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地殻獣の吐息が満ちるその時まで  作者: 登美川ステファニイ
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序 これを見つけた人へ

挿絵(By みてみん)


 倒木から茸が生えているのを見た事があるだろうか? 倒れ腐りかけ苔むした木の幹から、茶色や白や橙色や、そして色々な形の茸が生えているのを。

 私はそれを、表面に付着した胞子が普通の植物のように根を伸ばし栄養を吸収し生えているのだとばかり思っていた。

 実際は違っていて、菌の菌糸が朽ち木の中に十分に広がり、繁殖のための栄養が十分になった時に茸が生えてくる。茸とは成長の過程ではない。繁殖という行為の最終段階なのだ。そして胞子をまき、新たな苗床を探す。

 彼らの生態はそれに似ていた。

 恐らく、地球に彼らが訪れたのは偶然だったはずだ。どこかの崩壊した惑星からその破片が地球に飛来したのだ。それは数億年、あるいは数十億年も前になるのだろう。地球の生命のありようがまだ定まらなかった頃、様々な命が生まれ消えていった頃。そのような時代に、彼らは地球へとやってきたのだ。その年代の特定は未だ成されていないが、それはもう、今の人類にとっては重要なことではない。重要なのは、彼らをどうやったら殺せるのかということだ。

 今現在、世界の環境は変わり続けている。彼ら……地殻獣の吐き出すガス、地殻の青、クラストブルーが地球を青く染めていく。酸素を必要とする生物は細胞内呼吸を阻害され、窒息により次々と死に絶えている。野生動物も海洋の魚類もほとんどが死んだ。穀物や野菜も同様であり、美しい青が死とともに世界を覆いつくしていた。

 最後に残る種族は何だろうか? かつて、三十億年以上も前のシルル紀に光合成をする藍藻類が生まれた時、その当時の生物にとっては、光合成で生み出される酸素は猛毒だった。しかし海中に酸素が放出され何億年もかけて飽和した時、酸素はついに大気中に解き放たれた。そして、酸素に適応した種は今の生物種につながっている。適応できなかった、おびただしい数の種族の死と引き換えに。

 空が青色に染まる。風に漂うクラストブルーが雲と一緒に流れていく。もはや、空の青は我々の知る青ではなかった。この青い大気に適応できなかった人類という種族は、きっと滅んで消えて行ってしまう。

 地殻獣が地上に現れ、噴き出す吐息が世界を変えていく。我々にできることはもう少ないけれど、それでも、私はこの記録を残さずにはいられない。

 岩の壁に自らの手形を吹き付けるように、いくつもの石を刻み積み上げるように、永遠に燃え続ける火を求めるように、私は写真を撮り、それを残していく。

 全ては飲み込まれるかもしれない。地殻獣の作り出す地裂は地表を引き裂き、人の営為を呑み込んでいく。人の作った建築物など造作もなく破壊してしまう。残るものなど、きっと何もないのだ。

 それでも、私は祈り、ここに記す。私たちが人間であった証を、私たち自身が忘れないために。あなたが、この写真を見てくれることを願って。

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