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わたくしシャーロット、魔王様に溺愛されています。  作者: 藍沢みや
第二章 魔物の無差別殺傷事件
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6.いざ潜入!

 珍しい瞳の色はそのまま、目立つ髪は黒の鬘で隠した状態で退魔師の衣装を身に纏ったが、案外それだけで別人に見えるようで、今のところ誰にも気づかれていない。念のためかけた幻惑の魔術が効果覿面だったのだろうか。

 退魔師の服装は祭服に良く似ており、女性退魔師は墨のように黒いくるぶし丈のワンピースに、同色のベールを被る。まるで修道女のようだが、修道女と大きく異なる部分が二つある。腰元にソードベルトが装着され、そこには聖剣と聖水が収められていること。ワンピースの下、右太腿にはレッグホルスターが巻かれ、拳銃が装備されていることの二つだ。

 拳銃には初めて触れたが、これは魔道具の一つらしい。聖神力で作動するものと聞いた。

(装備していても、わたくしは使い方がわからないから玩具も同然ね。)

 聖神力を新人退魔師が使えないのは周知の事実であることが救いだ。シャーロットもジャスミンも使い方を知らないが、そのことで怪しまれることはない。


「グレイシー先輩、午後からの見回りはルートが決まっているのですか?」

 初日、朝礼で退魔師たちに挨拶を述べた後、シャーロット、ジャスミンにそれぞれ教育係が付けられた。新人退魔師は二年程先輩の下で研修を行い、実践を交えながら退魔師として成長していくのだという。

「ええ、そうよ。どのルートが担当になるかはその日の朝に知ることになるけれど。各班三十一ものルートがあるわ。広いし覚えるのは大変だけど、慣れるまでは私が付くし心配はしなくていいわ。でも努力はしなさいよ」

「はい、頑張ります」

 オルシャキア王国の退魔師はここ、王都のみに所属しているわけではない。各地の拠点でそれぞれ警備に当たっているが、数多くある拠点のまとめ役、最も権力を有しているのはここ、退魔師協会に隣接した特殊退魔師団だ。今回シャーロットたちが潜伏している特殊退魔師団はいわば、王宮騎士団のような役割と責任を担っている。

「どうしてカロリーナは退魔師を目指そうと思ったの?」

「実は、魔物が好きで…」

「へえ、変わっているのね。それなら、貴女は共存派かな」

「……共存派?」

 わざと恍けたふりをして尋ねると、意外にもグレイシーは簡単に説明をしてくれた。

「退魔師にも派閥があって、三つにわかれているの。人間と魔物が共存すべきと考える『共存派』。その反対に、魔物は危ない、排除すべきだって考える『反共存派』。そしてどちらにも属さない『保守派』。わかりやすいでしょう?」

「はい。グレイシー先輩は、どの派閥なのですか?」

「私は共存派よ。ここだけの話、保守派には気をつけなさいね」

(危ないのは反共存派ではないの?)

 グレイシーの言葉に引っかかり、首を傾げると彼女は迷いつつも教えてくれた。

「保守派は危ないってよく言われているのよ。まあ、ただの先輩の助言だと思ってちょうだい」

 軽く流されてしまった。あまり話したくなさそうな雰囲気にここは流されておく。

(後で調べましょう。今聞いておくべきことは…。)

「派閥争いは、顕著ですか…?」

 不安気な声で行ってみると、グレイシーは苦い顔を浮かべた。

「そう、ね。特殊退魔師団はちょっと…激しい人が多いかもしれないわね。協会に一番近いし声が届きやすいから…。貴女も過激派に絡まれることがあるかもしれない、けれど絡まれた時は何も知らない馬鹿なふりをしなさいね」

「助言、ありがとうございます」

 少し怯えているような表情を浮かべるも、もちろんシャーロットはその程度で怖がったりはしない。

(敢えて刺激した方が誘き出しやすいみたいね。共存派をわかりやすく主張してみようかしら。)

