第九十一話:再会。
「あ、悪魔だと…?貴様らいったい何人天使と悪魔を抱え込んでいるというのだ…」
多野中さんの『悪魔の如き』発言を間に受けてまたさらに勘違いが拗れたようだ。
「貴方の悪あがきもこれで最後のようね?さあ、どうする?一生そこに閉じこもっている気かしら」
「…ぐぬぬぬ…こうなったら最後の手段だ。貴様ら後悔しろよ!」
泡海の追い込みに支部長は隠し部屋の奥から小箱を持ってきて開けると、中身を腕に装着した。
腕輪だ。
「まずい、こいつもしかして白雪と契約する気なんじゃ…」
「今更気が付いても遅いわ!本来ならこのままボスに渡さなければいけないのだがこうなっては仕方があるまい」
悪魔と契約するには条件があるはずだ。その悪魔に名前を付ける事。だがもう白雪には俺が名前をつけている。
俺の疑問を解決したのは支部長が取り出したもう一つの腕輪だった。
「この腕輪は対になっていてな。両方装着する事で無理矢理契約を結ぶ事が可能になるのだ!!」
「ハニー!咲耶ちゃん!今すぐこのガラスぶち壊してくれ!!」
「あいよ」
「わかったんだよ」
二人は左右から同時に飛び掛り、ガラスに向けて思い切り拳を振りぬいた。
物凄い音と共にガラスが吹き飛び、向こう側に居た支部長が背後へ吹き飛ぶ。
「うごぁぁぁぁ!!ば、馬鹿な!戦車の砲弾をも弾く特殊強化ガラスだぞ!?」
周りに飛び散ったガラスから守るようにいばらは泡海の前へ、多野中さんは有栖の前へ出る。
実際ガラスを打ち砕いた二人は特に怪我は無いようだ。要するに、そのガラスで被害を受けたのは俺だけらしい。
といっても細かい欠片が掌に刺さって少し血が出た程度だが。
「諦めて白雪さんを帰すんだよ」
「馬鹿か!コレは悪魔なんだぞ!?人みたいな言い方しやがって」
隠し部屋の方に転がった支部長がよろよろと立ち上がりながらそんな事をのたまう。
「馬鹿はお前だよ」
気が付けば俺は支部長の前に立ち、その言葉を否定していた。
だってそうだろう?
「悪魔は所詮悪魔だ!道具なんだよ!私達が!上手く使ってやる為の存在だ!」
「やっぱり馬鹿だなお前。白雪はな、確かに迷惑な奴だしとんでもねぇ悪巧みばっかりだ。だけどな、あいつはただこの世を楽しんでるだけなんだよ。ただ思い切り楽しみたいだけなんだよ!そんなのただ変な力もった普通の女の子じゃねぇか!!」
支部長は心底驚いたように目を丸くして言った。
「き、貴様…それを本気で言っているのか?こんなふざけた、超常の力を持った存在が普通の女の子だと!?頭沸いてるのか!?いいだろう、じゃあ貴様のいう普通の女の子とやらの力を思い知るがいい」
咲耶ちゃんとハニーが支部長の行動を阻止しようと走り出すが、ほんの少しだけ奴の行動の方が早かった。
「うおっ!?」
「うわぁぁぁぁっ」
見えない壁のような物に弾き飛ばされ二人が俺の両脇をすり抜けるように吹き飛んでいく。
背後で二人が壁に激突する音が聞こえた。
慌てて振り返ると、二人とも壁にめり込んではいたが「びっくりしたー!」「今のは…少し驚いたんだよ」とか呟いていたので怪我の心配はないだろう。相変わらずあの二人はどうなってるんだ。
それよりも、今はもっと考えなきゃいけない事があった。
「なんじゃしけた面をしおって。少しは再会を喜んだらどうじゃ」
俺と支部長の間に、肌も髪も浮世離れした真っ白い少女が立っていた。
「…っ、白雪…」
「お、おおお…乙姫君、あ、あの…私、先に避難しててもいいいいいいかしら?」
「ひ、人魚様っ!?いったいどうされたんですか!?」
泡海は白雪の力を目にしたとたんガクガクと震えだした。
いつぞやのトラウマが再発したんだろう。あの様子じゃもう無理だ。
有栖も危険だし多野中さんはフラついてる。
「いばらさん、泡海を連れて先にここから脱出してほしい。多野中さんも、有栖を連れて先に行って下さい」
「そ、そんな!ここに来て先に帰るなんて出来ませんわ!」
「有栖。ごめんな、でも多野中さんも本調子じゃねぇみたいだしさ。泡海もあんな状態だから。それに早めにアルタと合流してやってほしい。後の事は任せてくれよ」
泡海といばらはさっさとこの部屋から逃げるように去っていった。
すれ違い様に、「お、おうちっおうち帰るっ」とか聞こえたので完全にトラウマスイッチがオンになっているようだ。
有栖はしばらくゴネていたが、多野中さんに嗜められて「絶対白雪さんと一緒に帰ってきて下さいまし!約束ですわよ!」と言い残し出ていった。
ここに残るは、その様子をニヤニヤ眺めていた支部長、その前に無表情に佇む白雪。
それと俺、あとは壁からめりめりと脱出してきた咲耶ちゃんとハニーだ。
「白雪さんって今操られてる状態なのかな?」
…考えたくは無いがそうなのかもしれない。白雪の力を、敵を排除する為だけに使ったとしたらどうなる?俺なんか一瞬で粉にされてしまうかもしれない。それくらいの恐怖はある。が、誰が逃げても俺だけは逃げるわけにいかない。




