15.学園でのこと
学園へは転移魔法で通学していた。学園の門の影へ転移し、そこから学園へ入る。魔王だとバレないように魔法をかけ、ルーカスを助けた『東の魔女』を探すため、今日も学園を歩き回っていた。
「ちょっとそこの貴方」
振り向くと、そこには糸のように白く細い髪に、光り輝く宝石のようなヴィオレットの瞳の彼女がいた。そして、ぎょっとした。首元に明らかに呪術の痕跡がある。術式を読むと、外すと首が吹っ飛ぶ仕組みらしい。
ーー何故、彼女が?
「聞いてらっしゃるの?」
仁王立ちで、怒ったような、機嫌の悪そうな顔をする。
「嗚呼、なんだ?」
「案内するわ。ついてきて」
そうぶっきらぼうに言う彼女の後ろをついて歩く。そっと指を回転させ魔法をかけると、ぱきんと音がした。呪術を解除したが、魔術は暴発しない。
ーーこいつが、『東の魔女』か?まさか。
「ここが図書館、ここが一年生の教室、ここの階段を上がると二年生の教室。三年生は棟が離れているわ。案内するからついてきなさい」
黙って着いて歩きながら、彼女の動向を見る。怪しいところは特にない。だが、何かおかしい。左太腿に違和感を抱く。
「ちょっと、聞いてらっしゃるの?」
「嗚呼」
「しっかりして頂戴。わたくし、暇じゃないのよ」
「嗚呼」
ムッとした顔をしながらも、校内を案内してくれる。頼んだ覚えはないが、まぁいい。一番魔力量が多いのも、一番成績が優秀なのも、この女ーーシャーロット・フローリーだ。彼女のことは知っている。何をしても優秀の一点だ。目立つから自然と目で追っていたが、接点を持ったことはなかった。
そのとき、チャイムが鳴った。
「あら、ごめんなさい。生徒会の仕事が残っているの。明日また続きを教えるから、そうね…そこの校庭で」
「わかった」
生徒会までしているのか。忙しそうだなと感想を抱きつつ、彼女を目で追うと、つんとした冷たい顔をしていた。
「変な女だな」
ルーカスを呼び出し、『東の魔女』はシャーロット・フローリーかと訊ねると、頷いた。
「魔女ならば、呪術などモノともしないはずだ。何故、彼女は従っているんだ」
ーーさぁ、でも一つ言えるのは、シャーロットはいい子だよ。
ルーカスはそう言い、影に消えていった。
その次の日、言われた通り校庭へ向かった。授業後に手伝いを頼まれ、少し遅くなってしまった。怒られるだろうな、と思いながら彼女を探すとーー笑っていた。
魔物達に囲まれて、嬉しそうに花冠を髪に乗せて、くるりとその場を回ってーー目が合った。
こちらが驚くぐらい、シャーロットは顔を真っ赤にした。ばっと花冠を頭から外し、顔を逸らす。バツが悪そうに冷や汗をかいている。
「…では、行きましょうか」
「いや、なかったことにするな」
「今日は三年生の教室から案内するわ」
「おい」
腕を掴んで振り向かせると、真っ赤になった彼女がいた。目が合うとあわあわと口を意味もなく開閉し、ふいっと無理やり顔を背けた。
「誰にも内緒よ…!」
「……嗚呼」
その時ーー恋に落ちた、のだと思う。なんて愛らしい人なんだと思った。本当はよく笑うのではないか、照れるのではないか、いろんな顔をするのではないか。ーー知りたい、と思った。
「魔物が怖くないのか」
「魔物達はいい子ばかりなのよ。悪戯もするけれど、優しい子達ばかりよ。そうね、この学園の子達は鳥や猫が多いわね。みんな優しいの。貴方もいずれ分かるわ。あなたこそ、魔物は怖くないの?」
「嗚呼。特に誰と仲がいいんだ」
「そうねぇ。特にルーカスかしら。彼はわたくしと幼い頃から友人よ」
「ルーカス、か」
「黒猫のルーカス。魔物よ。この間、聖水の近くで倒れていたの。誰かの悪戯じゃなかったらいいけれど」
「君が治したのか?」
「ええ。ん?治したことを何故知っているの?」
嗚呼、しまった。どう誤魔化すか。
「見ていたからな」
「そうだったのね。あの子、もう大丈夫だから安心して」
「…ありがとう」
「何故貴方がお礼を言うの?変なの」
ーーあ、笑った。
「君は優秀だな。色々聞いてみたいことがる」
「どんとこい、ですわ。勉強も、魔術も、馬術も負けませんわよ」
「面白い」
君はみていて飽きないな。そう言おうとしたのに、屈託なく笑った顔が可愛くて、見惚れてしまった。
「さて、次は実験室に行くわよ」
「嗚呼、頼んだ」
手には大事そうに、花冠が抱かれている。彼女は魔女じゃない。こんな屈託なく笑う子が、魔女の筈がない。刻印は気になるが、それよりもこの子のことが気になる。知りたい。もっと、もっとーー。
「スティーヴン、早く着いてきなさい」
「嗚呼、フローリー嬢」
「…貴方も笑うのね」
ーー俺は笑っていたのか。
驚いていると、彼女は不思議そうに首を傾げる。どうしたの?と音を紡ぐ前に、隣を歩いた。




