5.果樹園
アイナに連れてこられた果樹園は、広々としていた。木々に実っているのは桃だろうか。確かクーンメイン王国の名産の一つでもあったような。
「ここの桃は果実酒にして出荷していますのよ」
「そうなのですね」
「すぐにお茶を用意させるわ」
果樹園の真ん中に置かれた茶会用のスペースに招かれ、座るよう言われる。ジャスミンがいつもの様に椅子を引き、シャーロットがそこに座った。アイナは侍女にお茶を用意させ、向かい合う形で座る。
「シャーロットの髪、綺麗ね」
「ありがとうございます」
「私も伸ばそうかしら」
「お似合いになると思います」
ふわふわとした毛並みが可愛らしい。童顔な彼女はロングヘアーも似合うだろう。
「ねぇ、敬語はやめにしない?立場上、貴女も他国の妃になるのだから」
確かにそうかと思い、にこりと笑う。
「では、敬語は無しに致しましょう」
「やったぁ!」
アイナは嬉しそうに笑う。
「実はね私、前から貴女のことを知っていたのよ」
「そうなの?」
「魔王様が『東の魔女』を探しに行くって小耳に挟んだ時から、貴女のことを知ってるの」
他国でも有名になっていたのか、と苦笑いが漏れる。
「ねぇねぇ、貴女魔女なの?」
「いいえ」
「そうよねぇ。魔女は遠い昔のお伽話の登場人物ですものねぇ」
少しつまらなさそうに言い、用意された紅茶に手をかける。
「クーンメイン王国の白桃の紅茶ですわ。どうぞ頂いてみて頂戴」
「ありがとう」
勧められるまま口をつけると、ふわりと桃の風味が口の中に広がる。砂糖が入っている様で甘いが、桃の風味と相舞って美味しい。
「とても美味しいわ」
「でしょう?私はこの紅茶が好物ですの」
「クーンメイン王国は美味しいものが沢山あるわね」
「海産物に果物、珍しい薬草も手に入るわ!なんでもあるのよ、この国は」
「ええ。素晴らしいわ」
褒めていると、アイナの侍女がアフタヌーンティーを用意し始めた。桃のタルトに、桃のムース、桃のマカロンに桃のショートケーキなど、桃づくしだ。
「これはここで採れたもの?」
「そうよ。今朝の採れたてをどうぞ、召し上がって」
「いただきます」
桃のマカロンを手に取り、口に運ぶ。一口食べてみると、水々しい桃の風味が広がる。
「美味しいわ」
「そう、よかった」
アイナは黙々とケーキを食べている。真剣に食べている様子がおかしくて笑うと、不思議そうな顔をした。
「アイナ様は可愛らしいですね」
童顔で愛嬌のある言動、小動物の様にお菓子を頬張って頬を膨らませている辺り、可愛らしいと思う。
「アイナでいいわよ。私はシャーロットみたいに凛とした美しさが欲しいわ」
驚いて瞬きすると、アイナが笑う。
「私ね、実は洋服を作る趣味があるの」
「すごい!」
「男装物が多いのだけれど、シャーロット、着てみない?貴女みたいな人に着て欲しかったのよ!どうかしら?」
「わたくしでよければ!」
その返答に後悔することを、まだシャーロットは知らなかった。
「とってもお似合いでしたね!シャーロット様!」
「もう懲り懲りよ」
帰りの馬車に乗れたのは、夕刻だった。それまでアイナの着せ替え人形として相手をしていた。アイナの作った服は騎士団の制服の様なものもあれば、男性が夜会の際に着る正装や礼装もあり、様々な服を着せられ、褒めちぎられ、また着替えをするループ。疲れ果てた馬車の中では如何にシャーロットが着こなしていたのかを、ジャスミンがスティーヴンに熱弁している。
「俺も見てみたかった。シャーロットは凛としているから似合うだろうな」
「ありがとうございます」
アイナに愛嬌の一つでも教えてもらえばよかった。ぶっきらぼうに答えてしまい、顰めっ面をすると、スティーヴンが眉間の皺に指を当てる。
「揶揄ってなどいないよ」
「わかっております」
照れくさいだけだ。早くスティーヴンの甘い言葉にも慣れてしまわないと。妃になるのだから、甘い言葉によろけていてはならない。
「スティーヴン様はカイ王子と何のお話をなさっていたのです?」
「国の情勢について聞いていた。あとあまり良くない話も聞いた。シャーロット、夜は出歩くんじゃないぞ」
「治安が悪いのですか?」
「麻薬の密売が絶えないらしい」
「麻薬ですか」
「変な奴について行くんじゃないぞ」
「行きませんよ!」
そんな会話をしているうちに、別邸に到着した。




