15.君だ。シャーロット
「君だ。シャーロット」
そう言われて、疑問が頭に浮かぶ。訳がわからず首を傾げると、ジャスミンがハッと息を呑んだ気配がした。
「もしかして、シャーロット様が魔女であるという噂を流していたのも」
ジャスミンの言葉に、スティーヴンが頷く。
「奴らの仕業だな」
「ま、待って頂戴。何故わたくしが目的なのですか?退魔教会とは何の関わりも持っていませんのに」
混乱しつつ聞くと、スティーヴンは少し怒りを滲ませた様な顔で、額を手で押さえた。
「あのですね、スティーヴン様の代わりに言いますけど、お嬢さんを魔女に仕立て上げることが目的なんですよ」
「え!?」
驚く自分とはかわって、ジャスミンが落ち着いた声で言う。
「シャーロット様に容疑がかけられているのは魔女だから、と言う噂話が発端でしたよね」
「そう。つまり、シャーロット嬢を魔女に仕立て上げ、ヴィクター・リードの罪を無かったことにーーいや、あの行いを間違いでは無かったことにしたかった、というのが正しいですかね」
オスカーがそう言い、スティーヴンは頷く。
一人だけ取り残されるように、呆気に取られてしまう。
「で、でも!それだけの理由で反共存派も協力したりなんかしないでしょう?」
「いいえ、シャーロット様」
ジャスミンまで怒りを滲ませた声を出す。
「シャーロット様とスティーヴン様の婚約により、オルシャキア王国が魔物との仲を改める機会になるかと思われます。法改正も視野に入れると、反共存派からすると…」
「…いただけない話ではあるわね」
状況が飲み込めてきた。それだったら、保守派リーダー格のドウェインと反共存派が手を組んでもおかしくは無い。
はぁ、と短く息を吐き、少し項垂れる。
箱を開ければ、なんとくだらない話だ。このまま噂話が広まり、容疑がはれず仕舞いなら、スティーヴンとの婚約も破棄になりかねない。それに、魔女だと確信を持って皆が言えば、ヴィクターは騎士団長に戻ることになる。そして、オルジャキア王国は魔物との仲は未だ良くならず仕舞い、といったところか。それが、奴らの目的だったのか。
「これにて調査は終了だ。明日、魔王として教会へ向かう」
「待ってください!」
「なんだ?」
このままでは、グレイシーが救われない。
「グレイシー二級退魔師は脅されていました。その原因も究明しないと…!」
「罪を犯した。その事実だけで充分だ」
「しかし…!」
それでは駄目なのだ。あんなに優しい人が、傷つけられ蔑まれたまま終わりだなんて。
「グレイシー二級退魔師と話をさせてください」
「何を話す必要がある」
「彼女にも救いが必要です!」
必死に訴え、頭を下げた。あんな劣悪な環境で、今も一人戦っている。共存派だと言っていたあの言葉に、嘘はないと信じている。魔物を殺めたことに関しては、相応の罰を受けるべきだとは思うが、その前にあの暗く重い足枷のような服従関係を解消してあげなければーー。
「魔オウ様!魔オウ様!」
静寂を打ち破ったのは、あの単眼の烏だった。窓を嘴で突きながら大声を上げている。ロゼッタが窓を開けると、くるりと天井を回り、シャーロットの隣に着地した。
「どうした」
「皆怒ッテル。ボウドウ起ス」
「なんだと」
スティーヴンの片眉が上がる。
「皆とは、どれくらいの数だ」
「ナナジナウ、ハチジュウ…ヒャク」
「百!?」
思わず声を上げると、烏が驚いた様に羽ばたいた。
大変なことが起きてしまう。魔物の暴動が起きるとなると、ただでさえ魔物との良好な仲を築けていないオルシャキア王国が、更に魔物との共存が厳しくなってしまう。
「それはいつ起きるの!?」
「今日ノ夜。イチジ」
スティーヴンが腰を上げ、執務室の椅子に掛けてあるローブを纏った。
「待っている暇はない。すぐにルーク・ワグナー氏に会ってくる」
「待って…!」
グレイシーが。
飛び跳ねる様に立ち上がり、スティーヴンの前に立つ。
「先に、グレイシー二級退魔師と話をさせてください」
「いや、駄目だ。暴動が起きる前に、奴らを捕まえる。保守派、反共存派の権力者は退魔教会から排除する。今夜一時までに決着をつけなければ、この国は戦場と化すぞ」
覇気のあるスティーヴンの声に負けそうになるが、精一杯声を張って言う。
「グレイシー二級退魔師に、わたくしの正体を明かします」
「何」
「それで、脅されている理由を吐かせます。そうじゃないと、あまりに彼女は救われない!」
そう言うと、スティーヴンは深く溜息を吐いた。悩む様なその息に緊張する。息を止めて肩を強張らせつつ待っていると、また深い溜息が降ってきた。
「十分待ってやる」
「…!ありがとうございます!」
「だが、それ以上は待たない」
「はい」
深く頷き、オスカーを見る。それだけで分かった様で、すぐに転移魔法が発動した。




