第八話:可哀そうなお嬢様。
仕方がない。俺にも責任が無いわけじゃないからなぁ。
「咲耶ちゃん、こいつずっと朝から体調悪そうだったんだよ。熱とかあるかもだし保健室つれてっていい?」
「咲耶ちゃん言うな織姫センセだろこんにゃろ。…まぁそういう事なら早く連れてってやれ」
「ほれ、保健室いくぞ。手貸そうか?」
「しょしょしょ庶民の手なんか借りなくってもももぉぉ!おぉぉどうしてもって言うならぁぁぁ……あ、」
ヤバい。
慌てて有栖を抱えて教室を出る。俺のクラスは廊下の一番端で、トイレはその反対側だ。
「待ってろ、すぐに連れてってやるからもうちょい我慢しろ!!」
「しょ、庶民の癖にわたくしをこんな、や、やめてみんな見てる、ほかのクラスの人達がわたくしたちの事見てますの!」
そりゃある意味有名人の有栖がお姫様だっこされて廊下を疾走していれば注目くらい浴びるだろう。俺だってこんな注目浴びたくないし絶対あとで面倒な事になるのはわかってるけど…
「教室でぶちまけるよりマシだろ!我慢しろ!」
「ぶ、ぶち?失礼な!わたくしがそんなはしたないここここおぉぉぉぉ…もう、ダメ…」
「着いたぞ!行ってこい!!」
「お、おんにきますぅぅぅぅ!!」
女子トイレに有栖を放り込んで今きた廊下を振り返ると、意外にも教室の窓からこちらを見る顔はひとつもなかった。
教師が野次馬を止めたのか…あるいは皆関わりたくなかったのか…。どちらだろう。
じゃーじゃーとやたら水を流す音が聞こえてくる。
…あ、そうか。聞かれたくない音っていうのもあるもんな。少し離れて待つか。
「ちょっと貴方、まだそこにいらっしゃるの?」
離れるより先に中から声が聞こえてきた。どうやら俺に言っているらしい。
「あぁ、ごめん。なんなら先に教室に帰って…」
「ダメ!」
…えっと?辱めを受けた屈辱をなんたらでひどい目にあわされるのではないだろうな。俺はむしろ恩人だぞ恩人。俺がいなかったらどうなっていた事か…いや、俺がいなきゃ白雪が来ないからこんなことにもならないか…うーん、責任の所在が難しいところである。
「聞いてますの?」
「あ、あぁごめん、どうすりゃいい?」
「今、ひとりにしないで下さいまし…お願いですから」
消え入りそうな声を聞いて、なんというか有栖も人の子なんだなと思うとともに、変なやつ、危ないやつとしか思っていなかったことにちょっとだけ申し訳なさを感じた。
五分ほどして有栖がトイレから出てくると、俺の顔を見るなり目に大粒の涙を浮かべた。
「な、泣くなって、クラスの奴らには具合悪くて保健室行ってたで済ませばいい事だし俺も他言はしねぇよ」
「…いますの」
「…え?」
「ちがいますの…実は、わたくし…その…」
なんだ?むしろ危ないところを助けてくれてありがとうとかキャー大好き愛してるとかそういう流れになるのか?大歓迎ですけど?
「あの、じ、実は…ここまで来て隠しても意味がないので正直に言って協力を仰ぎたいのです」
「えっと…だからどうしたの?」
「急かさないで下さいまし!恥ずかしくて死にそうですわ…さ、先ほど…あの、少々、間に合わなくて…」
雷に打たれた。