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ここは耽美な世界ですね(4)

 兄のジェレミーの隊長就任は、おめでたいと思うし、妹としても誇らしい気持ちでいっぱいだった。その、昔の記憶さえ思い出さなければ。

 記憶を思い出したところで、寝る前には風呂に入りたいところではあるが、今日はそのような気分にはならなかった。寝間着に着替えると、ベッドへするりと潜り込む。


 このゲームの世界は、日本人がシナリオを考えただけあって、設定は日本と同じ。ただ、建物や登場人物が西欧風というだけで。だから、電気もあるしガスもあるし、ライフラインは日本そのものだ。今だって風呂に入りたいと思ったら、すぐさまそれは叶うのだが。ただ、ジーニアとしてそのような気分にならなかっただけ。


 ――いくらモブで当て馬であったとしても、死亡ルートは避けたい……。


 それが今のジーニアの本音だった。となると、残りのシナリオは二つ。それを必死で思い出す。


 第二のシナリオ。それは『スパダリ攻め』と『誘い受け』だ。ということでこのシナリオに登場する人物を紹介しよう。

『スパダリ攻め』はこの王国の王太子であるクラレンス・レッドマン、二十四歳。ジーニアの兄、ジェレミーの学院時代の同級生でもある。深緑の髪に、黒のメッシュ。ちょっとだけ長い髪を馬の尻尾のように一つに結わえている。そして、情熱的な赤い瞳。『攻め』でありながら、『誘い受け』に翻弄されつつ、やっぱり攻めちゃう彼。さらに王太子という身分そのものがスパダリである。金と権力とそして知性と力で『受け』をさりげなく守っている。

 だが、その『受け』は彼に守られていることにさえ気づかない鈍感男。その鈍感さが『攻め』を誘っていることにさえ気づかない。

 そんな『誘い受け』は宰相の息子であるシリル・ダイグナン、年はクラレンスよりも一つ下の二十三歳。ふんわりとした灰色の髪に、光の加減によっては金色に見える瞳。まるで猫のような彼は性格も猫のように人懐こい。ただ宰相の息子であり、その後を次いで王太子を支える立場にあることから頭は切れる。頭脳派ということもあり、身体もあまり筋肉質ではないのだが、無駄な贅肉はついていない。そして、攻めからの愛撫が良く映えるような白い肌。


 この第二のシナリオはジーニアの中の人の本命シナリオでもある。王道なカップルかもしれない。だが、この二人の美麗スチルは鼻血もんどころではない。こう、胸がきゅきゅっと疼くのだ。そして、背中に腐女子特有のあのゾクゾク感が攻め寄せてくるような、そんなカップル。

 よく赤ん坊はどれだけ見ていても飽きないと言うけれど、このカップルこそジーニアの中の人にとってはそのような存在である。何時間見ても、何日見ても飽きない。むしろ、部屋の壁にポスターとして飾って毎日拝みたいくらいだ。


 ――うわぁあ、尊い。しかも、あの卒業パーティにも参加されるのよね。


 クラレンスは王太子という立場もあり、王立学院の卒業パーティで乾杯の儀を行う重要人物だ。乾杯してそのグラスを飲み干す姿。ごくごくと喉仏が上下するする姿を生で見てしまったら、ジーニアは倒れてしまうかもしれない。

 意識をしっかり持て、ジーニア。と自分に言い聞かせながら、再び記憶を掘り起こす。


 第二のシナリオはその乾杯のシーンが重要である。この乾杯のグラスをクラレンスが誰からもらうかによって、シナリオが分岐したはず。

 ところが、肝心な『誰からもらうか』というところは覚えていない。ただグラスが二つあって、どちらかが毒入りのグラスで、それを乾杯の儀で手にしたクラレンスが「犯人はあいつだ」とかなんとか言って、シリルが追いかけて捕らえるところから第二のシナリオが始まるのだ。


『私は大したことは無い。お前はあいつを追え』


 胸元を苦しそうに抑えているクラレンスを心配そうに見つめながらも、護衛騎士に彼を託し、普段は頭脳派であるシリルが隠していた身体的能力を発揮する、という。


 ――ダメだ。かっこよすぎる。


 ジーニアはむくりと起きあがると、正座して「ぬぉぉおおおおっ」と悶えながら、頭頂を枕に刺した。


 ――いや、ちょっと待てよ。

 クラレンスが毒で胸を押さえるシーンは、この第二のシナリオの流れではない。むしろ、第三のシナリオの流れだ。


 では、クラレンスとシリルのシナリオを進めるための分岐とはなんだったのか。


 ――クラレンスが毒入りグラスを選んではダメなんだ……。


 そう、第二のシナリオをすすめるためには、グラスの中身を飲み干す前に毒入りに気付くこと。つまり、それを飲んではいけないということだ。

 ジーニアはベッドの上で胡坐をかいた。このシナリオを思い出すために。

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