それはメガネ攻めと健気受けですね(2)
そう。実はジーニアはこの部屋に押し込められてから、かれこれ二月が経っていた。最初は傷の痛みで動くこともできなかったが、徐々に動けるように行動範囲が広がっていく。それでもまだ、彼付きの侍女として仕事をこなせるところにまではいたっていない。ただ、この王宮内をちょろちょろと動き回ることしかできないのだ。
「私がシリルに黙って休める場を作ってくれれば、それだけでいい」
「そうですか?」
ジーニアは首を傾げて尋ねれば、クラレンスも「そうだ」と答える。
「私はそろそろ戻る。いい加減、シリルに探されそうだからな。せっかく君と二人でいることができる時間を、シリルにぶち壊されてしまうのは悔しいからな」
そこで寝台を軋ませてクラレンスが立ち上がった。
「そういえば君は、ここに誰か知り合いはいるのか? ジェレミー以外に。もう少し、他の人と会って話をしたほうがいいのではないか? その方が気も晴れて、怪我の具合もよくなるかもしれない」
その言葉が気休めだとわかっているが、それでもクラレンスがジーニアのことを気遣ってくれることがよくわかった。
「そうですね。兄以外でしたら……」
そこでヘレナの名を出す。どうやらクラレンスはヘレナのことを知っていたようだ。さすが、ああ見えても優秀な女性騎士。
「ヘレナ嬢と会えるように根回しをしてやる」
そう言ってクラレンスは部屋を出ていく。
――久しぶりにヘレナと会える。
ヘレナと会ったらあんな話やこんな話をしようと思っているジーニアにとって、魂が救われるような一言であった。
そしてクラレンスが約束を守ってくれたことを知ったのは、それから三日後だった。本当にヘレナが遊びに来てくれたのだ、この部屋に。
「ジーン……」
シリルに連れられて部屋へとやってきたヘレナは泣きそうになるほど顔を歪ませていた。
感動の再会を邪魔していけないと思ったのか、シリルは「後でお迎えにあがります」という一言だけ残して、さっさと部屋から出て行ったのだが、ヘレナが泣きそうになっているのはジーニアと再会ができたから、ではないことにジーニアだって気付いている。
「し、し、し、シリル様が。シリル様が。私のお迎えにきてくださったのよ。あのシリル様よ。クラシリのシリル様よ」
「うん、予想通りの反応をありがとう。ヘレナ」
「だって、だって、だって。シリル様よ?」
「まあまあ、落ち着いて。あ、お茶でも飲まない?」
「ジーン。あなた、そんなに動いて大丈夫なの? この部屋で療養しているって聞いてるんだけど」
「あ、うん。普段の生活をするくらいなら、特に問題はないの。だけど、クラレンス様付きの侍女として、一通りのことをこなすのは難しくて。それで、まだここでお世話になっているの」
「そうなの? 意外と大変だったのね。あ、ありがと」
「そう、そうなのよ。大変なのよ。聞いてよ」
と語り出したジーニアは止まらない。クラシリに始まり、グレアムを挟んで、クラシリで終わる。
「え? あのグレアム様って婚約者いたの?」
「って、お兄さまが言っていて。だけど、もう、解消されたらしいのよ?」
「てことは、フラグが立ったとか?」
「何の?」
「ジェレグレ」
「でも、それは回避できたわけでしょう? あの分岐で私が死んでないのだから」
「でも、死にかけたじゃない?」
死にかけた、のだろうか。死んだかも、とは思ったけれど。
「え、てことは……。知らないうちにジェレグレルートに進んじゃったってこと?」
「うーん、どうだろう。王道ジェレグレとは違うのよね」
ヘレナは唸るしかない。
一体、このルートはどこの何を目指しているのだろうか。
「私としては、究極プレミアム裏ルート希望なんだけど……」
と言う、ヘレナの呟きが聞こえてきたのだが、それはジーニアの耳をただ通り抜けていくだけだった。




