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幸運100%



今日、ふたつの歴史が終わる。

少なくとも俺はそう思っている。


俺は八十吉、34歳だ。

仕事はしてない。

両親には見捨てられてる。

取り柄は無し。

なんもなし。


ギリギリ生きてるだけのいわゆるやばいやつ。


生きてるだけでごめんなさいしたくなるような存在だけど、今まで生きてこれた。

それはこのゲームがあったからだ。


【⠀ANOTHER WORLD⠀】


俺が大学一年生のころ、つまり18歳の時にリリースされたフルダイブオープンワールドのゲームだ。

当時は珍しかったフルダイブオープンワールド。それに加え、多くのスキルや深く考えられたストーリーで一世を風靡した。

社会現象にもなり、ANOTHER WORLDをやっていないやつは人生の200%を損してるなんて言われたりもした。


だが、それももう昔の話だ。

今日、12月31日23時59分59秒をもってサービス終了となる。


16年にわたって繰り広げられた冒険は、ついに終わりを見せる。

このゲームにはたくさんの思い出がある。

決していいことだけじゃなかったけど、それすらも今思い出せばいいことのように思えてくるから不思議だ。


「現在、23時48分…か。あと約10分。」


これまでを思い出し、浸る。


初めて敵を倒したこと。

初めて敵に倒されたこと。

ギルドに入ったこと。

仲間と冒険したこと。

最強の武器を作り上げたこと。

最強の防具を作り上げたこと。


色々な感動がある。


23時53分


さて、最後は何をしてるのがいいかな。


ふとインベントリーを開くと、あるアイテムに目がいく。

ステータスポイントリセットスクロールだ。


運営がくれたアイテムで、これまで積み上げてきたポイントを、レベルを下げずに初期化できる。初期化したあとはポイントを任意の場所に振り分けられる。

俺にとってのラストエリクサーで、今まで使うことが出来なかった。


「使って…みるか。」


俺はスクロールを取り出し、使う。


「んー、いまいち実感がわかない。」


23時56分


ステータスを開き、確認してみると確かにリセットされている。これまで貯めてきた360ポイントが全て使用可能状態に戻っている。


「リセットしたはいいけどどうしようか。今までの振り方が最善だったからなー。もはや改良の余地がないというか…。ネタ振りでもしようか?」


ネタ振りとは、最強を目指すためにポイントを降るのではなく、勝つことは二の次にして遊ぶための振り方である。

攻撃力に全振りしてみたり、防御力に全振りしてみたり。

そうすると。馬鹿みたいにダメージは出せるが、当たらない当てれないアタッカーや、ダメージは受けないがダメージを与えられない動く的ができ上がる。


これはこれでみていて面白かったけど。


「んじゃあ全振りするとして、何に振ろうか。防御に振って世界を見て回ろうか…ってそんな時間もないしな…。攻撃に振っても今からじゃ倒せる敵いないし…。速さも使えないなぁ。」


なかなか降る先が見つからない。


23時57分


「んー…、あ。」


振り先全て目を通した最後にあった欄。

[幸運]


これはクリティカルが多くでたり、敵がアイテムを落としやすくなったり、武器を強化する時に成功しやすくなったりする。


「んー、これにしようかな。」


今作れる最強の装備、まだまだ強化は可能である。


「金も強化素材も腐るほどある。残りの時間できる所まで強化するか。」


俺はポイントを全て幸運に振り切る。


23時58分


「今なら宝くじも当たりそうな気がするな。」


強化しますか?


YES


強化に成功しました。


聖剣+100


+70以上は強化を失敗するとアイテムが消失する。

本来はそれを防ぐために課金アイテムを使うんだけど、今となっては失うものは無い。

強化ボタン連打だ。


強化しますか?


YES


成功しました。


強化しますか?


YES!


成功しました。


強化しますか?


YES!YES!YES!!!


成功しました。

成功しました。

成功しました。

成功しました。


23時59分59秒


強化しますか?


YES!!!!!


お金が足りません。


ブツン



視界がブラックアウトする。

結局武器は壊れることがなかった。

どこまで強化したかは覚えてないけど、化け物じみたものになったことは間違いない。


俺はヘッドギアを外す。


「ふぅ。」


散らかった部屋。

見たくない現実だ。


ひとつの歴史が今終わった。


「さて、もうひとつも終わらせるとするか。」


吊るされた縄の近くに寄る。


今更頑張って生きようとは思えない。

俺の人生はANOTHER WORLDだ。

こっちの世界じゃない。

ゲームが終わるということは俺の人生も終わるということ。

そこに悔いはない。

幸か不幸か悲しむ人はいないだろう。


さようなら現実。

ハッピーニュー――



視界が再びブラックアウトした。


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