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9.心配

三日程、高熱に魘され麻薬に身体が蝕まれていたが、四日目の朝、漸く朦朧とした意識から覚めた。

「シャーロット」

声に目を向けると、ベッドの横の椅子に腰掛けるスティーヴンがいた。心配そうにこちらを覗き込み、額のタオルを変えてくれる。

「スティーヴン様…」

声が枯れて喉が痛い。咽せると水を差し出された。身体を起こし、それを受け取る。こくこくと喉を鳴らして飲むと、幾分か痛みが取れた。

「わたくしは、一体…」

記憶が朦朧としていて覚えていない。ただ、あの男に差し出された白桃酒が欲しくてたまらなくなったことだけ、覚えている。

「何があったのか、話してくれるか」

「はい…」

スティーヴンと別れた後、店の男に声をかけられたこと。そして、白桃酒を飲んだことを伝えると、スティーヴンは苦い顔をした。

「君が飲んだのは麻薬だ」

「え…!?」

驚きの声を上げると、扉の向こう側からジャスミンに呼ばれた。

「もう入っていい。魔力の暴発の恐れはない」

「暴発…!?」

何が何やら。わけがわからずスティーヴンを見ると、心底心配した顔でシャーロットの髪を梳く。

「三日程、君は麻薬の中毒成分によって暴れていたんだ。おぼえていないだろうが」

「す、すみません…。なにも覚えておりません…」

「シャーロット様!」

ジャスミンが駆け寄り、目に涙を浮かべて手を取る。

「ご無事で…!」

「ええ、もうなんともないわ」

「嘘をつくな。まだ熱がある」

スティーヴンの言う通り、まだ熱っぽく身体も怠い。

「すぐ横になられてください。食べ物はお口にできそうですか?」

「そうね、少しなら」

「用意して参ります」

「ありがとう」

ジャスミンが去った後、スティーヴンが優しく寝る様に促してきた。その動作に甘えて横になると、スティーヴンはまた心配そうな顔をする。

「わたくし、もう大丈夫ですわよ。そんな顔、なさらないでください」

ここ数日間、なんの記憶も残っていない。ただ、あの果実酒が欲しくてたまらなかったことくらいしか覚えていない。

「魔王様、カイ殿下とアイナ妃殿下がお見えです。シャーロット様にお会いしたいと」

スティーヴンの視線に頷き、笑う。

「大丈夫ですよ。客間まで参りましょう」

「いい、寝ていろ」

「ですが、殿下を前に寝ているわけにはいきません」

「いい。あいつらはそんなこと気にしない」

スティーヴンが言い切るのだから、そうなのだろう。せめてもと、身体を起こして待っていると、慌ただしく二人がやってきた。

「シャーロット嬢!」

「シャーロット!」

二人は駆け寄り、様子を見てくる。

「少し熱がありますが、その他は異常ありません。大丈夫ですよ」

「よかったぁ…」

アイナが涙目でそう言い、シャーロットの手を掴む。

「顔色が良くないわ。横になって」

「大丈夫よ」

「大丈夫じゃないわ!麻薬を口にしただなんて、とんでもないことよ!私の国でこんなこと…!」

「アイナ…」

ほろほろと涙をこぼすアイナの手を握る。カイはアイナの肩を抱き、慰める。

「この国では困ったことに麻薬が蔓延っていてね。取り締まっているのだが、中々収まりがつかない。全く、どこの誰が作っているのやら」

カイが困った様な声でいい、ため息を吐いた。

「わたくしが囮になりましょうか」

「は!?」

「この酒が欲しくなったらまた来いと言われました。その言葉に惑わされたふりをして潜入すれば、何か得られるかもしれません」

「駄目だ」

スティーヴンが怒ったような声で制する。

「何故です?このチャンスを逃すのは勿体無いですわよ」

「何を言っているんだ君は!あんなに苦しい思いをしたのに、また身を危険に晒すのか!」

スティーヴンの雷が落ちた。驚いて固まっていると、カイが見かねたようにシャーロットに言う。

「スティーヴン王子の言う通りです。貴方は何もしなくていい。身体を休めてください。麻薬の成分が抜けるまでは、離脱症状に苦しむでしょうから、ゆっくりなさってください」

「ですが殿下、わたくしを囮に使えば情報が得られるはずです」

「いいえ、シャーロット嬢。スティーヴン王子の大事な姫君を、危ない目に遭わせるわけにはいきません。こちらで捜査しますので、ご心配なさらず、ご自身の身体を大事にしてください」

真剣な瞳に頷くしなかった。大人しくなったシャーロットにスティーヴンが釘を刺す。

「一人で外出したりするんじゃないぞ。絶対に駄目だからな。暫くは絶対安静にしろ」

「…はい…」

大事だなとのんきに思っていたが、薄らと蘇る記憶の中で、暴れ狂っていた自分が思い出される。あれが現実だったのなら、この心配のされようも納得がいく。醜態を晒した恥ずかしさで萎んでいると、アイナがきゅっと手を握ってきた。

「この国の白桃酒は美味しいのよ。麻薬なんかじゃない、本物の白桃酒をまた持ってくるわ。楽しみにしていて」

「ええ。ありがとう」

「じゃあね、シャーロット。また来るわ」

二人は忙しいらしく、直ぐに部屋を後にした。

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