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14.散歩

スティーヴンは自分の馬を、シャーロットは村の白馬を借りた。毛並みを整え挨拶をしていると、一人の少女の叫び声が聞こえた。その方向へ目を向けると、落馬した少女と暴れる馬がいた。

「危ない!」

馬の管理人が声を荒げたと同時にシャーロットが走り出す。

「スティーヴン様は女の子を!」

そう言い、馬に駆け寄る。運良くこちらに向かってくる馬に飛び乗り、手綱を握る。

「大丈夫よ、大丈夫」

手綱をいくつか引っ張り、馬の立髪を撫でると、馬は走るのをやめた。

「いい子ね」

馬から降りて撫でてやると、鼻を鳴らした。

「スティーヴン様!女の子は…ーー大丈夫ね」

スティーヴンの方を見ると、回復魔法をかけているところだった。ほっと息をつくと、馬の管理人が駆けつけてきた。

「お嬢さん、馬の扱いに慣れてるね」

「ええ、学校で習っていましたの」

「すごい腕だ。どうだ、競馬でもやるかい」

「いえ、わたくしはお散歩だけで結構ですわ」

「勿体無い!」

「おい」

スティーヴンが女の子を抱いてやってきた。管理人に女の子を渡し、シャーロットの肩を抱く。

「俺の女だ。ナンパはよそでやれ」

「かなりいい腕してましたよ!」

興奮冷めやらぬ様子で言うが、スティーヴンは気に召さないのか、仏頂面だ。

「俺はたちは今から散歩をする。邪魔するなよ」

「はぁい。で、アル、大丈夫か?」

「…はい…」

落胆した様子のアル、と呼ばれた女の子に近寄ると、彼女は驚いたように半歩下がった。

「手綱は握りすぎないで。馬が痛がっちゃうわ。あと目線は遠くへ。筋がいいから大丈夫よ。練習を怠らないで」

「は、はい!」

「頑張ってね」

ひらりと手を振り、スティーヴンと共に自分の馬の元へ向かう。軽々と跨ると、スティーヴンが溜息をついた。

「君の弱点が見つからない」

「あら、ありますよ」

「乗馬までお手のものとは」

「ジャスミンも乗れますのよ」

「知っている」

「では、案内してください、スティーヴン様」

「あぁ、行くぞ」

手綱を持って、スティーヴンが先を走る。馬を軽く蹴り、シャーロットも走り出した。シニアンは川に囲まれている。草原の香りと水の香りが混ざって爽やかな気持ちになる。

「丘の上まで行こう」

「はい」

祝祭の用意をしているのを見ながら、颯爽と丘を登っていく。スティーヴンの髪が夕陽に照らされ、キラキラと輝いている。それが綺麗で眩しい。川の光も、跳ねる魚も、川のような草原も心地良い。はぁ、と肺の中の空気を吐き出し、大きく息を吸う。久々の乗馬は心地いい。学生時代から、ずっと好きだった。学生時代、そういえばスティーヴンと並んで走ったことがあったことを思い出した。あの頃は、なんて綺麗な馬捌きだと思ったが、今も変わらない。馬と息があって、黒い馬の尻尾がゆらゆらと揺れる。姿勢も良く、馬を上手く扱っている。

ーーなんて綺麗なのかしら。

またそんなことを思いながら、微笑む。学生の頃から一緒にいる。なのに、健忘魔法なしで出会ったのはーーあの日。あの日から、私の日常は変わった。彼がいるから、世界が美しく見えるのかもしれない。わたくしは、彼の横に立つのに相応しいのだろうか。いや、相応しくなりたい。誰にも文句を言われないほど完璧な、そんな妃になりたい。

「遠いわね…」

眩しくて目を細める。スティーヴンは何歩も先を歩いている。魔法を操る魔王様。魔物の世界を統べる魔王様。そして、第一王子。どれだけ忙しく、どれだけ責任のある立場なのだろう。わたくしに、何ができるだろう。どうしたら、隣に、胸を張って立てるだろうか。

少しだけ、左太ももの刻印が痛んだ気がした。

「シャーロット、見ろ」

くるりと周り、丘の上から村を見下ろす。

「わぁ…!」

祝祭の準備を手伝うドラゴン。荷台になって何体も列をなして歩いている。そして光り輝く川に囲まれた村の草原は綺麗で、良い匂いがした。綺麗な光景に絶句していると、スティーヴンが優しく笑った。

「君の、その表情が好きだ」

「え?」

「初めて見るものばかりなのだろう?屋敷と学校の往復ばかりしていたと聞いた。世界が広がる瞬間の君は、輝いて見える」

「……恥ずかしながら、わたくしは知らないものばかりです。ですが、スティーヴン様がわたくしの世界を広げてくださいました。これからも、沢山新しいものを見せてください。沢山、隣で」

「勿論だ」

スティーヴンといると、世界が広がる。自分の世間知らずさに嫌気がさすときもあるが、それでも成長ができる嬉しさもある。

「バンターキッシュ王国に到着したら、妃のお勉強があるのですよね?」

「嗚呼。厳しいものになる」

「どんとこい、ですわ!」

笑って見せると、スティーヴンが笑った。

「どうされたのです?」

「いや、昔のことを思い出してな」

「昔の、ですか?」

「氷の女王と転入生の頃の話だ」

「それはわたくしとスティーヴン様のことですの?」

「嗚呼、そうだ。そうだな、時間もある。昔話でもするか、シャーロット」

それも悪くないかと、頷いた。

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