11.復活
寝息をたてるシャーロットは苦しそうだ。この苦しみを全て変わってやりたい。いつもそうだ。魔女だと噂を立てられ、卒業パーティーで断罪され、次は退魔師までもがシャーロットを邪険にし、今度は麻薬か。次々に起こる災難に怒り心頭に発する。シャーロットは心優しい女性だ。彼女を傷つけていいものなど、一つもない。
眠る彼女の純白の髪を梳く。少しでも痛みが、苦しみがなくなるよう、祈りを込める。
三度扉が叩かれた。返事をすると、オスカーが扉を開く。
「情報は手に入ったか」
「はい。シャーロット嬢に薬物を盛った犯人を捕まえました。ですが、出どころを吐きません」
「無理矢理にでも吐かせろ」
「それが、知らないの一点張りで。知らない男に金をやるからこれを配れと言われたとだけ。あと薬物はキクメソウとわかりました」
「そうか。キクメソウの栽培地はどこだ」
「これから調べます」
「わかった。今日はもう休んでいい。明日朝から調べてくれ」
「はい」
オスカーは姿を消した。魔王城へ一足先に戻ったのだろう。ここでは捜査もしにくい。テオドールも使って、麻薬を根底から排除しなければ。
愛する婚約者が麻薬に蝕まれている。額には汗をかいて、苦しそうに口で息をしている。眠らせたのはいいが、いい夢を見ていないようだ。唸る彼女の額に冷たいタオルを乗せ、祈るように手を組む。
(早く、良くなってくれ)
医者によると、一週間ほどは苦しむと言う。離脱症状は苦しく、辛いものだと聞いた。魔法で取り除いてやりたいが、ジャスミンが言っていた通り、何度試しても効かなかった。己の不甲斐なさに怒りが湧く。
「あの時、了解を得ておくべきだった…!」
そうしたらシャーロットは追いかけてこず、白桃酒も飲まずに済んだというのに。
過ぎたことは仕方ないが、どうしても怒りが収まらない。外は雨が降り、雷鳴が轟いている。心情と一致するその天気を目障りに思いつつ、しかし怒りは収まらなかった。
(こんなに小さな身体の中に、どれだけの辛さが詰まっているのか)
身体の傷は見たことがないが、ルーカスから聞いていた。ついている傷は、死なない体質になる前についた傷だと言っていた。何歳の子供に、一体どれだけの痛みを味わせたのか。実父のウェルバートは死罪になったものの、シャーロットは兄のように慕っていたヴィクターにも裏切られた。全くこんなことがあっていいものか。
握りしめた手に力が籠ると、雷が落ちた。
「魔王様」
ロゼッタだった。何の用かと顔を上げると、珍しく困ったような顔をしていた。
「私がシャーロット様を見ていますので、どうか寝てください。もう何日寝ていらっしゃらないのですか」
「途中で数えるのをやめた」
「寝てください」
「いやしかし」
「寝て、仕事をしてください。このままではシャーロット様はまた囮になると言い出しかねません」
否めない意見に、頷く。渋々席を立ち、自室に戻る。シャーロットが心配で眠れるかわからないが、ロゼッタが側についてくれているのなら安心だ。何かあったらすぐに呼んでくれる。
執務室に積まれた書類に目を通してから眠ることにした。
一週間ほど経って、漸くシャーロットは地獄のような熱から覚めた。
「シャーロット様、まだ寝ていた方が…」
「もう大丈夫よ」
伸びをしながら、欠伸をする。ここ一週間寝てばかりだったからか、身体が硬い。咳も軽くなり、怠さもマシになった。全く、麻薬とは恐ろしいものだ。二度と口にしたくない。
「スティーヴン様は?」
「調査に出かけました」
「わたくしも出かけようかしら」
「駄目ですよ。スティーヴン様の許可が降りるまでは屋敷で大人しくしていてもらいますからね」
ジャスミンの勢いに押され、頷くと満足そうに微笑んだ。
「今日のモーニングティーは白桃ですよ」
「あら、この間いただいた?」
「ええ。まだ残りがありましたから」
カップを受け取り、口をつける。桃の香りが広がり、甘みが口の中を駆け抜ける。変わりない美味しさにほっと息を吐く。
「オスカーとロゼッタは?」
「お二人とも調査に出かけています」
「そう…」
(わたくしもお役に立ちたいわ)
何かできることはないかと思案していると、扉が叩かれた。ジャスミンが対応すると、そこにはアイナがいた。
「シャーロット、ご機嫌よう。調子はどう?顔色は少し良くなったみたいね」
「ええ。もうすっかりよくなりましたわ」
「今日は私とこの国の白桃酒を飲みに行かない?街までお出かけしましょう!あ、でもまだ療養が必要でしたら、また今度でいいのよ」
「大丈夫よ。もう元気になったわ」
久しぶりに自分で立ち上がり、アイナの元へ行く。ジャスミンも来るよう言い、支度をさせる。
部屋にいても退屈で仕方がない。クーンメイン王国の街に出掛けられるとなると、心が弾んだ。
「スティーヴン様に出かけると伝えてください。ルーカス」
「ミー」
ジャスミンが伝え、身支度を済ませた。シャーロットはクローゼットから深緑色のワンピースを取り出し、それに着替える。髪はジャスミンに任せて、ローブを着込む。
「暑くない?」
「髪が目立ちますから」
「綺麗な髪なのに、勿体無いわ」
アイナが頬に手を当てて言う。
「そうだわ!今日はたくさん護衛をつけてきましたの!だからローブはお脱ぎになって!」
「いえ、ですが…」
「大丈夫よ!この国の専属騎士が護衛にあたるから、何も心配はないわ」
「わ…わかったわ」
アイナの気迫に押されて、渋々ローブを脱いだ。あみおろされた髪を手で整え、化粧を施してもらう。準備ができた。
「では、行きましょうか」
アイナに手を引かれ、外へと足を踏み出した。




