14.拉致
「シャーロットが誘拐された!?」
別邸に戻ってきた途端にその話を聞かされた。カイと共に遊郭へ捜査に行っていたが、帰ってきてみれば、アイナは大泣きしており、ジャスミンも半泣きだ。
「騎士団は何をしていた!」
「申し訳ありません!」
カイの言葉に、騎士団の隊長が震え上がる。ガタイのいい体が今は小さく見える。
「煙幕が立ち込め、周囲が見えなくなり、アイナ様しか…守れませんでした…」
消え入りそうな声でそう言い、首を垂れる。
「スティーヴン王子、申し訳ない。うちの兵が」
「いや、いい。それよりどこへ拉致されたかすぐに探すぞ」
「はい」
ジャスミンが用意したこの国の地図を机に広げ、それを皆で囲む。ジャスミンがシャーロットが拉致されたアクセサリーショップに印をつける。
「相手は何人だった」
「複数です。窓を割って入ってきました。詳しい人数は分かりませんが、十名程はいたかと」
ジャスミンの言葉に眉を顰める。何故シャーロットがこの国で狙われることになったのだろう。とくに噂は聞きはしなかったが。
「お嬢さん、間違って拐われたとかじゃないっすか?」
オスカーの言葉に頷く。
「あり得るな」
「王族感丸出しでその辺周ってたんでしょう?それならアイナ嬢が目的では?」
「私と間違ってシャーロットが!?」
アイナが悲鳴のような声をあげた。頷くと、アイナその場で項垂れた。
「なんてこと…!」
アイナは両手で顔を覆い、ほろほろと涙を落とす。
「可能性の一つですからね。そんな気になさらないでください」
オスカーがそう言い、マップを見る。
「行き先はどこっすかね」
「付近で不審な馬車を見かけたとの情報が手に入りました。北へ向かっていたと」
ロゼッタの言葉で、皆が地図に視線を向ける。北といえば、海だ。海に向かってどうする。
「ルーカス」
「ミー」
影から黒猫のルーカスが飛び出した。
「シャーロットは無事か」
(大丈夫だよ!今馬車に乗ってる!)
「どこへ向かっている」
そう聞くが、わからないらしい。困った顔で鳴き、くるりとその場で回る。
「ルーカス、お前はシャーロットについていろ」
(わかった!)
ルーカスが影に消えた。直ぐに転移魔法でここへ連れてくることも可能だが、状況がわからない今、それも危険だ。
「拐われたのはシャーロット一人か?」
「…わかりません」
ジャスミンが項垂れ、悔しそうに歯を食いしばる。
「取り敢えず北へ向かう。カイ王子」
「馬を用意します」
「ロゼッタはアイナ嬢を。オスカーはついてこい」
「御意」
二人の返答を聞いてから、外へ出た。
ガタンゴトンと揺れる馬車は硬くて体が痛い。投げ出された身体を動かし、手の縄が取れないか試みるも虚しく、縄は外れてくれない。暫く踠いていると馬車が止まった。
「ひゃっ!」
突然担ぎ上げられた。そしてそのままどこかへ向かう。ぐらりと地面が揺れた感覚の後、床に捨て置かれる。
「きゃっ…!」
自分ではない、何人かの悲鳴を聞くと目隠しが外される。
船の中だった。今にも壊れそうなボロボロの船の一室に、女子供が二十名程いる。どういうことかと辺りを見渡すと、男と目が合った。
「アイナ嬢、貴女にこれをあげよう」
瓶に入った透明の液体に眉を顰める。
「なによ、それ」
「この国の白桃酒さ」
ドッと心臓が鳴った。その白桃酒が麻薬だなんて、もうすでに知っている。
「いらないわ」
「いや、飲んでもらう。これを広めてもらわないと困るんでな」
髪を鷲掴みにし、無理やり飲まそうとしてくる。顔を逸らして逃げていると、床に投げ捨てられた。床に打ち付けられた身体が痛い。
「飲めって!なぁ!」
「きゃあ!」
跨って口をこじ開けてくる。無理矢理にでも飲ませる気だ。またあんな思いをするのはごめんだ。そう思いどうにか魔術を発動させようとしたその時、部屋の扉が開いた。
「出航の時間です。いけませんよ、大事な品に傷をつけたら」
「ホク様!大変申し訳ありません!」
横暴だった男が、直ぐに身体をどかした。ホクと呼ばれた男はこちらを一瞥し、ふっと鼻で笑う。
「いい品が手に入ったな。お前、名は何という」
しゃがんで顎に手を当てる。品性のある服装や動作から貴族であることが窺い知れた。
「アイナよ」
「この国の第一王女なだけあるな。威勢がいい」
そう言い、にこりと笑う。
「私は辺境伯のホクだ。取引をしようか、お姫様」
「その前に、縄を解いてもらえるかしら」
「おっと、それはできないよ。暴れて傷でもついたら大変だ。君も大事な商品なんだから」
商品という言葉に眉を顰める。一体どういうことだ。何が起こっている。
「そんなに怖い顔をしないでおくれ。美しい顔が台無しだよ、アイナ」
そう言い、ホクが踵を返す。
「天気が良くない。波が荒れている。出航は少し待とうかな。その間にアイナ、取引を始めようか」
そう言い、ホクはニヤリとほくそ笑んだ。




