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それはワンコ系攻めとツンデレ受けですね(6)

「だって、ちらちらちらちらちらちら、と。こちらの気が散るくらいに見ていたのですよ。そうしたら、何があるのかしら、と気になるじゃないですか」


「ん、まあ。そうだな。だが、他の者は気付かなかったようだが」


「それは恐らく、みなさん、自分のグラスを受け取ることに夢中になっていたからではありませんか?」


 ジーニアは「クラレンスが誰からグラスを受け取るのが重要な分岐点だから、目を逸らさずに見てました」とは、さすがに言えないと思ったため、適当なことを口にした。


「そうかもしれないな」

 とジェレミーが納得したということは、適当な言葉が、ある意味適当だったのだろう。


「それで、そのバルコニーの方を見てみたら。これまた何やら怪しく光るものが。うまくカーテンの陰に隠れているようでしたが、恐らく、その武器が何かの光を反射していたのでしょうね」


「つまり、そのバルコニーに敵が隠れていたということだな。実はその証言はペトルからとれていない」


「え、どうなのですか? あの禿親父……、ではなかった大臣がですね、グラスを持っていない方の手で、何やら合図を送っていたようにも見えたのですが」


「ほほう。ジーニア。それはいい話を聞いた。あの禿親父はな、自分は関係ないと言っているんだ。だけど、合図を送ったということは関係ないとは言えない、よな?」

 ジェレミーの目つきが鋭くなる。このような目で問い詰められたら、思わず泣いてしまうかもしれない。


「もしかして、お兄さま。私がそのようなことを言って、あの禿親父に狙われることはありませんか?」

 ジーニアは、騎士団さえ知らなかった情報を提供したのだ。それは禿親父、ではなくペトルを尋問するために優位に働くことだろう。

「それに。ただでさえ、クラレンス様を助けて。その、相手からしたら邪魔な奴と、思われているわけですよね」


「まあ、そうだな。だが、それの心配には及ばない。あの状況で、お前はただ巻き込まれた可哀そうな参加者扱いになっているだけだから」


「え?」


「お前がクラレンス殿下を助けたということは、一部の人間しか知らない。むしろ、あの騒ぎに巻き込まれて怪我をした可哀そうなトンプソン家の娘、という扱いになっている」


「え、なんか悲劇のヒロインから、一気にどんくさいヒロインに変わったような……」


「どんくさいヒロインの方が、命は狙われないから安心しろ。それに今日の話だって、ジーニアから聞いたと言うことも公にはしない。俺より上の人間だけにしか報告もしない。だから、それも安心しろ」


「そう、なのですね」


「ああ、そうだ」

 ジェレミーは大きく頷いた。それでも、どこか不安というものは残っているもので。そのジーニアの気持ちを敏感に感じ取ったジェレミーは続ける。

「あの事件で、人生が大きく変わったのは、何もお前だけじゃないんだぞ?」

 ニタニタという表現が似合いそうな笑みを浮かべたジェレミーは、隣のグレアムを見た。グレアムは、苦笑を浮かべて頷いた。


 ――な、何。今の。言葉がなくても通じ合っちゃう、的な?


 ジーニアの心の中は暴走し始めた。何が始まるのかという不安と期待と。


「実はな、このグレアム。あの事件のあと、婚約が解消された」


「は?」


「どうやら、ああいった事件に巻き込まれたこと、あの事件を事前に防ぐことができなかったことを。その、相手がだな、よく思わなかったらしくてな……」


 ――え、そんな理由で?


「つまり。危険なことに巻き込まれたくない、っていうのが相手の思いなんだろうな。俺たち騎士団の仕事なんて、常に危険と隣り合わせだっつうの」

 恐らく最後の荒れた言葉は、ジェレミーの心の中を表しているのだろう。たったそれだけの理由で婚約が解消されてしまったことに。


 当のグレアムは兄妹のやり取りを見て苦笑しているだけ。


「そう、だったのですね。グレアム様も辛いお立場なのに……」

 ジーニアの眉尻が垂れさがってしまった。それを見てグレアムも焦り出す。もしかして、彼女が今にも泣き出すのではないか、と思ってしまったから。


「ジーニア嬢、私のことはお気になさらず。元々、家同士が勝手に決めた婚約。相手も私のことを何とも思っていなかったのです。それに、どうやら他に好きな方がいらしたようで。今回の件は、体のいい、言い訳にされただけです」


「ですが……」


「ジーニア嬢は勇敢なだけでなく、人の心に寄り添ってくださる、とても優しい方なのですね」

 そう言って微笑むグレアムの姿が、どこか辛そうにも見える。


「おいおい、グレイ。俺の妹に惚れるなよ」

 本気とも冗談とも言えないような、ジェレミーの言葉が響いた。

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