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ここは耽美な世界ですね(1)

「お兄さま、第五騎士隊の隊長就任、おめでとうございます」


「ありがとう、ジーン。ジーンにそう言ってもらえると、頑張った甲斐があったなぁ」

 お兄さまと呼ばれた男が、ジーンという少女を抱き締め頬にちゅっと口づけた瞬間。


 ――あ、思い出した。


 ジーンことジーニア・トンプソン。このトンプソン家の長女。父と母と兄と、そしてジーニアの四人家族。兄は、王立騎士団第五騎士隊隊長に就任したばかりのジェレミー・トンプソン。今、ジーニアの頬にちゅっと口づけをした男だ。

 父と母は嬉しそうに二人を見守っているし、ジーニアも「お兄さま、くすぐったいですからやめてください」なんて言っているけど、それを一歩引いて眺めているようなジーニア自身がいた。それはジーニアの意識の中にある意識。ジーニアの前世といっても過言ではないかもしれないそれ。

 不思議なことに、今ジェレミーとじゃれ合っているジーニアとしての行動を取りながらも、別なジーニアが心の中にいるような感覚だった。夢を見た時に、自分が動いているのを空から見ているような、そんな感覚。つまり今、ジーニアにとっては夢を見ているような状態になっているということなのか。


 ――ジーニア・トンプソンって、あの『光り輝く君の中へ』に出てくるキャラよね。


 ジーニアがジーニアとして生を受ける前の記憶を思い出したジーニアの意識は、バクバクと焦っていた。

 それでも、ジーニアの身体は。

「お兄さま、お祝いのケーキを食べましょう」

 と兄の腕をとって、椅子に座らせている。

「お兄さま。お兄さまはどのケーキがいいですか? 今日は、お兄さまの大好きなケーキを、料理人に頼んでたくさん作ってもらったのです」


「これはすごいな。こんなにたくさん?」


「ええ、だって今日はお兄さまの就任祝いですもの。こうやって、お父さまやお母さまたちと、お兄さまのお祝いをしたかったのです」


「ジーニアにそんなことを言われたら、嬉しいな。隊長に就任するよりも嬉しいよ」


「まあ、お兄さまったら。ねえねえ、お父さまもお母さまも、早く食べましょうよ」

 テーブルの上に並んだたくさんのケーキと、両親の顔を交互に見つめているジーニア。


「ジェミーよりもジーンの方が、早くケーキが食べたくて仕方ないようだな。ジェミーの好物を集めたというのに」

 ははっと笑って父が席につく。


「目の前にこんな美味しそうなものがあったら、いくらお兄さまのために準備したものであっても、早く食べたくなるに決まっているわ。ね、お母さま」


「そうね。トンプソン家の女性は、甘い物には目がないのよ、あなた。覚えておいてちょうだい。次は、ジーンの卒業祝いですから」

 それは娘の卒業祝いにもこのようにたくさんのケーキを準備しろ、と母親が父親に向かって言っているのだ。


「そうか。ジーンももう卒業か。時の流れとは、早いものだな」

 と、なぜかジェレミーが感慨深く耽っている。


「お兄さま、そういうのはもういいですから。早く食べましょう」

 ジーニアのその一言で、やっと家族はケーキに手を伸ばし始めた。ジーニアはケーキの甘さで口腔内を満たされながらも、やっと身体と意識が一つになったような感じがした。

 ケーキを食べながら、ジーニアがジーニアとして生を受ける前について、をゆっくりと思い出す。

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