第九十九話:舞華権座衛門の場合。
舞華権座衛門はいまひとつすっきりしない日々を送っていた。
自分の力の使い方を覚え、その使いどころがあり、出来る限りの事はした。
だがそれで彼を守りきる事は出来なかった。
結局の所彼が自分を犠牲にして皆を追い出してしまった。
そして彼と、白雪の二人だけで解決してしまったのだ。
「ほれお前も食えよ」
「ありがとなんだよ師匠」
「師匠ゆーな」
一人屋上にあがるとそこには咲耶が先にいて、サンドウィッチをむしゃむしゃ食べていた。
それを一切れもらって同じくほお張る。
咲耶は何も言ってこない。
彼女は権座衛門が何を考えているのか、なんとなく把握しているし、何を思っているのかわかっているから余計な事は言わないのだ。
こういう時つきあいの長い相手というのは有り難くもあり、やりづらいものでもある。
小さい口で一口一口サンドウィッチに噛み付きながら考える。自分の生きる意味は彼であり、彼が困っている時にこそ力になって全てを解決できるようになりたい。
その為に強くなったつもりでいたが、まだまだだった。
祖父の手記を読んで契約をしていない天使の末路を知った。白雪の話でも解るように契約して相手からエネルギーを吸い上げて力を行使するのが天使や悪魔といった存在である。
なら自分の力は何から生成されているのか。
恐らく自分の寿命を削っているのだろう。
権座衛門はそこまで、仮定ではあるが理解していた。だが、いざという時は迷わず使うつもりで居るし、もっと強くなる為にその命を削らなければいけないのであればいくらでも削るつもりでいる。
おそらく彼はそれを良しとはしないだろう。
でも関係ないのだ。
守られる側の意見など聞いてやらない。
自分がただ自分の為に彼を守りたいと思う。
だからこれは自分が自分で決めて実行すると決めた自分勝手な決意である。
権座衛門は守られる側が、守る側を気遣って自ら死地に飛び込む話が好きではない。
守る側からしたら何を余計な事を、と言いたくなる瞬間である。
でももしも彼が同じ事をするのなら。それも彼が決めた事であり彼の決意であるなら。
どんな状況であろうと、彼がなんと言おうと、何をしたとしても
それがどんなに自分にとって不利な状況を生んでいたとしても
笑って覆して助けきる。
そういう存在になりたい。
その為に命を削る事も死ぬことも怖くない。
だって彼の為に生きているのだから彼の生の為に死ぬのは本望である。
こんな重たい話を本人にしたら涙目で説教をしてくるだろう。だから言わない。
ただの友人として、力になりたいんだ。
そういう事にしておくのが一番なのだ。
舞華権座衛門は、星月乙姫を愛しているのだから。
ちらりと横の教師兼師匠に目をやると、咲耶は「なんだよ。こっちみんな」と無愛想に顔を逸らす。
付き合いの長い相手の考える事は解る。
結局はこの教師も自分と考えている事、思っている事、感じている事は同じなのだ。
だから、あの時つい、のけものにされた事への八つ当たりをしてしまったのだ。
「悔しいね」
「うるせーよばか」
涙目の教師に背を向けながら、権座衛門は大粒の涙を零した。