 少々物騒なことを考えながらも任務を熟し、昼休憩の鐘が鳴った。




「わ~!美味しそうですね!」

 施設内には大きな食堂が設置されていることは勿論知っていったが、想定以上に大きく、そして食事の種類が豊富だ。

 昼時ということもあって非常に混雑していた。慣れた様子で行列に並ぶグレイシーの後に続く。

「この列はパスタだけど、貴女もここでいいの?」

「はい!先輩と同じものを食べたいので!」

「……変な子ね。休憩くらい自由に過ごしていいのよ」

「まだまだわからないことばかりで不安ですし、先輩ともっとお話がしたいので」

 にこにこと笑うと、グレイシーは嬉しかったらしい。少しばかり頬を赤らめそっぽを向いた。

「まあ、貴女がそうしたいのなら、好きにしなさい」

 まだ出会って初日であるにも関わらず、シャーロットは既にグレイシーに懐いていた。言葉遣いが少々荒かったり、言い回しが誤解を生みそうだったりと、誤解を与えやすい不器用な人なのだとわかるとなんだか可愛らしく思える。

「なに笑ってるの」

「いいえ。優しくて可愛い先輩が私の教育係でよかったです」

「な、なに言ってるのよ…!」

「わっ!」

 勢いよく振り返ったグレイシーに男性退魔師がぶつかった。慌てて支えようと思ったシャーロットだが、その必要はなかった。さすが退魔師、重心がしっかりしている。

「大丈夫ですか?」

「ええ。平気よ」

 むっとした顔でグレイシーが男性退魔師と向き合う。一触即発かと思ったが様子がおかしい。グレイシーの表情が青ざめている。

 何事かと、ぶつかってきた男性退魔師を見てわかった。衣装の胸元につけられた星一つのバッジが示している。この人は一級退魔師、グレイシーよりも位が上だ。

(しかも直属の上司ね。名前は確かドウェイン・ヨーク。最年少で一級退魔師になった実力派だったかしら。)

 退魔師全員の顔と名前そして階級は既に暗記済みだ。

「失礼しました」

 グレイシーが素早く頭を下げた。その様子から退魔師も上下関係が厳しいのだと察する。

 自身に非がなくとも相手の階級が上なら頭を下げる。まるで貴族社会だ。

「構わん。お前は相変わらずどんくさいんだな」

 鼻で笑うような言い方につい口が出そうになったが、寸前のところで堪えた。

 どの社会にもこうやって人を平気で見下す人間がいるのはわかっているが、やはり気分が悪い。

「そいつは」

「本日より入団しました。退魔師候補生カロリーナです」

 グレイシーの紹介に、思わず淑女の礼を取りかけて中途半端な笑みを浮かべた。

「へえ」

 自分で聞いたくせに興味なさそうな返事だ。

 ドウェインはシャーロットに目を向けるとじっくりと足先までを舐めるように見る。不躾さに腹が立つが笑みを崩さずに堪える。

「もう泣かされたか?」

 決定事項のように言うドウェインに、またしても腹が立ったがそれを微塵も感じさせないよう微笑んで首を振る。

「グレイシー先輩はとても優しいですよ」

「ははっ、言わされてんのか」

「いいえ。グレイシー先輩の説明はとても丁寧でわかりやすいですし、親切で優しいです。あっ、先輩、列進みましたよ。私もうお腹ぺこぺこです」

「そ、そうね」

 グレイシーの背を軽く押して言う。貴方ともうお話しすることはありません、と態度で示したが伝わっただろうか。

 ちらりとドウェインを見て心底ぞっとした。

 グレイシーに向ける瞳に、色がない。

「失礼します」

 そう言い、次はグレイシーの背を強めに押した。列が進んでいたため、かなり前に移動できた。

「……大丈夫ですか」

「え、ええ。ごめんなさいね、少し驚いちゃって。先程の方は私の直属の上司、ドウェイン・ヨーク一級退魔師よ」

 グレイシーは目線を泳がせながら説明し、そっと呟くように言葉を零した。

「彼には近づかない方がいい」

 グレイシーの手は小さく震えていた。


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