23.予期せぬ再会(後半)
ヴィクターの手が、髪に触れることはなかった。
「ロティー、もう大丈夫だ。大丈夫」
目を開けると、スティーヴンの腕の中にいた。正面から抱き締められる形で、腕の中に納まっている。
「……スティーヴン様?」
「遅れてすまない」
何が起こったのか分からず振り返ろうとしたが、スティーヴンに制された。
「……転移魔法か」
舌打ち交じりに吐かれたサミュエルの言葉で、僅かに状況が理解できた。
スティーヴンによって瞬間移動させられたようだ。そういえば以前、自分以外にも目に見える者や術を予めかけている者は転移魔法をかけられると話していたと思い出す。
「オスカー、ロゼッタ。あいつらを拘束しろ」
「御意」
瞬時に現れた二人の側近は、手早くサミュエルとヴィクターを拘束する。
「二度と彼女に近づくなと言ったよな」
低く、怒りの含まれた声が身体に響く。抱き締められているせいか、余計に体の芯まで響いて聞こえる。
静まり返った空気の中、生唾を呑み込む音が聞こえた。
二人とも、スティーヴンのことは怖いらしい。
「俺の婚約者に手出して……余程死にたいらしいな」
風が強く吹き、葉の擦れ合う音が響く。今日は快晴だった筈なのに雷が轟く音が聞こえてくる。
「シャーロット、ジャスミン殿、耳を塞いで目を瞑れ」
片耳はスティーヴンの胸板で、もう片方はスティーヴンの手で押さえられた。不思議に思いながら目を瞑ると、その瞬間、大きく地面が揺れた。
耳を塞がれているのに、爆音が耳を劈く。
びくりと震わせたシャーロットを宥めるように、スティーヴンが背中を摩った。
なんだか焦げ臭い。
「……次誓いを破ればお前らの頭にアレを落とす」
その言葉で合点がいった。スティーヴンは、雷を落としたのだと。
スティーヴンの腕から恐る恐る抜け出し振り返ると、拘束されたまま腰を抜かした二人がいた。血の気が引きすぎて顔が土色になっている。
「ジャジー!」
ハッとしてジャスミンの姿を探すと、彼女はオスカーに庇われていた。ほっと胸を撫で下す。
「いけませんよ。魔王様を怒らせてしまっては。次またシャーロット様に近づきでもしたら、あなた方は命を捨てたのだと判断いたします」
ロゼッタがにこりとも笑わず、しかも二人に目も向けずに言う。
穴が開いた地面に触れて何やら呟いたかと思えば、瞬時に穴が塞がった。
「ジャスミン嬢に一つだけ。呪術には剣術でも魔術でも勝てません。貴女が自分を責める必要はありませんよ」
ジャスミンの心情を察したロゼッタが、フォローの言葉を掛けた。
ジャスミンは強く唇を噛んで、俯いて動かない。自分が傍にいながら守れなかった悔しさと怒りに苛まれているのだろう。
「では、俺からも一つ。貴女には素質があるから、向こうへ来たら訓練をつけてもいい。考えておいてください」
オスカーはそう言って、駆けつけた王宮の衛兵に二人を預ける。
ジャスミンの返事を待たずに、ロゼッタとオスカーは姿を消した。
「ジャジー、体は大丈夫?」
シャーロットは少々身体が痺れている程度だが、完全に呪術で動きを封じられたジャスミンの身体が心配だ。
「……少し、頭を冷やして参ります。スティーヴン様、」
「嗚呼。ロティーと薔薇園で待っている」
「ありがとうございます」
ジャスミンのことが心配で仕方がないが、今は一人にしておいた方がいいことはわかる。でも、独りで落ち込ませてはやらない。
「……ルーカス、ジャジーをお願い」
小声で呟いた言葉に、ルーカスは当たり前のように反応を返した。
ルーカスの言葉はわからないが、任せて、と言っているように感じた。




