真実
A子とC子は重い足取りで歩いていた。
「ねぇ、C子。さっきのって……」
「まるであの怪談みたいだったね……」
「じゃあ、B子って……」
「そんなはずないよ……」
二人はそれ以上何も言わなかった。
放課後、二人で国道へと向かった。A子はC子の肩越しに前を見たが、相変わらず人通りは少なかった。
事故があった場所にパトカーが停まっている。まだ何かしているようだった。
A子が口を開く。
「B子、なんでこんなところに来たんだろうね」
「下校ルートじゃないよね」
「やっぱりあの話」
「やめてよ!ありえない。偶然、ただの偶然だよ」
「うん……」
帰宅したA子は自室のベッドの上で仰向けになっていた。天井を見ながら考えていたことは先程までの会話だった。
(もしもB子の言っていたことが本当なら、どうしてB子はあんな話を私たちにしたんだろうか)
気になったA子はネットであの怪談を調べた。するとあの話が見つかった。話に添付されている画像はモザイクがかかっているが間違いなくあの国道だった。
『「失った足を求める幽霊」
二十年前某国道で大型トラックによる轢き逃げがあった。その被害者はタイヤに巻き込まれて四肢が切断されバラバラになってしまったそうだ。
警察はその遺体を集めたがどうしても片足だけが見つからない。
それ以来、その事故があった場所、事故があった時刻に幽霊が現れるようになった。
そして、そこを通った人にこう聞くのだそうだ。
「足をもらえませんか」
もしそれに答えてしまうと足を取られるという噂だ。』
この話には続きがあった。
『実はこの話には続きあって、この話を聞くと同じ場所で交通事故に遭うらしい。しかも足を失ってしまうそうだ。』
読み終えたA子は息を呑んだ。
翌日。A子はいつものように登校するとC子に挨拶をした。
「おはよう」
「あ、おはよー」
C子はどこか上の空で返事をする。
「ねぇ、C子」
A子が話しかけるとC子は驚いた様子で振り向いた。
「なに?」
「B子の家に行って見ない?」
「は?え?なんで?」
「確かめたいことがあるんだ」
A子は真剣な眼差しでC子を見つめた。
「……う、うん。いいよ」
少しの間があってからC子は了承した。
A子とC子はB子の家にやって来た。チャイムを鳴らすとB子の母親が出てきた。
「A子ちゃんとC子ちゃん……」
B子の母が不安げな顔で二人を見る。
「おばさん、B子に会ってもいいですか?」
A子がそう言うとB子の母は悲しげな表情を浮かべた。
「……ええ、どうぞ」
二人は仏間に案内された。そこには白い布に包まれた四角い小さい箱が置いてあった。
「これがB子……」
「人ってこんなに小さくなっちゃうんだね……」
二人はB子の遺骨に手を合わせた。
しばらく黙祷してから、A子は意を決したように話しはじめた。
「おばさん、あの……」
「なに?」
「B子の遺体……もしかして足が切断されていませんでしたか?」
急におかしなことを言うA子にC子は戸惑った。
「ちょっとA子!いきなり何!?失礼だよ……」
C子が言い終わる前に、A子が言葉を被せた。
「大切なことなんです」
B子の母は最初は戸惑っていたが、真剣なA子の眼差しに静かに頷いた。
「どこでその話を?」
「ありがとうございました」
B子の母の言葉には返答せず、A子は立ち上がり深々と頭を下げた。それに倣ってC子も慌てて頭を下げる。そのままB子の家を出ていった。
「ねぇ、A子!どういうことなの?」
帰り道、B子の家から離れてしばらくしてからA子はようやく口を開いた。
「私調べたんだ。あの話のこと」
A子はスマホを取り出すと、例のサイトを開いてC子に見せつけた。
「えっ?これって……」
C子は目を見開いた。
「そう、同じ話なんだ」
A子が見せたのは都市伝説のまとめページだった。そこに載っていたのはあの怪談とほぼ同じ内容の記事だった。
「まさか……でもどうして?」
「最後まで読んで」
C子は最後まで読んで、ある一文に目が留まった。
『実はこの話には続きあって、この話を聞くと同じ場所で交通事故に遭うらしい。しかも足を失ってしまうそうだ。』
そこで話は終わっている。
「ねぇ、C子」
A子が言うとC子はビクッと体を震わせた。
「これB子と同じじゃない?」
C子は無言でA子の顔を見た。
「ねぇ、C子……」
A子は何かを言いかけたが、C子がそれを遮った。
「A子、やめようよ。違うよきっと」
「違わないよ!だってこの話の通りになったんだよ!?」
「だって……そんなの絶対おかしいよ……」
それから二人は何も言わず帰路についた。
その夜。A子は都市伝説のまとめサイトにこう書き込んだ。
『この話をした友人が事故で死んでしまいました。それも片足が切断されていたようです。この幽霊から逃げる方法はないでしょうか?』
あまり期待はしていなかった。それでも他に頼れる相手もいなかった。藁にもすがる思いでA子は送信ボタンを押した。
朝になっても返信はなかった。
「A子……あれ見て」
登校途中、C子は国道を見て呟いた。
「……うん」
A子は目を逸らした。国道には花束が供えられていた。