16.花火
馬に跨って北へ進むと、広い海が見えてきた。騎士団も連れてきたのはいいが、船が多くてどの船にシャーロットが乗っているのかがわからない。
「魔王様!」
「エレフィー」
気まぐれにやってくる妖精のエレフィーが肩に乗った。
「シャーロットが大変よ!船はもう出てしまっているわ!」
「なんだと」
出航してしまったとなると追跡は難しくなる。何か探す目印になるものがあれば。
馬から降りて周囲に聞き込みを行うが、怪しい人物を見たと言う人はいない。
「主犯格は辺境伯のホクで間違いなさそうです。領地を調べるとキクメソウが栽培されていました」
オスカーが馬から降りながら報告をする。短時間で成果を上げるあたり、頼りになる。
「ホクとやらは船にいるのか」
「おそらく」
では、どうやって船を探そうか。手当たり次第乗り込むわけにも行かない。焦りが募る中、エレフィーが言う。
「何か合図を出して貰えばいいんじゃない?シャーロット、魔術が使えるのでしょう?」
「だが、危険だ」
「でも、それ以外どうするの?」
エレフィーに聞かれ、顔を顰める。シャーロットは承諾するだろうが、それも危険も伴う。不審な動きをしたと思われ、危害を加えられたら。
そんなことを考えていても、時間だけが過ぎていく。日も落ちてきた。早く見つけ出さないと。
「エレフィー。シャーロットに頼めるか」
「ええ、伝えに行ってくるわ」
肩から降りて影へ消えた。エレフィーをシャーロットの影と繋いでおいたのは正解だった。ルーカスもいるが、姿形が見えないエレフィーの方が今回はいいだろう。
シャーロットには危険なことをさせたくないが、今回ばかりは彼女の力が必要だ。不甲斐ない自分に飽き飽きする。
「合図が出たらすぐに出るぞ」
「はい」
オスカーが頷き、カイも頷く。待つしかできない自分が嫌で仕方がなかった。
「シャーロット!」
またエレフィーが影から現れた。小さな羽を羽ばたかせながら耳に寄ってくる。
「魔王様達、船が多すぎてどれかわからないらしいの。なにか合図を出して頂戴」
「わかったわ」
確かに、出航してるとなると探すのも一苦労だろう。返答をするとエレフィーはまた影に消えていった。
近くまでスティーヴン達が来ている。それだけでも、シャーロットにとっては大きな救いだった。
薬物が全身を回ってしまわないうちに、合図を出そう。そう決めて、こっそり部屋の外を覗く。
「今晩は大儲けだな!王女もいるってなりゃ、他国には高く売れるぜ」
「下手したら戦争になるぞ、大丈夫なのか?ハク」
「大丈夫さ。次期に彼女も交渉に頷く。そしたら綺麗な顔でお城に戻してやるさ」
そんな会話に聞き耳を立てる。アイナが攫われなくてよかった。そしてアイナの顔を知らない無知な奴らでよかったと、心から思う。
気づかれずに合図を出すのは無理そうだ。隙をみて光の魔術で花火を放とう。
忍ばせていた杖を取り出し、深く息を吐く。冷や汗が流れ落ちるのは緊張か、それとも麻薬のせいか。
「俺酒取ってきますよ」
「おお、俺の分も頼むわ」
「俺も!」
船の上にいるのは五人。一人減るだけでもチャンスになるか。
そう思い、部屋から飛び出す。
「何だ!?」
「お前どうやって!」
困惑の声を上げる男達の隙間を掻い潜り、船頭まで走り抜ける。杖を振って光の魔術を唱えると、暗い空に真っ直ぐな光の線が上がりーー花が咲いた。
「お前…!」
男に捕まり、床に叩きつけられる。ぱりんと音がして、加護が働いたらしい。怪我はしなかった。四六時中つけ外さないイヤリングとピンキーリングのおかげで、護られている。
「どうやって縄を解いた!」
怒声に耳が痛い。無視すると、他の男が船の一室へと入っていき、大声を出す。
「皆、縄が解けているぞ!」
「なんだって!?」
男の隙を逃さず、短剣で胸元を切り付ける。痛みに呻いた隙をついて逃げ、部屋に入ろうとしている男に向かって探検を構える。
「そこの人たちに何かしたら許さないわよ」
「お嬢様一人になにができるってんだよ!」
男が鞘から剣を取り出し、斬りかかろうとした時、煙幕が立ち込めた。
「一人じゃない。こっちは多数だ」
スティーヴンの声だった。煙幕に咳き込むと、肩を抱かれる。剣のぶつかり合う音しか聞こえず、何も見えない。
風に煙幕が流された時見えたものは、縄で縛り上げらられた男達だった。
あっという間にこの場を収めたスティーヴンに呆気に取られていたが、ハッと気がつく。
ーーホクがいない。
辺りを見渡すと、小型舟で逃げるホクが見えた。
逃がすものかとスティーヴンの元から離れ、船から飛び降りる。
「シャーロット!」
その声に背き、ホクを追う。杖を取り出して、ホクに向かって降る。水の魔術だ。波が立ち、渦を巻く。それは次第に大きくなっていってホクの乗っていた船が転覆した。
「逃がさないわよ!ホク!」
自分まで渦に巻き込まれそうになった時、腕を引っ張り上げられた。
「スティーヴン様!」
「無理をするな。もっと頼れ」
船に乗せられると、ジャスミンがすぐにやってきてローブを被せてくれた。
スティーヴンが指を一つぱちんと鳴らすと、波の渦は収まり、ホクが浮かんだ。摘み上げるような動作をすると、僕がその場に浮く。滴り落ちる雫が水面をつくる。
「辺境伯のホクだな。お前の領地でキクメソウが大量に発見された。それを使って果実酒を作っていたな」
ホクは無言だ。ただ悔しそうに唇を噛んでいる。
「あいつは何者だ。ただのお嬢様じゃないのか」
縄に縛り付けられた男が怒鳴る。シャーロットは歩み寄り、淑女の礼をした。
「わたくしは、シャーロット・フローリー。魔王様の婚約者です」
「魔王!?」
ホクも驚いたらしい。眉が上がった。
「俺の婚約者をよくも痛めつけてくれたな」
ドスの効いた声で言えば、立ち待ちに天気が悪くなる。雷鳴も轟き始めれば、波が高くなってきた。
「スティーヴン王子、処分は私が」
殺しかねない勢いのスティーヴンを制したのはカイだった。その言葉に不満そうにしつつ、スティーヴンは指を右に動かし、浮いていたホクを船の上に戻した。
騎士団が捕獲し、腕を縄で縛り上げる。
「なんでカイ王子が…!」
「俺のアイナに何をしようとしたかはあとでゆっくり聞かせてもらおうか」
カイの顔は知っていたようだ。何はともあれ一件落着。ほっと息をついたら、凄まじい頭痛に襲われた。その場に蹲ったシャーロットに、ジャスミンやスティーヴンが駆け寄ってきたがーーそのまま気を失った。




