目覚め
シューと空気が抜けるような音がする。
音を立ててカプセルの上半分が開く。
俺は目を開けて、カプセルの中からでる。
ついに俺が目覚めた。目覚めてしまった。
「おはようございます、マスター」
機械質な声がする。声の主は俺の近くを飛んでいる小さな鳥型の機械、トリルだ。
「今は神聖歴655年。貴方がコールドスリープに入ってから1203年が経ちました」
トリルは俺の周りを飛び回る。つられて俺も周りを見回す。
俺が今いるのは宇宙ステーションの中だ。窓の外では無数の恒星が輝いている。
「マスターが目覚めた理由、分かりますよね」
トリルの質問に俺は頷いた。俺が入っていたカプセルの中にある武器を手に取る。剣を2つ柄をくっつけたような見た目の武器だ。俺たちはこれをツインブレイドと呼んでいた。
俺はまっすぐ、降下用カプセルの方へ歩いた。
「すでに座標設定は終わっています。降下予定地はルグオル王国。首都ルグオルの近くの森です」
トリルの説明は続く。
「現在ルグオルでは国をまとめ上げている貴族や王族が堕落し、国を守る騎士団すら盗賊の真似事をするしまつ。さらに、この国に封印された厄神クトゥロギウスに復活の兆しがあります」
なるほどな。
降下用カプセルに俺の姿が映し出される。身体にぴったりの黒色のスーツ。ところどころに光る緑色の線が入っている。
俺は降下用カプセルの扉を開けて中に入る。トリルが俺の肩の上にとまる。
「それでは、降下します」
扉が閉まり、鍵がかかる。ガコッという音の後にくる浮遊感。
宇宙ステーションから切り離されたカプセルが重力に引かれて落ちていく。
「はあ、はあ」
少女が走る。急いで走る。さっき見たものを伝えるために。
「皆!」
少女は村につくと、全員に呼びかける。
「どうした、サラ?」
「帝国兵が、帝国兵が近くまで」
「俺たちがなんだって?」
鎧を身にまとった男たちが村のすぐそばまで来ていた。
「お、なかなかな上玉じゃん」
「こんな村にも来てみるもんだな」
男たちはサラに対し、下卑た視線を向ける。
「よし、ここの村の食料と女を集めてこい」
「はっ!」
リーダー格と思われる男が命令すると、男たちは村の中に入っていく。
「貴様ら!勝手に、ぐはっ」
「男に用はねえんだよ!」
男たちは村の男性たちを容赦なく殺していく。
「あ、ああ」
「嬢ちゃんの相手は俺だ」
リーダー格の男がサラに迫る。サラは震えることしかできない。
(誰か、助けて)
大気圏を抜け、眼下に森が見え始める。カプセルが分解し、俺を外に放り出す。俺はそのまま森の中にダイブし、着地する。
着地の瞬間、半重力装置が働き、落下の衝撃を打ち消してくれる。
「な、なんだ!?」
男の驚いたような声が聞こえる。
俺は周りを見回した。どうやらここは小さな集落のようだ。
「申し訳ありません。どうやら座標が少しずれてしまったようです」
トリルがそう言う。どうやらここは首都ルグオルからは大分離れた場所のようだ。
「星の戦士さま?」
国が混乱し、混沌となるとき、厄神は復活する。しかし、希望を捨てるなかれ。厄神が復活するとき、空の彼方より星の戦士が現れる。(経典第3巻第2章)
少女の声がした。地面にへたり込んでいる彼女のものだろうか。
「なんだ、てめえ」
鎧を着た男がこちらを睨み付けてくる。
「マスター、あの鎧はルグオル帝国の帝国兵のものです」
トリルが報告する。
「どうやら彼らはこの村を襲っているようです。彼らを鎮圧しましょう」
「鎮圧だぁ?いきなり現れて何言ってんだ。おい、てめーら」
男が叫ぶと俺の周りを帝国兵が取り囲んだ。
「どうやらこいつは1人で俺たちを鎮圧するんだとよ」
周りから笑いが起こる。
「とりあえず、ぶちのめすか」
帝国兵が襲い掛かってくる。剣で斬りかかってくるが、俺はそれをかわし、ツインブレイドで首を刎ねる。
「な、あいつ、一撃で」
驚いているところに迫り、さらに二人切り倒す。
「なんだ、こいつ」
帝国兵が後ずさり始める。俺は黙って近寄っていく。
「ちっ、撤退だ!」
帝国兵が村から去っていく。
「助かったのか?」
村の男性がこちらを恐る恐る見ている。
「帝国兵の撤退を確認、追撃の必要性はないと考えます」
トリルがそう言うので、俺は構えを解いた。
「あんた、何者だ?」
俺は声をかけてきた男性の方を見る。
「見たことない服装だし、帝国兵じゃあねえだろうが」
「星の戦士さまですよね!」
俺が答えようとしたとき横からそう呼ばれた。先ほど地面にへたり込んでいた少女だ。
「私、サラって言います。星の戦士さまですよね!」
星の戦士?と俺は首を傾げた。
「違うんですか?」
そう言うとサラは星の戦士のことを話してくれた。
俺は聞き終わると、なるほど、と思った。その伝承が正しければどうやら星の戦士というのは確かに俺のことを指しているらしい。
俺はサラに向かって頷いた。
「やっぱり!」
「星の戦士、実在したのか」
村の他の人も集まってくる。
俺は伝承がうまく作られているなと考えていた。厄神クトゥロギウスは周りの人間や動物を狂気にする。封印が弱まると力が漏れ出し、狂気になる人間が現れる。
「本当に星の戦士なのか?」
「ちょっとクレス!」
クレスと呼ばれた青年が訝し気な顔をしている。
「だって、さっき空からやってきたし、帝国兵をあっという間に追い払っちゃったし」
「こいつが強いのは認めるよ。でもあれはおとぎ話だぜ?」
クレスがそう言うと確かに、という声が上がってくる。
「なあ、あんた名前は?」
俺はハルトだ、と答えた。
「ハルトか、まあ、村を助けてくれたことには礼を言うよ」
そう言うとクレスは離れていった。
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