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第八話 ―銀狼―


四方から遠吠えが聞こえてくる。姿は見えないが数多く聞こえた。その遠吠えを聞いた俺は心臓が高鳴るのを感じ、全身から汗が噴き出すがそれらは体を冷やした。冷や汗というやつだ。


インディスの報告を聞いているだけでは実感が無かったが、遠吠えを聞いたことによってそれが現実なのだと理解した。




「丸太を挟んでミョリとカナメを護衛する。一片をインディス、もう一片をキャルン、そして残る一片を僕が護る。ミョリは治療と援護を頼む。カナメは動かないでいてくれ。インディス、キャルン、あくまで最優先はカナメの護衛だ。敵の殲滅を優先してカナメに危険が及ぶことが無いように十分注意してくれ」



エミスは各自に細かく指示を出し、それぞれ小さく頷くと各自が静かに配置についた。


不安そうにキョロキョロと辺りを見回している俺をみて隣にいたミョリが微笑みながらやさしく子供を宥める様に言った。



「大丈夫ですよ。心配しなくても。なんせ王護隊の隊長がいるんですから。たかだか人狼種の20や30ものの数ではないですよ」



その言葉で少しは心を落ち着かせる事が出来たが、やはり落ち着かない。


インディスやキャルン、エミスといった面々は最初報告を聞いたときは驚いていた様子だったが、今は武人の目と言った険しい眼差しになっている。



「さーて、突然の出現にびっくりしちゃったけれど久々に暴れられそうだね!」



「ちょっとインディス!エミス隊長の話を聞いていたの!?護衛が最優先ですからね!」



インディスとキャルンが持ち場につきながらそんな会話をしている。この二人はいつもこんな感じなのだろう。


3方向をそれぞれ1人が護る。華奢と言って差し支えない女性に護られる男と言うのは実に情けない・・・・・・


しかし、その背中は不思議と大きく感じられた。



「来るぞ!ミョリ!」



「は、はい!プロテーゲ・デンディジオン<王を守護する盾に祝福を>!」



インディスの掛け越えに合わせてミョリが魔法を唱えたようだ。


ミョリの手から光が打ちあがると、そこから5つに分かれて俺たち全員に降り注いだ。


自分の手足を見ると薄っすらと光を放っているように見える。



「皆さん怪我をしないように気を付けて!怪我をされたら直ぐ教えてください!」



ミョリが全員にエールを送る。俺もがんばれ!と応援したいところではあったが、固唾を飲んで見守ることしかできなかった。



「これは訓練ではない!容赦なく急所を狙え!我々は王護隊だ!臆することなく守り抜け!」



「「「承知!!!」」」



エミスが全員を鼓舞するのと同時に、森の木々から赤い小さな光がいくつも並んでいるのが見える。が、相当数ある。ざっと見渡しただけでも50はくだらないだろうか。



「おいおいインディス・・・・・・話が違うぞ・・・・・・50はいるんじゃないのかこれは・・・・・・」



「おっかしいなー・・・・・・さっきは確かに20匹ぐらいだったのに・・・・・・今見たら相当増えているみたいです。つっても人狼種ですから。どうとでもなりますよ」



「それもそうだな。急に囲まれて遅れを取ったが人狼種など物の数ではない。各自気を引き締めてかかれ!」



そう言ってエミスが背中の長剣を抜いた。が、しかし刀身が見当たらない。だが剣を抜く動作は長剣を抜く動作そのものだった。



「人狼種であれば火属性が有効ではあるが、延焼してはやっかいだ。ここは雷属性が得策だろう」



そうエミスが呟くと、エミス足元に魔方陣の様なものが現れて魔方陣から光が放射する。風も四方八方からエミスに向かって吹いている様だ。そして先ほどまで見えなかったエミスの持っている長剣の刀身部分を見ると、稲妻が帯電している様な模様が映った刀身が薄っすらと確認できる。表現は悪いが、縁日などで売っているスイッチを押すと刀身が光るタイプのおもちゃの刀剣の様だ。先ほどまで刀身に映っていた稲妻が刀身を覆うように帯電していて、そこから雷光が周囲を明るく照らしている。




ガアアアアアアアアアアアアアッッ!!!




物凄い雄叫びに目をやると、どうやら森から人狼種というのがやってきたようだ。人狼というのは生で見たことは無いが、ファンタジーなどでよく見るウェアウルフの様な人型の狼という格好だったが体毛が白い。いや、銀色だろうか。エミスの目の前に5匹程並んでにじり寄ってきている。さらに奥にも赤い瞳が見える。



「クソ・・・・・・よりによって銀狼か!構わん!食らえ!神帝雷光撃!!」



エミスがそう叫び構えていた剣を振り下ろすと、刀身に帯電していた雷光が刀身から放たれて直進し前方の森を通り抜けて照らす。照らされた森を見ると奥にも多くの人狼種がいるのがわかる。放たれた雷光は一瞬の内に飛んでいき、発光を終えると消えてしまった。


あれ?なんか凄そうな技だったけどこんだけ?なんて呆けてみていると耳を劈くような雷鳴が轟き、先ほど雷光が通った道筋にいくつもの雷が落ちた。


エミスの目の前にいた5匹の人狼種にも雷が落ちたようで、黒焦げになり崩れ落ちた。肉が焼け焦げたような嫌な匂いが漂ってくる。先ほどまでエミスの側に見えていた赤い光はもう見えない。恐らく先ほどの技を受けて全滅してしまったのだろう。



「さっすが隊長!相変わらずド派手ですね!そんじゃーアタシもいっちょやりますか!」



そうインディスが言うと背中に装備していた武器を手に持った。後ろから見て変わった形状の武器だとは思っていたが、どうやら大鋏のようだ。


普段使っている片手で持つ鋏ではなく、立枝切狭の鋏の部分を1m程度の長さに延長したような形状だ。柄より刀身の部分が長い。刀身の片身が白、もう片身が黒に色分けされている。



