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5.卒業パーティーⅡ

 頭が真っ白になった。ずっと、ずっと信じていた相手に裏切られたことを理解したと同時に、あまりの怒りに眩暈がした。

 怒涛の展開に思考が追い付かない。

(何故、わたくしは今、断罪されているの?サミュエル殿下に嫌われたから?ヴィクターは、何故?)


「シャーロット嬢、貴女が魔女なら、私は…看過できない…のです」


(立派で気高い騎士団長様は一体どこへ行ったのよ。みっともなく震えるくらいならやらない方がマシじゃないの。)

 脂汗が滲み、意識が霞む。呼吸音に喘鳴が混ざり始めるも、シャーロットは血溜りに倒れ込むようなことはしなかった。

「……わたくしの、治癒能力が化け物並みなことくらい……貴方たちは知っているでしょう」

「異常だろ、魔道具刺されても死なないだなんて」

 冷たく吐き捨てるサミュエルを睨み上げるも、彼は満足そうに目を細めるだけだった。

 シャーロットの治癒能力は非常に優れている。切り傷ができても瞬時に血は止まり、骨が折れても直ぐに元通りくっつく。そう、例え首が吹き飛んだとしても、彼女は死なない。


 肩で浅く呼吸をしながら身体を貫通している剣を抜こうとするが、上手くいかない。少し触れるだけで痛みが全身に走り、意識が飛びそうになる。

 ジャスミンが震える手で剣に触れようとするが、静電気のような音を鳴らして弾かれた。

「――っ!」

 ジャスミンの指先が血で滲む。

「私の娘に魔道具を使ったのか!貴様……ッ!」

「ヴィクター」

 サミュエルの一言で、ヴィクターが騎士団に指令を出すーーフェリクスとジャスミンを拘束しろ、と。

 荒々しく拘束される二人を見て、心臓が激しく嫌な音をたてる。


「さあ、魔女のシャーロット。これ以上苦しみたくなかったら白状しろ」

「お養父様と、ジャジーに、手を出したら……許さないわよ……!」

「お前が大人しく認めればいい話だろう。まだ認めないのか?」

(何故、国王も王妃も黙っているの!)

 非難するように視線を向けたが、二人は石のように固まったまま動かない。眉一つ動かさない様子は異様だ。

 今、ここで彼を止められる人物は、国王夫妻しかいないというのに。


「そうか…。認めないのだな?」

 口遊むかのように軽やかな口調でサミュエルが言い、楽し気にシャーロットを指差すと信じられない言葉を放った。



「魔女ではないというのならば、今ここで服を脱げ」



 会場の空気が大きくどよめいた。口々に動揺を漏らす貴婦人たちに、息を呑む男性たち。

「無礼者!」

「サミュエル貴様!」

 手枷を嵌められ拘束されたジャスミンとフェリクスが口々に罵るも、騎士たちによって押さえつけられる。

 ジャスミンが頬を叩かれたのをみて、心の中で何かが音を立てて切れた。怒りで思考が回らず、頭が真っ白になる。

「ジャジーに手を出すな!」

 シャーロットの怒声に、手を上げた騎士が怯んで手を引っ込める。

「いいぞ、手を出して。王太子である俺が許可する」

「……ヴィクター、殿下を止めて。こんな莫迦なこと、間違っているわ。ねえ」

 ヴィクターは真っ青な顔のまま、ただ黙ってシャーロットを見ていた。

「ヴィクター!」

 大声を出すたびに咽て赤黒い血が吐き出される。

「……ごめん、ロティー…ごめん」

(何を、謝っているの?)

「……その女は、好きにすればいい」

「本気で、言っている、の?ヴィクター」

 声が酷く震えた。昼間は、あんなに楽しそうに笑っていたのに。

 いつも、兄のように受け止めてくれていたあの頼もしい手は、震えていた。

 

 悔しさと惨めさで滲みそうになった涙を、思い切り唇を噛んで堪えた。



「脱ぐわ、今ここで。だから、これ以上二人を傷つけないで」


 気が付けば、シャーロットはそう口にしていた。


 満足気に口元に笑みを浮かべるサミュエルを、心から軽蔑した。

(馬鹿みたいだわ。なんて下品な笑みなの)

「皆、お前のその黒い服の下には興味があるようだ。髪も睫毛までもが白く気味の悪いお前のことを魔女だと陰で呼んでいる者も多い。抵抗しても無駄だぞ、魔女のシャーロット」

「今のわたくしが、抵抗できると…お考えなの?残念な頭を……お持ちなのね」

 もう感情を隠す必要も意味もない。サミュエルへの軽蔑した気持ちを一切隠さず吐き捨て、痛みを堪えて立ち上がった。


「わたくしはこの程度のことで、屈したりしない」

「そんな口を叩けるのも今のうちだな。言い見世物になれ、シャーロット・フローリー」

 気を強く持とうとも、シャーロットが今できることは感情を殺して我慢することだけだ。

 せめてもの抵抗に、瞼を下した。



『何の騒ぎですか』



 突然かかった低く響く声に、会場の視線が一斉に扉へ向いた。


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