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発端

「これは友達の友達から聞いた話なんだけどね。昔、国道の歩道橋のあたりで轢き逃げがあったんだって。それでね、その被害者の人は即死だったんだけど、片足が見つからなかったんだって。それ以来あの場所には轢き逃げがあった時刻に被害者の霊が現れて、聞いてくるんだって「足をよこせぇぇぇぇぇ」って」


 淡々とB子が話していたと思ったら急に「足を寄越せ」でおどろおどろしく声色を変えて話すものだからA子は驚いてC子にしがみついてしまった。


「えっ……なにそれこわ……」

「あぁー、でもこれは作り話だよ?都市伝説みたいなもの。実際に轢かれた人の足のパーツなんて落ちているわけないし」

「だよね!びっくりしたよぉ!」


 A子がほっとしたように言うとB子は笑いながら言った。


「でもさ、もし本当にあったとしてもその被害者さん可哀想じゃない?」


 B子の言っている意味がわからずA子は首を傾げた。するとB子は続けた。


「だってさ、そんな事故に遭ったのに死んでからもまだ痛い思いしてるんでしょ?しかも自分の体の一部も見つからないなんて……きっと今も苦しんでいると思うんだよねぇ。まぁ私にはどうすることもできないけどさ、ちょっと気になっただけ。ごめんね、変なこと言って」


 そう言い残してB子は自分の席に戻っていった。C子とA子は顔を見合わせて苦笑しながら、自分たちの席へと戻った。

 三人は高校からの友達で、いつも一緒に行動している。休み時間はもちろんのこと授業中や移動教室の際など何かあれば三人一緒だった。



 席に戻ったA子は、B子が言っていたことが妙に引っ掛かっていた。


「もしも……本当に轢かれて無くなったのなら……一体どこに行っちゃったんだろう……」


 そう呟いた瞬間、背後に気配を感じて勢いよく振り返ったが誰もいなかった。


「あれ?気のせいかな……」


 不思議に思ったが、もうすぐ教師が来る時間だったのですぐに考えることをやめた。



 授業中、先生の声を聞き流しつつ窓の外を眺めていたA子はふとあることに気がついた。

 それは、先程まで晴れ渡っていた空が曇り始めていることだった。


(傘持ってきてないや。降らないといいな)


 しかし、A子の願いは叶わなかった。昼休みに入ると同時に雨が降り始めてしまったのだ。

 教室の中はまだマシだが外にいる生徒達は困っているようだった。


「うそ……こんな土砂降りになるなんて聞いてないよ……」


 A子は恨めしげに窓の外を見ながら呟くと、隣にいるC子が心配そうな表情で声を掛けてきた。


「ねぇ、大丈夫?帰れる?」

「うん、なんとか……あっ」


 突然声を上げたA子を不審に思ってC子が訊ねる。


「どうしたの?」

「あそこ見て。ほら、校門のところ」


 A子は校門に傘も刺さずに立つ女性を指差した。


「え?どこ?」


 C子は目を細めて見たが何も見えなかったようだ。


「ほら、あの女の人。白いワンピース着てる。なんだろ、この大雨なのに傘もささずに……。あ!もしかしてあの人が噂の……」

「ちょっと止めてよ!」


 C子は怯えたような声を出した。


「あ、ごめんね」


 C子は安心したように息を吐いた。A子は再び外を見たが、そこには誰もいない。道路を打ち付ける雨が飛沫になって跳ねているだけだった。

 放課後になっても止む気配はなく、むしろ酷くなる一方だった。下駄箱の前で靴を履いていると、後ろから声をかけられた。

 振り向くとそこに立っていたのはC子だった。


「一緒に帰ろ」


 C子の手には傘が握られていた。A子は嬉しそうに微笑みながら言った。


「いいよ。途中まで入れてくれる?」


 二人は相合傘で並んで歩き出した。しばらく沈黙が続いたあと、先に口を開いたのはA子だった。


「今日はありがと。おかげで濡れずにすんだよ」

「別にこれくらい大したことじゃないよ。それよりA子の方は大丈夫なの?結構びしょ濡れだけど……」


 言われてみると確かにA子の制服はかなり水分を含んでいた。


「私は平気だよ。家近いし、走って帰るから。じゃあまた明日ね!」

「待って!」


 C子に呼び止められてA子は立ち止まった。


「どうしたの?」

「私もA子の家に行ってもいい?」


 一瞬驚いたA子だったがすぐに笑顔になり答えた。


「もちろん!」


 それからA子はC子に自分の家に案内した。


「ここだよ。狭いけど上がって」

「お邪魔します」


 A子は玄関のドアを開けると、そのまま奥へと入っていった。


「タオル持って来るから適当に座ってて」

「ありがとう」


 C子はリビングにあるソファーに腰掛けた。


 少し待っているとA子がバスタオルを持って戻ってきた。そしてそれをC子に差し出す。


「はい、使って」

「ありがと!」


 キッチンに向かったA子は冷蔵庫から麦茶を取り出しコップに注ぐ。その音を聞きながらC子は渡されたタオルで髪や服の水気を取っていた。


「はい、どうぞ。あんまり冷やしてないけど」

「あ、ごめんね」


 A子も自分の分の麦茶を用意してから向かい合うように座った。

 意を結したようにC子は口を開けた。


「ねぇ、今日B子変だったよね」

「そうだね。急に怖い話なんか始めるしさ」


 A子は苦笑しながら答えた。するとC子は顔をしかめて話を続けた。


「あれ、本当だよ」

「えっ!?」


 C子の言葉にA子は驚いて目を見開いた。


「B子が言ってた事故。あれ親戚の話なんだよね。私の産まれる前の話だから顔も名前も知らないんだけど、親戚のおじさんが言ってた」

「そうなんだ……」

「うん。幽霊の話はわかんないけど、小学生の頃それで花を供えたこともあるよ」

「へぇー……」

「まぁB子も冗談半分で言ってたんだと思うよ。あの子そういうところあるじゃん?」

「まぁ、それはわかるかも」

「でしょ?」


 C子が笑うとA子はほっとした表情を見せた。


 A子とC子が笑い合っているその時刻、B子は冷たい雨に打たれながら道路に力無く横たわっていた。見開かれたその目はどことも言えない虚空を見つめていた。

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