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それはワンコ系攻めとツンデレ受けですね(7)

 ジーニアが部屋に戻るまで付き添ってくれたのはグレアムだ。むしろ彼の隣にいるべき人間は自分ではないとジーニアは思っている。そんな彼の正当な相手であるジェレミーは今、ジーニアから聞いた話を報告書としてまとめているようだ。もちろん、ジーニアの名前は外部に漏れないようにして報告するらしい。


「ジーニア嬢、どうかされましたか? 傷口が痛みますか?」

 ワンコ系攻めとツンデレ受けを考えていたジーニアであるが、隣にいる彼からツンは感じられなかった。もしかして、ジーニアがジェレミーの関係者だから、ツンな部分を隠しているのだろうか。むしろ、もっとツンツンしてくれても構わないのに、そして兄の前だけでデレてくれればいいのに、と、そんなくだらないことを考えていた矢先だった。


「あ、いえ。なんでもありません」


「そうですか。まだ、傷も治りきっていないのに、部屋から連れ出してしまって申し訳ありませんでした」


「いえ、グレアム様。大丈夫です。その、頭をあげてください」

 突然立ち止まってピシッと腰から九十度に頭を下げたグレアムに、ジーニアは慌ててしまう。そのジーニアの動きはまるで小動物のよう。ふるふると手を振って、挙動不審な小動物。


「……っ」

 そんな小動物のような動きのせいか、傷口が引き攣れた。


「ジーニア嬢、大丈夫ですか? やはり傷口が痛むのですね」

 ジーニアの身体がふわりと浮いたような気がしたのは、グレアムが彼女の身体を持ち上げたから。乱暴に持ち上げたのではない。背中と太腿に手を入れて、優しくふわりと。いわゆる横抱きというもの。


「え、ええっ」


 急に横抱きされてしまったジーニアとしては驚くことしかできない。しかも相手はあのグレアム。


「グレアム様。その、恥ずかしいのでおろしてください」

 ジーニアが恥ずかしいと口をするにも理由がある。ここは人通りがある場所だから。そしてこの廊下を進み、突き当りを右へ、さらに進んで突き当りを左側に進めば、ジーニアが与えられた部屋で、その部屋の付近まで行けば人の行き交いも減るのだが。


「ですが。ジーニア嬢は怪我をされているし、今も痛む様子。無理をされては怪我の治りが遅くなります。そうなれば隊長も心配されるので。今はこうして私を頼ってください」


 そんなツンデレ受けにそんな言葉をかけられて、断ることなどできるだろうか。いや、できない。できるわけがない。断ったら罰が当たるというもの。

「はい……」

 消え入るような声で、恥ずかしそうにジーニアは返事をした。実際、本当に恥ずかしいのだ。抱かれながらも、ジーニアは顔を伏せるようにして頭をグレアムの胸元に預ける。それは不安定でそこに頭を預けなければ落ちそうになってしまうからであって、不可抗力であると思っていただきたい。そして、絶対に兄であるジェレミーには見られたくない、と。そう思っていた。

 グレアムはジーニアを抱いたまま、廊下を進み、突き当りを右に曲がって、さらに進み、その突き当りで左へと曲がった。ここまで来れば人も少ない。グレアムの表情を確認するかのように、ジーニアは顔をあげた。


 ――やっぱり、かっこいいかも……。


「ジーニア嬢の部屋は、こちらで合っておりますか?」

 部屋へと入る前に、グレアムは部屋の確認までしてくれた。はい、と俯きながらジーニアは答える。

 グレアムはジーニアを抱きかかえたまま、器用に扉を開けて部屋へと入っていく。


「あ」

 とグレアムが、気の抜けた声を出したのは、ジーニアの部屋のソファに一人の男が足を組んで腕を組んで座っていたからだ。

「クラレンス殿下……」

 というグレアムの呟きで、クラレンスがそこにいたことにジーニアは気付く。

「どうかされましたか?」


「彼女を待っていた。私も、あのときの事件の話を聞きたいからな。ジェレミーに同席させて欲しいと頼んだら、騎士団以外は駄目だと断られてね」


「そうでしたか。こちらで聞いた話は、いくら殿下であっても、調査のために公にすることができないのです。申し訳ありません」


「ああ。それはジェレミーからも聞いている。だから、私が個人的に彼女から話を聞き出すつもりで待っていた。それは問題ないと、ジェレミーに言われたからな」


「なるほど」


「ところでグレアム。なぜ君は彼女を抱いているのだ?」

 そこでクラレンスの右の眉尻がピクリと動いた。これに気付いた者は誰もいない。クラレンスでさえも。


「どうやら傷口が痛むようで。それでこちらまで連れてきました。ジーニア嬢、どちらにおろしましょうか?」

 グレアムがにっこりと微笑みながら尋ねてくれるので、ジーニアはドキリと頬を赤くしてしまう。

「寝台の……」

 上にと言いたかったのだが、それを遮ったのはクラレンスが答えたからだ。


「これから私が彼女から話を聞き出す。だから、私の隣におろせ」

「承知しました」

 グレアムにとって、クラレンスの言葉は絶対だ。いくらそれが白くても彼が黒と言えば黒になるくらいに。だからクラレンスの隣にと言われれば、グレアムはそれに従うだけ。例え、ジーニアが嫌がっている素振りを見せたとしても。

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