表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/42

ここは耽美な世界ですね(9)

「おっはよう、ジーン。今日はジェレミー様が送ってくださったの? うらやましいわ」

 兄の車から降り、正門から昇降口へと向かう途中で、バシンと背中を叩かれた。少々力の強い彼女は、ジーニアのクラスメートの一人のヘレナだ。彼女は、学院卒業後に騎士団に入団することが決まっている。どこの部隊に配属されるのかはわからないのだが、花形の護衛騎士よりは、他の部隊を望んでいるところが彼女らしい。


「私も、第五騎士隊に配属になれたらいいな」

 と、なぜか恋する乙女のように手を組んでいる。


「え?」

 驚いたジーニアはヘレナの顔をつい見てしまった。

「なぜ、第五?」

 第五騎士隊はジェレミーがまとめあげる隊だ。華やかさとは程遠く、どちらかと言えばむさ苦しい隊。ジーニアにとっては、ジェレミーとグレアムの二人の背景にだけ花が舞っているような、そんなイメージしかない。


「だって。ジェレミー様が隊長になったのでしょ?」


「さすが、ヘレナは情報が早いわね」

 ジーニアが言えばヘレナは「えへへ」と笑っているが、けしてジーニアは彼女のことを褒めたわけではない。


「しかもグレアム様が副隊長でしょ」


「さすが、騎士団入団内定者は、騎士団の内情にも詳しいのね」

 こちらは褒めている。まだ騎士になっていないというのに、それだけ騎士団の組織について調べているのか、と。感心してしまう。


「ジェレミー様の下で仕事ができたとしたら、夢のようじゃない?」


「ヘレナはお兄さまのことが好きなの? ヘレナだったら大歓迎よ」


「ありがとう。でも私、ジェレミー様が好きっていうわけじゃなくて。ジェレミー様とグレアム様が好きっていうか」


 ――ん?


 ジーニアの中の人の腐女子アンテナがピーコンと音を立てて反応した。


「えっと、ヘレナ。もしかして、ジェレグレ?」

 あえてそう表現してみた。知る人しか知らないそれ。


「ジェレグレが本命なんだけど、心の中ではグレジェレっていうか……。っていうか、え? えっ。ジーン、ちょっと。えっ? な、なんで? なんで、あなたがそんなことを知っているの?」

 やはり、腐女子アンテナは正しい。なんとなくこの人そうかも、という会話の節々から感じるときがあり、そのような場合は今のようにアンテナが反応するのだ。


「えっと。お兄さまの妹、だからかしら?」


「なんなのジーン、その誤魔化し方。誤魔化しきれてないから。私のアンテナもビンビン反応してるから」


「てことは、やっぱり?」


「やっぱり?」


「ヘレナも?」


「も、ってことはジーニアも?」


 がしっとヘレナはジーニアに抱き着いた。まだここは外である。昇降口へと向かう生徒たちが、彼女たちの脇を通り抜けていく。他の生徒から見たら、卒業を間近に控え感極まった二人、くらいにしか見えていないだろう。腐女子が同志を見つけて、感極まっているようには見えないはず、だ。多分。


「ヘレナ。苦しい……」


「あ、ごめん、つい。嬉しくて」

 ヘレナがぱっと離れると、少しだけ曲がってしまったジーニアの制服のリボンをきゅっと整える。

「やだやだやだ、どうしよう。ほら、同志がいるってだけで嬉しくない? ほら、私、特に地雷は無いから。グレジェレでもジェレグレでもどっちでもいけるんだけど、ちょっとこう、ね。ああ、どうしよう。もう、授業なんて聞いている場合じゃない。ジーンと語りたい。語り合いたい」


「ヘレナ。気持ちはわかるけれど。私たちは今、学院に通う華の女子学生。とりあえず、今は教室へ向かいましょう」

 やっと昇降口に辿り着いた。靴を履き替えて、二人仲良く教室へと向かう。

 気もそぞろというのは、今のヘレナのことを指すのだろう。いつも落ち着いている彼女が、浮足立っているように見える。だが卒業を間近に控えた今、この教室にいる者たちはたいていそんな感じだ。

 今生の別れというわけでもないのに、どこかしんみりとしている雰囲気もある。旅立ちとはそんなものなのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