3.悪戯猫
今夜は雷雨だった。いつものよう悪夢を見て、汗だくで起き上がる。陰からルーカスが出てきた。心配そうに擦り寄ってきたから、優しく額を撫でる。
「大丈夫よ。ありがとう」
「ミー」
「ジャジーは呼ばなくていいわよ?あの子、きっと今日は疲れているから、ぐっすり眠らせてあげましょう?」
「ミー」
「いい子」
ルーカスを撫でると、影に消えていった。タオルを取りに行こうと、そっと扉を開ける。真っ暗で何も見えない。魔導書を取り出し、光の魔術で小さな灯りをつける。足元を照らしながら探索すると、立ち入り禁止エリアの前に来てしまった。
立ち入り禁止と書かれていると気になってしまうが、大人しくすると宣言した手前入るわけにはいかない。振り返り歩みを進めようとした時声が聞こえた。
「今から紹介する部屋は、先ほど説明した琥珀石がある部屋です」
声と灯りが近づいてくる。声の主はグルーストだ。足音は一つではない。おそらくスティーヴン達だろう。こんな汗だくで会うのは嫌だ。そう思って隠れる場所を探すが、ない。鉢合わせしてしまう訳にもいかず、仕方なしに立ち入り禁止と書かれた看板を少しずらして入る。階段になっていた。転けないようにゆっくり降りていく。長い螺旋階段で、こつこつと足音が響く。降りきったところで、目を見張るものがあった。
「これが琥珀石…?」
大量の琥珀石が置かれていた。暗いためよく見えないが、大きさ疎な琥珀石が、そこにはあった。
こつこつと、足音が聞こえる。まずい、スティーヴン達はここに連れてこられたのか。見つかると怒られてしまう。灯りを消して、奥の部屋へと進む。ドアを閉めてみると、そこは一つの部屋だった。簡易的なベッドにトイレ、それだけ。牢屋のようだと思った。
取り敢えず部屋の隅にしゃがみ込み、ばれないように息を殺す。念の為、護身消しの魔術をかける。
息を殺していると、話し声が聞こえてきた。
「ドラゴン遣いの一人が、ドラゴンを琥珀石に変えてしまったんじゃ。儲かるからとな」
手記を思い出して、息を呑む。
「そいつはどうしたんだ」
「あの部屋に閉じ込めて、一生を暮らしてもらったんじゃよ。ドラゴンを琥珀石に変えるなど重罪じゃ」
嗚呼、だからこんなに質素なつくりなのね、と納得しつつ、息を殺す。
「今晩は遅いから、この辺にしておこうかね」
「嗚呼、そうだな」
こつこつと螺旋階段を登る音が聞こえる。完全に音が止むまで、大人しくすると、音が止んだ。部屋から出ようと魔術を消して、光の魔術で部屋を灯し、立ち上がると、からんと音がした。音がした方を見ると、小さな琥珀石が落ちていた。
「あら、こんなところに」
拾ってみると軽く、綺麗に光り輝いていた。
先ほどの部屋に置こうかと思えば、コンコンと部屋をノックされた。驚きすぎて慌てて琥珀石を懐に入れ、隠れる。
「悪戯猫はどこだ?」
スティーヴンだった。
「……にゃ、にゃー…なんて…」
隠れても無駄だと思い出てくると、スティーヴンが目を細めてこちらをみていた。ぱちんと指を鳴らせば、部屋が明るくなる。
「全く。大人しくしているんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったのですが…えーっと…」
「おいで」
スティーヴンの元へ寄ろうとして思い出した。汗だくなのだ。臭いかもしれないと思い、渋っているとスティーヴンから来た。
「来ないでください…!私今汗かいてて」
「そうか」
それだけ言って気にもとめず、シャーロットを抱きしめた。
「怖い夢でも見たのだろう。こういう雷雨の日は悪夢を見ると聞いた」
「は、はい」
「部屋へ戻る前に体を拭いてやろう」
またぱちんと指を鳴らすと、タオルが出てきた。全く、魔法というものはどうなっているか。仕組みが全く分からない。
「ほら、脱いで」
「え!?」
「それじゃあ拭けないだろう?」
「じ、自分でやります!」
「悪戯の罰だ」
「嫌です!恥ずかしい…!」
スティーヴンから逃げて、ドアを開ける。螺旋階段を駆け上がると、スティーヴンは笑いながら追いついてきた。
「そんなに嫌か?」
「嫌です!」
「傷つくなぁ」
「ここで裸になれというのですか!」
「悪かった悪かった」
スティーヴンは悪戯っぽく笑い、頭を撫でてきた。
「悪戯も程々にな。部屋で拭くといい。おやすみ」
軽く額に口付けられ、スティーヴンは何故かご機嫌で部屋へ戻った。




