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21.小さな王子様

「お待ちしておりました、スティーヴン王子、シャーロット嬢」

 出迎えてくれたのは第二王子リュカだった。

 王族の証である金色の輝くような髪にヘーゼルの瞳。顔にはまだ幼さが残っているが、王子としての威厳や品格を感じさせる。

 会うたびに成長していることを喜ばしく思いながら、リュカに微笑んで淑女の礼をする。

「リュカ王子、お久しぶりです。出迎えてくださりありがとうございます」

「いいえ、足を運んでくださってありがとうございます。国王陛下がお待ちです。こちらへどうぞ」

 リュカに促されるまま城へ足を踏み入れた。

 スティーヴンと会話を交わすリュカは、十歳とはとても思えない程、王子の顔をしていた。身長も以前より伸びているが、まだシャーロットの方が高いし、スティーヴンと並ぶと身長の差が可愛らしいが。

「私はこちらでお待ちしております」

 侍女のジャスミンが付き添えるのもここまでだ。応接室で待っていてもらう。

 リュカに案内されたのは国王陛下の部屋だった。以前訪れた時よりも緊張していないのは、スティーヴンとリュカがいるからだろう。

 リュカが扉をノックすると、「入れ」と一言声が掛かった。

 中へ入ると、先日と同じように国王は腰かけていた。

 最敬礼の後、挨拶を済ませる。声が掛かったため顔を上げると、国王は真っ直ぐシャーロットを見据えていた。

「処分が正式に決まった」

「はい」

 重々しい空気に息が詰まりそうだが、軽く息を吐き、シャーロットも国王を見据えた。

「サミュエル・グリフィス・オルシャキアは王位継承権の剥奪。ヴィクター・リードは王宮騎士団からの除名処分、一年間の幽閉と正式に決まった」

「はい。わかりました」

 以前より罪を軽くすることができた。あの二人も、次はどうか間違えずに歩んで欲しい。

「愚息に慈悲を与えてくれたこと、感謝する」

 国王の言葉と共に、リュカが深く頭を下げた。

 サミュエルのためだけに罪を軽くするように頼んだのではない。責務を負うことになるリュカの為でもあった――が、頭を下げて欲しいわけではない。

「国王陛下。本日は私共からもご報告があって参りました」

 重々しい空気を破ったのはスティーヴンだった。

「先日、彼女…シャーロット・フローリーと婚約を結びました」

 そのことを予め知っていたのだろう。驚きもせずに一つ頷く。

「おめでとう。いい報告を聞くことができて嬉しく思う」

「ありがとうございます」

 スティーヴンの堂々とした姿に、緊張が少し解れた。この人が隣にいれば大丈夫だと思えてくる。

「私からの話は以上だ。リュカ、シャーロット嬢に話があるのだろう」

「はい。スティーヴン王子、よろしいですか?」

「構いません。シャーロット、後で迎えに行く」

「わかりました。では、失礼いたします」

 国王はまだスティーヴンに話があるようだ。自分ではなくスティーヴンに確認を取られたことが少し照れ臭いが、きっと表情には出ていないだろう。

 退出して扉が閉まったと同時に、リュカが顔を上げた。


「ロティー姉さん、本当にごめんね、兄上が…」


 先程までの凛とした姿はどこへ行ったのか、リュカがシャーロットの袖を掴んで謝る。

 実は、シャーロットとリュカはとても仲が良い。リュカは何故かシャーロットにとても懐いていて、姉のように慕ってくれている。

「リュカが謝ることではないわ。大丈夫よ」

 王族にこのような話し方をしていることが知られたら、きっと叱られるだけでは済まないだろう。だが、畏まって話すとリュカが癇癪を起してしまうので、二人の時のみこのように話している。

「これからもっと忙しくなるわね、リュカ」

「僕、頑張るよ。まだできることは少ないけど、この国のために生きる覚悟はできているから」

(まあ、なんて頼もしいのかしら…!)

