12.家族
「おはようございます、シャーロット様」
目を覚ますと、隣にジャスミンはいなかった。その代わり、侍女の姿をしたいつもの彼女がそこにはいた。
「ジャジー、もう仕事モードなの?」
「当たり前じゃないですか。シャーロット様、熱がありますから、今日は安静に」
キリッとして言うジャスミンと昨日のジャスミンは別人みたいだ。でも、どちらも好きだなぁと思い耽っていると、ジャスミンが不思議そうな顔をしてこちらを見た。
「顔に何かついていますか?」
「ん〜ん、なんでもない」
昨日はあんなに泣いていたのに。と、揶揄ってしまいそうになりながらも、笑う。愛おしい気持ちでいっぱいだ。ジャスミンと寝たのはいつぶりだろうか。子供の頃以来だろう。ジャスミンの手は温かかった。
「モーニングティーです。体起こせますか?」
「平気よ」
重だるい体を起こし、ベッドに腰掛けると、紅茶を渡された。シャーロットの好きなアールグレイ。ミルクなし砂糖なし。ジャスミンが淹れる紅茶は風味があって美味しい。
口に含んで、こくりと飲むと、ドアがノックされた。
「はい」
「俺だ。入っていいか」
「少しお待ちくださいませ」
ジャスミンが答え、主人の髪をある程度整える。顔に白粉を乗せて、紅を塗り、シャーロットに許可を得てからドアを開けた。
「おはよう、ロティー」
「スティーヴン様、おはようございます」
「どうだ、身体の方は」
「平気です」
そう言うと、スティーヴンが隣に腰掛けてきた。
「私は一度失礼します」
気を遣ってか、ジャスミンが部屋を出た。
「正直に言うといい。あの結界はかなり身体に負担がかかる」
「結界?」
「嗚呼、そうか、君は寝ていたか。寝ている間に、魔女から隠す結界を張った。暫くは見つからないだろう」
「ありがとうございます」
「その結界は体が慣れるまで、少し副作用が出る。今は辛いだろう」
スティーヴンの指が顎に触れた。嘘はつかせまいという気持ちが伝わってくる。
「そう、ですね、熱っぽい感じはします」
「痛みはないか?」
「頭が少し」
スティーヴンは額に口付け、切なそうな顔をする。
「すまない。油断をしていた。魔女から狙われるだなんて思いもしなかった。辛い思いをさせたな」
「そんな!謝らないでください!」
油断していたのは自分の方だ。魔女から狙われるだなんて思ってもみなかった。油断していた。あらゆる可能性を加味するべきだった。
「ご心配をおかけしてすみませんでした」
「謝るな。君は何も悪くない」
頭を撫でられ、その手が冷たくて気持ち良くて少し甘える。素直だったことに驚いたのか、スティーヴンが意外そうな顔をした。
「向こうで、魔女に言われました。魔女になったら、醜い刻印と過去を消してると」
「なんだと…!」
「目的は一体、なんなんでしょうか」
スティーヴンは少し考えてから首を振る。わかないらしい。
「嫌な思いをしたな。辛かったろ」
「…少し、怒ってしまいましたし、怖かったですが、ジャジー…ジャスミンが、昨日側にいてくれて」
「嗚呼」
「久しぶりに二人で寝たんです。手を繋いで。昔のように。泣き虫なジャジーを久しぶりに見たわ。本当に、優しい子なんだから」
思わず笑ってしまうと、スティーヴンも笑う。
「本当に、君のことを慕っているな」
「家族ですもの」
そう答えると、スティーヴンは愛おしそうに目を細めて、口付けをした。
「俺も、君と家族になりたい」
はへぇ、と変な声が出そうになった。熱っぽい頭はもっと熱くなり、目線が泳ぐ。
「嫌なのか?」
「かっ、揶揄わないでください!」
「本心だ」
「分かっております!」
「なんだ、照れているのか。可愛いな」
「もうっ、熱があがります!」
「おっと、それはいけない」
そう言ってスティーヴンは立ち上がる。シャーロットの肩を押して寝かせ、布団をかける。
「暫く寝ていれば良くなる。無理はするなよ」
そして唇を塞ぎ、いい子だと髪を撫でる。
久々の甘い動作にドギマギしてしまった。布団をかぶって隠れれば、スティーヴンは優しく笑った。




