14.犯人の目的は
「おかえりなさい、ジャジー」
夜勤明けのジャスミンが、ドアを閉めたと同時に頭を下げる。
「心配をかけてごめんなさい。貴女の気持ち、ちゃんと考えていなかったわ。ごめんなさい」
「シャーロット様!よしてください、頭を下げるなんて…!」
「いいえ、わたくしは反省すべきよ。大事にしてくれる貴女を、いつも助けてくれる貴女を傷つけてしまったわ」
深く頭を下げると、ジャスミンに半強制的に頭を上げられた。
「反省してくれたのは良いことですが、旦那様には報告いたします。危ないことがあったら帰ってこいとの言いつけでしたよね?」
「そうなのだけれど、まず話を聞いて欲しいの。昨晩、犯人を見たわ」
「え!?」
ジャスミンが目を見開き、こちらを見る。
「それなら尚更、もう潜入捜査は終わりにしましょう」
「話を聞いてちょうだい」
朝礼まで時間がない。手短に昨日の出来事をジャスミンに伝えると、ジャスミンは驚いたように口を開けた。
「グレイシーさんが?」
「そう。脅されていたわ」
昨夜のやり取りも手短に伝え、帰るわけにはいかないとまた伝える。ジャスミンは迷うように唸り、暫くして一つ頷いた。
「では、今日一日だけ見逃します。ですが、明日には必ず屋敷に戻ってもらいます」
「わかったわ」
承諾したと同時に鐘の音が鳴った。朝礼の合図だ。慌てて部屋を飛び出す。
「またあとで!」
ジャスミンに手を振り、慌てて朝礼場へ向かった。
「おはようございます!」
いつも通り、グレイシーに駆け寄り笑みを浮かべる。
「おはよう。今日は訓練よ。頑張りましょうね」
「はい!」
グレイシーはいつもとなんの変わりもなく、そう言った。昨日の出来事がまるで嘘かのようだ。だが、この目で確かに見た。グレイシーが魔物を撃っているところを。
訓練所へと向かいながら、何気なく話を振ってみる。
「魔物の無差別殺傷事件、最近どうですか?」
「そうね、昨晩も魔物が1匹、仕留められていたわ」
間に合わなかったかと、内心落ち込む。仕留められていた、ということは命を落としたということだ。
「何かできることはないでしょうか」
「私達にできることは特にないわ。一級退魔師が捜査権を握っているから」
なるほど、そうなのか、と頷く。
一級退魔師といっても、反共存派と保守派がグルならば、解決は難しそうだ。
「悲しいです。魔物達が狙われるなんて」
「…ほんとね」
グレイシーはそれだけ呟き、咳払いをして話を変える。訓練について説明を受け、剣を手渡された。思っていたよりも大きな剣で、重心を鍛えていないと持っているのも大変だ。普段使用している剣との違いに戸惑いつつも、試しに振り下ろしてみる。
ぐらりと重心が傾いて、右足を踏み出した。やはり少し難しい様だ。考え事をしている暇はなさそうだと、訓練に没頭した。
昼休みの鐘が鳴った。グレイシーに訓練の礼を伝え、急いでジャスミンを探す。相手も自分を探していたらしく、食堂で出会した。
「オスカーにも話をしたいのだけれど、どこに…」
「お呼びですかい、お嬢さん」
「わっ!」
後ろから急に声をかけられ、驚く。振り返るとそこには丁度オスカーがいた。
「情報が手に入ったわ。魔王様のところへ」
「了解しやした!転移しますんで、まず人気のないところへ」
「ええ」
三人で食堂を後にし、訓練所の裏へと向かう。道中特に怪しまれもせず、無事物陰へと隠れられた。
「では、魔王城へ」
「私も大丈夫でしょうか」
「何言ってるの、ジャジーも必要よ」
「ですが、私は侍女です。魔王城へお招きいただいた際には足を運びますけれど…」
口籠るジャスミンの背を軽く叩く。
「魔王様は怒ったりなんかしないわ。大丈夫よ。わたくしが保証するわ。ね、オスカー」
「ええ。大丈夫ですよ。ジャスミンさん」
それなら、とジャスミンは頷いた。それを合図に、オスカーが呪文を唱える。
目を瞬く間に、魔王城の執務室の前へ移転した。
「よく来たな。シャーロット、ジャスミン殿」
来ることがわかっていたらしい。スティーヴンが執務室のソファーに腰掛けていた。側で仕えるテオドールが三人分お茶を淹れている。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
テオドールにソファーに座ることを勧められ、腰掛ける。ジャスミンとオスカーは後ろに立ったままだ。なんだか居心地が悪いが、立場上仕方がない。咳払いをして、話を切り出す。
「魔物の無差別殺傷事件の犯人がわかりました。グレイシー二級退魔師です。ですが、その裏でドゥエイン一級退魔師、その他大勢の保守派、反共存派の権力者が指示を出していました」
スティーヴンは軽く頷き、腕を組む。
「よくやった、シャーロット」
偶然見ただけなのだが、褒められてしまった。どう反応していいものか悩みつつ、例を言う。
「グレイシー二級退魔師はドゥエイン一級退魔師に脅されている様でした。そして、保守派と反共存派が手を組んでいる理由はまだわかっておりません」
そう言うと、オスカーが手を挙げる。
「追加情報ですが、ドウェインという奴、あのヴィクター元騎士団長と親しい仲だった様です」
「え!?」
ジャスミンと二人して、驚きの声を上げた。スティーヴンは相変わらず表情ひとつ変えず、頷くだけだ。
「その情報はどこから…!」
「俺得意なんすよ、調べるの」
オスカーは得意気に鼻の頭をかく。感心していると、スティーヴンが口を開いた。
「おそらく、奴らの目的は」
胸が高鳴る中、静寂が続く。口を開こうかとした時、スティーヴンが軽く溜息を吐いた。
「君だ。シャーロット」
へ?と変な声を出さなかっただけ、褒めて欲しいものだ。




