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17.初めてのデートⅤ

 昼食を食べ終わったタイミングで、温かい紅茶を用意された。

 自国の名産だと説明を受け紅茶を口に含むと、美味しさのあまり瞳が零れ落ちるかと思う。

「ワインの風味がします。それに、シナモンの香りも……あとは、蜂蜜…?」

「よくわかったな」

 伊達に紅茶好きを名乗っていない。紅茶に合わせる香辛料については知識だってある。

 だが、ワインと紅茶の組み合わせは新鮮だった。一見合わなさそうな組み合わせだが、こんなにも美味しいとは。

(お渡しした果実酒、美味しくなかったらどうしましょう…。)

 とんでもない実力者に素人の果実酒を渡してしまったことを、少し後悔し始めていたが、スティーヴンのことだ、美味しくないだなんて言わないだろう。

「スティーヴン様は、何か苦手なことはありますか?」

「苦手なこと?」

「何事も熟してしまうので、なにか苦手なことはないのか気になってしまって」

「そうだな……」

 暫く考えていたが、「あ」と声を上げる。

「掃除」

「掃除、ですか?」

「仕事をしていると机上は散らかるし、よくテオ――秘書に叱られる」

(秘書…!そうよね、彼は魔物の王様なのだから、いるわよね。)

 話していると魔王であることを忘れてしまうが、彼は確かに魔王で、現に魔物の世界を統べているのだ。

(そんな魔王様の苦手なものが、掃除。)

 なんだか可笑しくて笑ってしまうが、スティーヴンは気を悪くした様子もなく、優しい笑みを浮かべていた。

「シャーロットは、そうやって笑っているのが一番可愛い」

「――!?」

 不意打ちにカップを落としかけた。

「嗚呼、でもそうだな。今みたいに照れているのも困るくらい可愛いから、やっぱり一番は決められないな」

「な、何故そのようなことを、急に仰るのです…。揶揄っているのですか?」

 恥ずかしさや照れを毎回隠すことができないことが悔しく、口を尖らせてシャーロットが言う。

「口説いているんだ」

 平然と返され、シャーロットはもう黙るしかない。

 困って視線をそっと街並みの方へ逸らすと、一部に人だかりができていることに気が付いた。確かあの場所は噴水広場だったか。

「あの、噴水広場に行ってみたいのですが」

 シャーロットの視線の先を追って、スティーヴンが納得したように頷いた。

「あれは多分、賭け事だな。本当に行くか?」

 スティーヴンは少し渋っていたが、それがさらに好奇心を擽る。

「行きたいです」

「わかった。シャーロットがそう言うなら」

 あっさり折れてくれたことに驚くと同時に、どれくらいの我が儘を受け入れてもらえるのだろうと疑問が湧いた。




 相変わらず城下町は喧騒に包まれていた。人だかりのできていた噴水広場に近づくにつれて人は増え、人の声も音楽の音も大きくなっていく。

 中心部に行くと、男たちが剣や弓で実力を競い合っているのが見えた。勝敗が決まると一斉に人々は喜び、勝者は称えられる。

 その様子を眺めていると、審判らしき男と目が合った。

「女子供が見るもんじゃねエよ。良さなんかわからねエだろ。散った散った!」

 手で払いような仕草をされ、大人しく見ているだけのつもりだったが、シャーロットの競争心に火がついてしまった。

()()()なら、一発も外さずに的に矢を当てられるわよ」

「シャーロット」

 スティーヴンが止めに入るが、火のついたシャーロットは引き下がらない。

「へえ、面白い。そこまで言うなら参加させてやろう」

「どうもありがとう。受けて立つわ」

「シャーロット!」

「大丈夫です。的当ての競技ですから怪我をする可能性はありません。それに、このまま言われっぱなしは性に合いませんから」

 スティーヴンは眉間を押さえてどのようにして止めようかと考えていたが、それもすぐにやめた。

「確かに、シャーロットがこのまま引き下がるわけ、ないな」

「ここで見ていてください。直ぐに戻ります」

 観衆の中で対戦相手の男と向かい合った。相手は屈強な男で趣味は狩猟だという。

 それでも、シャーロットは負ける気がしなかった。これでもオルシャキア学園首席卒業者だ。その勲章に恥じない程度の実力はある。

「さあさあさあ!愉快な展開になってきたぜ!誰に賭けるか決めたか!?」

 審判役は進行も務めているようだ。彼の言葉に周囲の観客は皆男の名を上げる。

(さあ、もっとわたくしを舐めてかかりなさい。ぶちのめしてやるわ!)

 物騒なことを考えているシャーロットの耳に、澄んだ声が届いた。

「彼女にゴールド十!」

 賭けられる最高金額を平然と言い放ったのは、スティーヴンだった。

 どっとその場が湧き、盛り上がりと期待が熱気となって伝わってきた。

(……絶対に外せない。いいえ、外さないわ。)

 弓を手に取り、簡単な説明を聞く。ルールは簡単で、30メートル先の的に矢を放ち、得点を競うというものだ。中心に行くほど得点は高い。先攻はシャーロット。交互に弓を放ち、5回の合計得点を競う。

「見てなさい。女は非力だなんて古い考え真っ向から否定して見せるわ」

 シャーロットはそう言うと不敵な笑みを浮かべた。


〇 〇 〇 〇 〇 〇



「すっげーな嬢ちゃん!マジでやりやがった!」

 シャーロットが放った矢は全て、的の中心を得ていた。

 見物客が口々にシャーロットを称える中、シャーロットは平然とした顔で弓を返す。

「えっと、何だったかしら。女子供が見るものじゃないし、良さもわからないのだったかしら?」

 上品だが、凛と澄んだ声に審判がバツの悪そうな表情を浮かべた。一応反省はしているらしい。

「すまなかった。発言を撤回するよ」

「あらそう?ありがとう」

 気が済んだシャーロットは颯爽とスティーヴンの下へ戻る。

 シャーロットに賭けたのはスティーヴンだけだ。かなり儲かったのではないかと思うが、スティーヴンは掛け金を受け取らなかった。

「その金は寄付にでも回してくれ」

(まあ確かに立場上、賭け事で儲けを受け取るわけにはいかない…か。)

 そうはわかっているが、少しときめいてしまったことは、秘密だ。

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