5.消えた手記
起きたのは昼近くだった。ジャスミンが呼びかけても起きなかったらしい。熟睡できたから、体が軽い。遅いモーニングティーをもらいながら、ジャスミンと会話する。
「まったく、シャーロット様は成すこと全てがお転婆ですね」
「あはは…。ほんとね」
「起こしても起きないから心配したんですからね」
「ごめんなさい、ジャジー」
スティーヴンも駆けつけ、眠っているだけだと言われ安心したと言う。
紅茶を飲み終わり、簡易的なワンピースに着替える。今日髪は下ろしたままだ。
昨日の魔法陣をまとめて、部屋を出る。これからスティーヴン達に説明しなければならない。正直、あの呪文を教えるのは恥ずかしい。幼稚な呪禁だ。どうしようかと考えているうちに、一角の部屋に通された。
部屋に入ると、スティーヴン、オスカー、ロゼッタ、ジャスミン、グルーストがいた。席に座るよう促され、スティーヴンの隣に腰掛ける。
「それで、どうやってロティーは琥珀石のことを知ったんだ?」
「実は、手記がありまして…」
持ってきたあの手記を手渡すと、スティーヴンが魔法で中を開ける。
「ん?何も書いてないじゃないか」
「え?」
覗き込むと、そこには何も書かれていなかった。白紙の手記を見て、唖然とする。
「この手記に書いてあったんです!琥珀石化のことが!」
驚いてスティーヴンから手記を借りるが、やはりなにも書いていない。
「シャーロット、魔術をかけた時に消してしまったのではないか?」
「え!?」
「かなり高度な魔術がかけられていた。俺が開けるのも魔力がかなりいったぞ」
「…すみません…」
手加減を間違えてしまったらしい。貴重な手記を消してしまったが、魔法陣は覚えている。
「魔法陣にドラゴンを乗せて、呪文を唱えると琥珀石になると書いてありました。これがその魔法陣です」
何枚かスティーヴンに渡すと、眉間に皺を寄せた。
「魔法陣が描けるのか?」
「はい、お父様がよく描かれていらっしゃったので、一筆書きで描けます」
ぎょっとした顔で全員がこちらをみた。おかしなことを言っただろうかと首を傾げると、スティーヴンがため息をついた。
「どこまで優秀なんだ俺の妃は」
「き、妃はまだですよ」
普通こんなに複雑な魔法陣を一筆書きで描ける人なんていない。それを何枚も。
「お嬢さん、頼む、琥珀石化したドラゴンたちを元に戻してくれないか」
グルーストが土下座をする勢いで頭を下げてきた。涙まで流している。それほど大事なドラゴンなのだろう。
「勿論、協力いたします。ただ、ドラゴンに戻す方法は秘密にさせてもらえませんか」
「戻してくれるならなんでも良い。構わん」
「わかりました」
「シャーロット、無理をするな。あの小さい琥珀石でさえ体力を大いに奪ったではないか」
「大丈夫ですよ。わたくしはドラゴンを戻すのに専念しますので、皆さんは討伐の方へ」
納得いかないようで、スティーヴンが唸る。
「夜、一つずつ行おう。俺がそばにいる時にやれ」
「えっ」
スティーヴン様の前であの呪文を…?
恥ずかしすぎる!!
「嫌です!一人でやらせてください!」
「倒れられたら困る。これは譲らん」
ええ〜!そんなぁ。
ごねるのも令嬢あるまじき。一つ頷いて承諾した。
「今夜から一体ずつ召喚しよう」
「はい」
これからかく恥のことを考えていた。




