第六十三話:アイドルの素顔。
俺が返答に困っていると
「あの子は素直じゃないところありますけどぉ~なかなか良物件だと思いますよぉ?」
「いや、ネムさんまで俺とアルタをくっつけようとするんですか?うちの親じゃあるまいし…」
「そういうのいいですぅ~」
ほわほわふわふわしてるのに意外と毒舌というか、俺の言葉はぴしゃりと打ち切られてしまった。
「そんな事聞きたいんじゃなくてぇ~女の子として魅力があると思います?無いと思いますかぁ?」
…いや、アイドルですし?普通にというか可愛いんじゃないですかね。そりゃ可愛いだろ。
「なるほどなるほどぉ~じゃあもっとちゃんと見たかったって事ですねぇ~?」
心を読まれた!
そういえばアルタがネムさんの力で人の心を読んだとかそんな話してたな。
「いやいや、相手はさすがに中学生ですしもっと見たかったとかそんな事あるわけ…」
女の子の裸が見たくない男などガチホモ意外に存在するわけないだろ!
「ですよねぇ~見たいですよねぇ~面白いので今日だけ特別サービスしてあげますぅ~」
だから人の心を読むのをやめてく…れ…?
突然ネムさんが「ほぃっ」と呟き、俺とネムさんの間に白い靄のようなものが現れる。
これはなんだとその様子を伺っていると、だんだんと薄っぺらい鏡みたいな物に変化していった。
「あの、ネムさん?これはいったい…」
俺はその次の言葉を吐き出す事が出来なかった。むしろ飲んだ。息を。
突然その靄鏡がスクリーンのようになり、今現在進行形で体を洗っている最中のアルタが映し出された。
「こっ、これは…っ!」
さすがに見てはいけない。みちゃいけないやつだ。見てはいけない。見て…は…。
「なんだかんだしっかり見てますねぇ~そういう正直なところすっごく面白いですぅ~」
はっ!俺は何をしていたんだ。
理性をなんとか取り戻しその靄から目をそらす。
「これはいくらなんでもまずいです!」
「別にアルちゃんは見られてるの知らないですしぃ~バレないですよぉ?」
そういう問題じゃない!
「バレなきゃバレないで罪悪感がヤバいんでほんとやめてくださいっ!」
なんとか説得するとネムさんは「えぇ~また心にもない事を~」とか言いながらしぶしぶやめてくれた。
心臓に悪い。
が、しかし。
良い物を見た。
「何よ。私の顔になんかついてんの?ちゃんと洗ってきたから何もない筈だけど?」
母親の用意した寝間着に着替えたアルタが、部屋に入ってくるなりそう言った。
「しっかり洗ってるの見てたから知ってますぅ~」
「ちょっ、ネムさん!」
「だってバレないと罪悪感が、えっと、ヤバい?んでしょぅ?」
「それとこれとは話が別です!」
そもそも俺は自制心を持って自らその素晴らしい光景を見るのを辞めた訳であってだな、こんな悲劇が訪れていい筈がないのだ。
「おい」
背後から恐ろしい声が聞こえた気がした。。きっと気のせいだ。
「おい」
気のせい気のせい。気のせいじゃなけりゃきっと木の精か何かの声だ。
「おいオマエ」
「ごめんなさい!実はネムさんが、これはネムさんがですね」
「ざけんじゃねぇー!」
俺の言葉は見事な回し蹴りによって阻まれた。
危うく俺の意識まで吹っ飛びそうになる。
倒れた俺をげしげしアルタの足が踏みつけてくる。もう痛みとか感じないんだがこれ大丈夫なんだろうか。
耳には「死ねっ、死ねっ」というアルタの声と、ゲラゲラ笑うネムさんの声。
やっぱりここまで計算ずくの行動だったんだろう。
天使と悪魔は同じ物。白雪の言葉を思い出し、深く納得するのであった。
「それにしても乙姫さんからかうのはアルちゃんからかうのと同じくらい楽しいですぅ~♪いっそ二人がくっついてくれたら私毎日幸せに過ごせそうなんですけどぉ~♪」
「まぁどうせネムのしわざだってのは分かってたわよ。こいつがネムにそんな事頼む度胸ある筈ないもの」
それはそれで酷い言われようである。しかし分かってくれたのならば早く足をどかしてほしい。
「でも見たのは絶対許さないから」
ですよねー?
「アンタの事も少しは教えなさいよ」
夜も更けてきたので布団を敷き、電気を消した頃横で白雪の布団に潜っていたアルタがそんな事を言ってきた。
「私だけ身の上話して終わりなんて納得いかないわ」
本当はいろいろ気を遣う部分もあったので隣の部屋でネムさんと一緒に寝ろと言ったのだが、「ネムと一緒に寝たら痣だらけになる」という理由で俺の部屋で寝る事になった。
ネムさんの悪戯のせいも有り多少意識してしまうため俺の心臓の為にも隣室で寝てほしかったのだが…。
「俺の事って言ったって…何を話せばいいんだよ。俺の人生なんてつまんねぇぞ?」
「いいわよ別に。私の事ばっかり知られてるのが腹立つだけだから」
実にアルタらしい理由だと思った。
まだアルタの事をよく知っているわけでも付き合いが長いわけでもないが、なんとなくこの少女の根幹というか、根にある部分を理解出来たような気になっていた俺は意外にもこのアイドルに親近感を覚え始めていたのだ。