「護衛対象なんていなけりゃアタシ一人で一掃しちまうんだけどねぇ。しゃーない。地道に狩りますか」



そう言うとインディスは持っていた大鋏を分離させて両手に一本づつ装備しなおした。



「さぁて、何匹ヤレルかなぁ~?いくよッ!」



インディスが大きく振りかぶり両手に持った白と黒の剣を前方に投げる。しかし軌道は明らかに前方へ投げたとは思えない不可解な軌道を描いて森の中へ消えていった。そして森の中から人狼種の断末魔と思しき呻き声と共に赤い光がポツリポツリと消えていく。そして同時に大きなメキメキという音がインディス前方の森から聞こえてきたかと思うと、ドーンという大きな音がいくつも響いてきた。



「インディス!貴女またやらかしましたね!なぜそうやって木を大切にしないんですか!」



「うるさいね!非常時だよ!護衛対象は木じゃないんだ。木を護りながらなんて戦えやしないよ」



「貴女の実力なら人狼種なんて物の数じゃないでしょう!襲ってきたところを迎え撃てば良いのです!」



「専守防衛ってか?性に合わないね。一人でやってな」



キャルンがインディスに突っかかっているが、インディスは歯牙にもかけないようだ。


インディスの手には白と黒の剣が握られている。戻ってきた様子は無かったが、いつの間にか手元に戻ってきている様だ。




「まったく・・・・・・もう少しスマートに戦えないのかしら・・・・・・」




キャルンはそうため息を付きながら愚痴をこぼしているが、既に彼女の前後左右上下すべてに魔方陣が描かれている。エミスの様な強烈な発行はしていないが、ぼんやりとその魔方陣は紫色に光っている。



ガアアアアアアアアアアアアア!!



四足歩行で人狼種2匹がキャルンの目の前から走り出してきた。素早い。森から我々が対陣しているところまでおよそ5mほどあるが、気が付いた時にはすでに1m前。つまり眼前に迫っていた。



「パラリシス・アンプリア!<広域に、拘束する>」



俺が接近に気が付くのとほぼ同時に、キャルンが魔法を唱え終わっていた。


向かってきていた人狼種2匹はその場で硬直し止まっている。どうやら先ほどの魔法の影響か動きたくても動けないようだ。



「既に魔方陣を展開しているから何匹来ようと勝ち目は無いわ。さようなら」



キャルンはそう言うと持っていた杖を地面に突き立てる。



「エイン・クリンゲ・アンプリア!<広域に、影刃を突き立てる>」



さらにキャルンが呪文を唱えると、キャルンの目の前に停止していた人狼種の足元に黒い影が現れたかと思うと、その影が刃の様な形状に変化し人狼種を地面から貫いた。貫いた刃が赤く染まっていく。真っ赤に刃が染まり切ると刃は消えてしまった。



「おーおー、えげつない殺し方をするもんだねぇ魔術師さんは」



「貴女にだけは言われたくありませんわ!」



キャルンの目の前の森に見えていた赤い光も気が付くと消えていた。同様の魔法で倒したしまったのだろうか。



話を聞いていると50匹という割と多い数に四方を包囲されていたはずだが、あっという間に倒してしまったようだ。どうやら3人とも相当に強いのだろう。



「凄いですね・・・・・・皆さん・・・・・・あっという間に倒してしまったんですか?」



「大丈夫だって言ったじゃないですか。王護隊の隊長ですよ。人狼種程度じゃやられませんよ」



あっけに取られて見ている事しかできなかった。俺が異世界という非現実的な世界にいるのだということを痛感していた。しかし、インディスの一言でまた全員に緊張が走った。



「隊長!まだ来ます!さっきの倍はありそうです!」



「何!?どこから湧いてくる!?この不自然な湧き方は常軌を逸している!刺客がいるぞ!人間に絞って索敵しなおせ!」



インディスの報告を受けてエミスが指示を出すが、既に各方向から四足歩行状態の人狼種が駆け寄って来ている状態だった。



「やれやれ。ミョリを護衛に回してアタシに殲滅を任せてもらえりゃ直ぐなんだけどねぇ」



インディスは面倒くさそうにそう言いながら大鋏を巧みに操り向かってくる人狼種の首を刎ねる。



「えー!無理ですよ!衛生兵なんですから!」



などとミョリが注意を逸らした一瞬だった。




俺の体が不意に重力を感じた。



遊園地のアトラクションなどで、急上昇してから急降下するようなアトラクションの急上昇した時の重力だ。




そして目の前に夜空が広がったのを見て、俺は空にいるのだと思ったがそんなことを理解するより前に、体に衝撃が走る。体をギュッと締め付けられている様だ。




「な、なんだこれ!!どうなってんだ!!」




大慌ててで体を動かすも自由が利かない。そして暗闇で何も見えず、見えるのは星明りだけだ。



「さぁて、大事な大事な男の子だからねー。暫く眠ってて頂戴ねー」



俺は何が何やら状況の理解が追い付いていない状況だったが、動けない。空にいる。という事だけは理解できた。



「え?!誰なんだお前!オイ!」



「オヤスミ~」



俺は顔に何か霧吹きの様なものが当たったのを感じると急激な眠気に襲われた。


抗えない。超眠い。瞼を閉じたら一瞬で眠りに落ちるだろう。眠気と言う快楽が俺を誘っているが、状況はそれどころではない。眠っている状況などではない。


――――――誰か助けてくれ・・・・・・




そう呟きながら俺の意識は眠りに落ちて行った。



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