14.初めてのデートⅡ
石畳の地面に足をつけて顔を上げると、目の前の光景に目を奪われた。
たくさんの人々が通りを行き交い、様々な店が立ち並んでいる。買出しに来た人や遊びに来た子どもたち、大きな声で呼び込みをしている店主に、呑気に欠伸をしている猫。
城下町は想像以上に賑わっていた。大勢の人々の声は楽しそうだったり、なにか怒っていたり、様々な声色が混ざった空気は新鮮で、シャーロットの目にはとても魅力的に見えた。
芳ばしい香りや甘い香りが風に乗って流れてくる。近くのパン屋の店主が焼き立てのパンを並べ、大声で客寄せをしていた。
「取り敢えず、露店を見て回ろうか」
「はい!」
期待に高鳴る胸を抑え、スティーヴンの後をついて歩く。
シャーロットは普段、学園か屋敷内でしか生活をしていない。移動は勿論馬車であるため、人混みを歩く体験も初めてだ。
「お嬢ちゃん、パン焼き立てだよ~!うんと甘いはちみつとシュガーが塗してあるハニーパン、食べていかない?」
(お嬢ちゃんだなんて初めて呼ばれたわ!)
そんなことにも感動しながら、足を止めずに微笑む。
「また次の機会にいただくわね」
そう控えめに答えると、次は隣の露店の店主に声を掛けられた。
「ジャンキーな食べ物が安くたくさん食べられるよ!どうだい?」
(ジャンキーな食べ物って何かしら…?)
首を傾げながらも、歩みは止めずにスティーヴンについていく。この人混みの中ではぐれてしまうと再会するのに骨が折れそうだ。
「入ってみたい店があったら言って」
「はい」
入りたい店と言われても、露店が多すぎて脳の処理が追い付かない。
「やっぱり昼時は人が多いな…」
「何か仰いましたか?」
騒音の中で聞き取れず意識して少し大きな声を出すと、スティーヴンが歩みを止めずに顔だけ振り返った。
「シャーロット、こっち」
意図を理解するよりも先に手を引かれ、大通りから外れた細道に逸れた。その道は階段になっており、両脇は赤レンガの建物に囲まれている。洗濯物が干されている様子から、共同住宅であることが伺い知れた。
(隠れ通路みたい!それに、さっきまでの騒音が嘘みたいだわ。)
「この道を抜けると大きな本屋があるんだ。きっと気に入る」
段差の低い階段を上りきると、また違う通りに出た。先程の大通りに比べて人も少なく、落ち着いた印象を受ける。
「ここだ」
「ここ……ですか?」
案内されたのは、大きな木の幹に取って付けられたような扉の前。その扉も木目調でできているため、扉に気が付くのにも数秒を要した。
困惑しているシャーロットの様子を見て、スティーヴンは悪戯っぽい笑みでその扉を開いた。
「わっ!凄い!」
そこには地下へと続く階段が隠されていた。階段には所々ランタンがかけられており、足元を薄暗く照らしている。その先にある扉からは明るい光が漏れ出ていた。
「なんだか、冒険をしている気分です」
「中も凄いんだ。足元暗いから気を付けて」
握られていた手に少し力が入ったことで、シャーロットは漸く、今までスティーヴンと手を繋いでいたことに気が付いた。
(なんてスマートなエスコートなのかしら。)
包むように握られた手が急に熱を持ったように熱くなる。意識すると急激に恥ずかしさが沸き上がってきてしまった。
(どうしましょう、なんだか暑くなってきたわ…。)
火照る頬を落ち着けようと、静かに深呼吸を繰り返す。ここが薄暗くて良かった、と心から思った。
階段を下りきると、期待でさらに胸が高鳴っていた。『OPEN』の表札が掛けられたアンティーク調の引き戸をスティーヴンが開いた。




