいえ、この気持ちは、憎愛よ。

 「ねぇ? 貴方?」

 赤い液体の滴る包丁片手に、女は言った。眼下に広がるのは、まさに愛の世界。

 「愛してるわ。愛してる。愛しているのよ。世界で一番……愛していたのに!」

 響み、帆を涙が伝う。

 それはやがて顎へと至り、滴って、真っ赤な水溜りを微かに濁した。

 眼下に広がるのは、やはり愛の世界だ。

 女と同じ指輪を嵌めた男と、知らない女がそこで寝そべっていた。

 さもその女は男を信頼していたかのように、安心に満ちた表情をして眠っている。

 男も似た様なモノだ。女に見せた事の無い幸せそうな表情で眠っていた。

 「これが、愛ですって? 一緒に幸せになろうですって? ふざけないで」

 女が女を蹴った。真っ赤な水滴が跳ね上がって、純白の壁紙にぽつりぽつりと染みの列を描く。

 ――私から夫を奪った売女。蟻の様に、知らない内に住み着いていたわけ?

 包丁を女に向かって投擲し、左手薬指に深く突き刺さる。切断には至らない。

 ゆっくりと近づくと、結婚式の時に入場曲として聞いた曲を口ずさみ、男の指輪を皮膚を巻き込みながら強引に外して、男と女の左手薬指に切り傷の指輪を作った。

 「あはははは。これで満足? 満足? 満足よね? ねえ!? 何か言いなさいよっ!」

 女は再び女に包丁を投げつける。今度は腹部に深く突き刺さった。

 「子供が欲しいですって? ああ、もう出来ていたのかしら? ふふっ、はは」

 笑いながら女は右手で自身の腹を撫で、胸を触って、唇に触れる。そして突然座り込んだ。

 「こんなんだからいけないのよね。こんな女だから、あの人は離れていったんだわ……」

 宛ら子供の様に真紅の水溜りを弄ぶ。

 指で円の模様を描き、それを縦に切る。

 笑いながら涙で濁して、何度も何度も、一度前よりも更に激しく円を切る。

 「あはは、はは。うふふ、ふふふ」

 ゆらりと立ち上がって、

 「もう、いいや」

 そう言い残すと、自身の胸に深く包丁を差し込んだ。


 女が深く永い眠りについても尚、夫とその女が似た顔立ちをしているという事には気付かなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