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8.昔の記憶

わたしくしは魔女に会ったことがある。

幼い頃、手足を鎖で縛り付けられ、台に乗せられ、灯台がゆらめいていたあの部屋で。

実父のウェルバートが黒魔術で魔女を呼び出し、何か契約を交わした。幼い自分には何なのかわからなかったが、確か人物兵器を造るとか何とか言っていた気がする。そうして、唱えられた黒魔術と魔女との契約により、わたくしの身体は不死身になった。焼けるように熱い身体は、左の太腿に魔女の刻印を残し、冷めていった。


熱い。

熱い。

熱い。


体が熱い。痛いほどに熱い身体は、人体実験をされていた時のことを思い出す。全身を鎖で縛り付け、血を抜き、魔物の血を流す実験。何やら薬物を血管に入れられる実験。実験。実験。実験。

そんな地獄の毎日の中で、ある少女に出会った。一人で過ごしていた牢の中に、もう一人、女の子が現れた。ダークブラウンの髪はボサボサで、身体は痩せ細っている。小さなその子は怯えた様な顔でわたくしを見た。


守らなくては。


この子を、守らなくては。

わたくしのように、実験体にされてはきっと身がもたない。

わたくし達はよく話をした。お互い拙い言葉で、毎日会話を交わした。信頼関係を築くのに、時間はかからなかった。そして、わたくしはその子に名をつけた。『神からの贈り物』という意味のジャスミンという名を。


日に日にジャスミンは弱っていった。元から体が弱いのか、高熱を出す頻度が多く、会話も減った。そんなある日、ウェルバートが言った。


ーーこいつは失敗作だ。


そう吐き捨て、一人分の食事を牢に置いて出て行った。高熱で唸るジャスミンに、乾いたパンを差し出すも、食べない。もう三日はご飯を食べていない。焦りだけが募り、時間だけが過ぎていく。そんな中、あることに気がついた。

ーー牢の鍵が開いている。

何重にも巻かれた鎖の先の鍵が、開いている。チャンスは今、この時しかない。


静かに、気づかれない様に牢の鎖を解いていく。慎重に。慎重に。

そしてーー牢の扉が開いた。


ジャスミンを背負うと、驚く程軽く、驚く程に熱かった。伝わってくる動悸が早く、早鐘が鳴っている様だった。


牢を出た先は階段だった。登りきり、扉を開くと、ウィルバートはいなかった。チャンスはこれきりだ。そう悟り、慎重に屋敷を出た。

外は大雨となっていて地盤も緩んでいた。歩みを進めるうちに、ジャスミンの息が荒くなっていく。身体に伝う動悸が早く、体温も熱い。早く、早く、助けなければ。


ーーでも、どうやって?


途方もない道の先に目眩がした。でも、歩みを止めることはしなかった。そんな時、黒猫のルーカスが現れた。彼に続くとーー嗚呼そうだわ、お義父様がーー。




「ロティー」


声が聞こえた。優しく、甘い声。低く響く優しい声が。


「あああぁああぁぁ」


叫び声が聞こえた。甲高い女の声が自分のものだなんて、気がつきもしない。喉が痛い。身体が熱い。意識が朦朧とする。


ーーあれが欲しい。

ーーあれが欲しい。

ーーあれが欲しい。


あの白桃の果実酒が欲しい。喉から手が出る程欲しい。今直ぐに飲みたい。飲まなければーー。


「ロティー、駄目だ」


ハッと我にかえると、スティーヴンがいた。暴れ狂う自分を両手でベッドに押さえつけていた。


「スティーヴン…さま…」


これは夢か現実か。今までのことは全て幻だったのか。これは現実なのか。

回らない頭で考えていると、優しく額に口付けられた。

「いい子だ」

その言葉を耳に、意識を手放した。

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