7.異変
異変は、夜中に起こった。
スティーヴンの言い分を聞かず寝床について一時間程。猛烈な喉の渇きで目が覚めた。酷く酔っ払ったかのような眩暈を起こしながらベッドから降り、水を汲もうと扉に手をかけた時、平衡感覚がおかしくなり、その場に倒れた。影からルーカスが飛び出し、心配そうに辺りを回る。暫くして、ジャスミンが慌ただしく現れた。ルーカスが呼んでくれたらしい。
「シャーロット様!」
「…ジャジー、水…を…」
「はい…!」
ジャスミンが慌てた様子で階段を駆け降りていく音を聞きながら、その場に倒れ込む。動悸が早く、汗が滲む。ひどい喉の渇きで息をするのもやっとだ。
「シャーロット、どうした!」
ジャスミンと共に、スティーヴンが現れた。慌てた様子で駆け寄り、身体を支えてくれる。ジャスミンからミスを受け取ろうとしたが、手が震えてうまく掴めなかった。落としてしまったそれは、床に音を立てて転がる。
「申し訳ありません!もう一度汲んできます」
急いでタオルで床を拭いたジャスミンが階段を降りる音を聞きながら、酷く咽せたらーー手に血が付着した。
「シャーロット!」
思考が混沌としてきて、薄れていく。ジャスミンが水を持ってきた頃には、意識を手放していた。
「何事だ!」
スティーヴンの声に答える者はいない。シャーロットが突然倒れた。高熱が出て、吐血もしている。今腕の中で疼くまる彼女は小さく震えていた。
「回復魔法を」
ロゼッタの言葉にハッとする。取り乱していた。直ぐに回復魔法を唱えるが、シャーロットの様子は変わらない。
「何故だ!何故効かない!」
何度唱えても、シャーロットの様子は変わらなかった。
「とりあえずベッドに」
オスカーの言葉に頷き、ベッドへ寝かせる。喘鳴がはっきりと聞こえるほど、息が荒い。
「シャーロット…!」
一体何が起きている。原因は何だ。何故魔法が効かない。
頭の中で考えてみるが、何一つ心当たりがない。
「シャーロット様は、内から入ったもの…風邪などは、回復魔術が効かないのです」
水の入った桶とタオルを用意したジャスミンが言う。
「何故だ」
「贄にされた結果です」
「何だと」
確か、実父のウェルバートが黒魔術を使い、魔女の贄にしたのだったか。その結果彼女は不死身になったと聞かされていたが、まさか回復魔法が効かないだなんて。
「傷は消えたじゃないか」
「ですが、風邪などは自力で治すしかないのです。効かないのです、魔術が。ですので、魔法も効かないのではないかと考えられます」
思わず舌打ちが出た。何と厄介な身体だ。
「原因は何だ」
「血液を分析します」
オスカーがそう言い、注射器を取り出す。
「シャーロット様、少し痛みます」
そう声をかけても、彼女は返事をしないし目を開けない。まるで酷い悪夢に魘されている様だ。
採血し、オスカーが部屋を後にする。分析をするのに二時間ほどかかるとのことだ。
「シャーロット、何があった…!」
あの時、一人にさせなければよかった。ルーカスに聞けば、男が話しかけてきて、酒を一杯飲んだらしいが、それが原因かは定かではない。
「…スティー…ヴン、さま…」
「ーー!シャーロット!」
「…水、を…」
先程も水を求めていた。唇も乾いている。身体を起こさせ、水を手渡すが上手く手に力が入らない様だ。虚な瞳に涙の膜が張る。
自分の口に水を含ませ、彼女の唇に自分のそれを押し付ける。口移しで飲ませる作戦はうまく行った。シャーロットがこくこくと喉を鳴らす。何度か繰り返すと、満足いったのか、彼女はくたりと力を抜いた。
またベッドに寝かせ、額の汗を拭ってやる。
ジャスミンからタオルを受け取り、それでシャーロットの額を冷やす。魔法が使えないのならば、できることはこれくらいしかない。
ルーカスも出てきて、心配そうに頬ずりしている。
ーー二時間ほどして、オスカーが戻ってきた。
「体内から薬物が検出されました」
「薬物だと!?」
先程、まさに今日視察に行っていたのは、この国、クーンメイン王国で蔓延っていると言う麻薬の噂を突き止めるためだった。
「一体何が起こっているんだ」
一時目を離した隙に、彼女に何があったのか、意識を手放している彼女に聞くことはできない。ひとまず医者を呼び、診てもらうことにした。




