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わたくしシャーロット、魔王様に溺愛されています。  作者: 藍沢みや
第二章 魔物の無差別殺傷事件
36/82

8.恒例行事『新人退魔師潰し』(前半)

 潜入二日目。早朝からグレイシーと共に巡回を行っていると、畑を荒らす魔物たちに出くわした。その際にグレイシーから簡単に退魔について説明された。

 先日シャーロットが書籍で得た情報と誤差は特になかったが、説明されたのは第三段階の『刑罰』までだった。

「新人退魔師の教育が実践的なのは何故ですか?」

 退魔師の家系だからという理由で必然的に退魔師の道を進む者が多いらしく、退魔師になるため専門の教育機関は存在しない。家系や血筋関係なく皆、研修期間を得て退魔師としての知識や経験を積んでいく。

「外部に漏らしてはいけない情報が多いから教育係が見定めているのよ。実際に魔物を目にした時の反応や勤務態度、意欲によって教える内容を決めているの」

「退魔師家系出身の場合でも、優遇されないのですか?」

「そうね。退魔師家系の者は飛びぬけてセンスがいいから、習得が他に比べて早いのは確かだけど、教育システムは同じよ。みんなスタートは教育係がつくし、研修期間は二年あるわ」

「サポート体制がしっかりしていますね」

「まあ……教育係は二年間変わらないから、馬が合わなければ大変だけどね」

 ちらりと向けられた視線に微笑む。

「私は運がいいですね」

「そんなことを言っても午後からの訓練は甘くしないわよ」

 グレイシーの安堵した表情は見逃さなかった。下手な照れ隠しだ。

「大丈夫です、私剣術は得意なので!」

 今日は午後から魔道具を扱う訓練を行うことが決まっている。腰に下げた退魔師の商売道具である剣は魔道具らしい。

(聖神力が使えない私にとってはただの剣でしかないけれどね。)

 聖神力を学ぶのはまだまだ先になりそうだが、潜入の目的は聖神力を使いこなすことではないため、とくに問題はない。

「そいえば、グレイシー先輩の教育係は誰だったんですか?」

 シャーロットの質問に、グレイシーの眉間に一瞬皺が寄った。

「……ドウェイン一級退魔師、ですか」

「ええ、そうよ」

「それは…大変そうですね」

「……あの頃は優しかったのよ。ほら、無駄話はそれくらいにして仕事に集中しなさい」

 眉を寄せて笑うグレイシーに、なんだか胸が痛くなった。

「私にできることがあったら、言ってくださいね」

 思わずかけた言葉に、グレイシーは呆れたような笑みを浮かべる。

 グレイシーの言いたいことはわかる。

―――退魔師候補生にできることはない。

「私は退魔師候補生ですが、お話を聞くくらいはできます。ですから、疲れた時は何でも言ってくださいね」

 グレイシーは目を瞬いてシャーロットの言葉を聞いていたが、ふっと弱々しい笑みを浮かべ、シャーロットの頭に手を乗せた。

「カロリーナ、先に伝えておきたいことがあるの」

 諦めたような、困ったようにも聞こえる声色が頭上から落ちてくる。

「詳しいことは言えないんだけど『新人退魔師潰し』って呼ばれている恒例行事が多分今日、行われる」

(一種の選定なのかしら。すごく物騒な名前だけれど…。)

「庇ってあげられない。ごめん」

 頭に乗った手が少しだけ震えている。

「グレイシー先輩が厳しいことで有名なのって…もしかして、その行事に後輩が耐えられるようにするためだったりしますか?」

 グレイシーから反応はないが、息を飲んだ音でわかる。図星なのだろう。

(優しくて、誠実な方なのね。脅されて保守派の幹部をしている可能性はやはり捨てきれないわ。)

「私こう見えて強いんですよ。返り討ちにしてやりますから安心してください。何があっても、私は先輩を責めたりはしませんから」

 そう微笑むと、ぽんぽんとグレイシーがシャーロットの頭に触れた。

 その顔には不安や心配が滲んでいる。

(こうなったら派手に実力を見せてしまうしかないわね。目立ちたくはないけれど仕方ない。)


 誰かが悲しい顔をするのは、やっぱり嫌だから。



〇  〇  〇  〇  〇  〇



 なるほど、恒例行事と言われるだけあるな、という感想を呑気に抱きながら、シャーロットは大勢の退魔師に囲まれていた。

 シャーロットとグレイシーのペアが昼休憩に入ったと同時に、大勢の退魔師に囲まれ訓練場へ連れてこられた。苦い顔を浮かべるグレイシーを見て、これから『新人退魔師潰し』が行われるのだと察したシャーロットは、抵抗せず大人しく周囲に従った。

 訓練場の中でも一際広くて大きい、主に大会や行事で使用される競技場のような場所に連れてこられた。観客席のついたスタジアム、といえばわかるだろうか。

 観客席に座る大勢の退魔師の姿に溜息が出る。こんなことをしている暇があれば訓練なり勉強なりするべきではないのか。

「カロリーナ!」

「ジル!」

 少し遅れてジャスミンが連れてこられた。縛られたりしていない様子から、彼女も抵抗せずに来たのだとわかる。

「何事ですか、この大掛かりな演出は」

 ジャスミンも心底呆れているようだ。気持ちはよくわかる。

 観客席をよく見ると、乗り気ではない退魔師もいることに気が付いた。その顔触れは『共存派』の退魔師だ。『共存派』の割合が多いのにも関わらず、こうやって押されていることからも権威者が他の派閥に集まっていることがよくわかる。

 シャーロットとジャスミンを連れてきた退魔師は皆『反共存派』だ。この恒例行事を取り仕切っている退魔師も皆『反共存派』で、恐らくこの者たちが過激派なのだろう。

「あの、私たちは何をすれば?」

 進展のない状況を疑問に思い、近くにいた一級退魔師に聞いてみると、彼は苛立たし気に舌打ちをする。

「遅エ。あと一人はまだか」

「あと一人?新人退魔師は私とジル、二人でしょう?」

 ジャスミンを見ると、彼女も不思議そうな顔をしている。



『本日付で配属された二級退魔師オズウェルでーす。遅れました、すんませ―ん』



 叫ばなかったことを褒めて欲しい。

 そこには退魔師の装いをした好青年、シャーロットもジャスミンも良く知っている人物。

 声の主は魔王側近の一人、オスカーだった。


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