 泣き虫で怖がりだったリュカは、王族として、王子として立派に成長していた。

 サミュエルとの覚悟の差に感激していると、リュカが変わらない人懐っこい笑みを浮かべた。

「姉さんが好きそうな紅茶を用意したんだ!ジャスミンさんも一緒に、庭園でお茶していかない?」

「嬉しい!ジャジーもきっと喜ぶわ!」




 侍女であるジャスミンが一緒に紅茶を飲むことはできないため、茶葉を少量いただくことにした。リュカは侍女だからとジャスミンを蔑ろにしたりせず、シャーロット同様に話しかける。初めの方は戸惑っていたジャスミンも、次第に人懐っこいリュカに絆されていった。

「シャーロット様からリュカ殿下のお話は聞いていましたが、このようにお話しすることができて光栄です」

「僕も、ロティー姉さんからジャスミンさんの話はたくさん聞いていたんだ。話の通り素敵な方だ」

「まあ…!」

 ジャスミンが目を丸くしてシャーロットを見る。

(わかる。わかるわ。サミュエル殿下とは大違いでしょう。)

 思わず苦笑いを浮かべてしまったが、共感せざるを得ない。

「姉さん、実はね、その…少し言い辛いんだけど…」

「あら、なあに?」

 口籠るリュカの口から、思わぬ言葉が飛び出した。

「兄上、婚約したんだ」

 ジャスミンが己の口元を手で覆った。

 大声を出さなかったことを後で褒めてあげないと。

「そうなのね」

 シャーロットも驚きはしたが、とくになんの感情も浮かんでこなかった。

 サミュエルには不幸になって欲しいとも、幸せになって欲しいとも、とくに思っていない。自分の知らないところで勝手に過ごしてくれていればいい。

「そのうち知ることになるだろうけど、先に伝えておこうと思って」

 きっと、リュカなりに気遣ってくれたのだろう。

「ありがとう。わたくしは大丈夫よ。スティーヴン様がいらっしゃるから」

 少々貴族たちの間で騒がれるだろうが、時間が解決してくれるだろう。

「あとね、僕にも婚約者ができたよ」

 正直言って、この報告の方が驚いた。

「おめでとうリュカ!」

 リュカははにかみながら、ありがとうと返す。その表情から、相手とは良い関係を築けているのだと伺い知れた。

「正式な発表はまだだから、内緒ね?」

 悪戯っぽく笑うリュカに頷き返す。重大で嬉しい情報をいとも簡単にシャーロットに流してしまう辺り、注意をしなくてはならないが、それは後程でいいだろう。

 思わぬ嬉しい収穫に、シャーロットの心は弾んだ。

「あっ、ジャスミンさんも内緒だよ」

「はい、承知しております」

 シャーロットが信頼している侍女を、リュカも信頼してくれている。

 あんなに不安に思った国の未来が、今は楽しみに思えた。

「僕のお姫様は姉さんに憧れているんだって。また今度、よかったら会ってあげて」

「喜んで!」

 シャーロットに憧れている子女はとても多いのだが、シャーロットはそのことに全く自覚がない。変わった子なのね、などと失礼なことを思っていた。

「僕そろそろ仕事に戻らなきゃ。ゆっくりできなくてごめんね」

「いいえ、忙しい中時間を取ってくれてありがとう」

「スティーヴン王子が来るまでゆっくりしていってね。薔薇園も今とても綺麗だから、よかったらジャスミンさんと見に行ってきて」

「わかったわ。ありがとう」

 リュカは軽々と手を上げて「またね!」と言って駆けていった。年相応な様子を見ることができて安堵しつつ、微笑ましくその背を見送る。

「このようなことを言うのはどうかと思うのですが……本当に似ていませんね」

「そうでしょう?」

 屋敷でリュカの話をした時にも同じようなことを言っていたが、初めて対面して改めて思ったのだろう。

「サミュエル殿下も、昔はリュカほどではないけれど、人懐っこかったのよ」

「そう……なのです、か」

 幼少期のサミュエルをジャスミンは知らない。ジャスミンは、代々フローリー家に仕えているボールドウィン家に養子として迎え入れられたため、シャーロットとずっと一緒にいるわけにもいかなかった。命の恩人であるシャーロットを守るため、そして少しでも恩を返すことだけを胸に、六年の歳月を得て侍女になったのだ。

 聞いたところ、ボールドウィン家に入ることをジャスミンがフェリクスに直談判したらしい。

 たった四つの少女が、背負っていいものではなかっただろうに。

「ジャジー、本当にありがとうね」

 突然の御礼にジャスミンが眉を寄せた。真意を測りかねているらしい。

「一緒に来て欲しいと言ったけれど、ジャジーがこの国で幸せになりたいのなら、それを優先していいからね」

「なにを仰っているのです」

 ジャスミンが仕方ないな、といった風に眉を下げて笑った。

「何度も申しておりますが、私には、シャーロット様以上に優先すべきものなどありませんよ。ほら、薔薇園見に行きましょう?」

「……うん。ジャジーありがとう」

「御礼を言うのは私の方です。私を傍においてくださってありがとうございます」

 薔薇園の場所は知っている。ジャスミンにカップを片してもらい、薔薇園へ足を運んだ。


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