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悪魔でも腹は減る(β)  作者: monaka
◆不幸が終わる話
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第五十五話:守った物。


「…んぁ?」


 気が付いたら真っ白な部屋にいた。



 見知らぬ天井…とか言えばいいのか?


 どう見ても病院である。



 …なんだよ、死なねぇじゃんか。あれで死なないとかかっこわりぃ…。



「生きててよかったー!」



 本音は当然それである。何かがうまくいったんだろう。



 …それともあれか、もしかして白雪がどうにかする前にハニーに昏倒させられたんだろうか。



 だとしたら何も解決してないぞ。



 確かめなければ…。



 そうと決めたらこんなところにいつまでも居られない。



 あの後みんなどうなったんだろう。万が一の事があったら俺は…



 とにかく、ベッドから起き上がって部屋を見渡すと他にも数人の患者がまだベッドで寝息を立てている。



 少なくともここには知り合いはいないようだ。



 ベッドから起き上がると、自分が患者用の服に着替えさせられて居る事に気付く。



 自分の服を探したいところだが、病院の人に見つかると外出は許されないかもしれないので諦めてその服装のままこそこそと病室を出て階段を降り、フロントまで出る。



 そこは幸いにも見覚えのある病院だった。



 以前風邪を引いた際に何度か訪れた事がある。家に帰れないような距離ではない。



 この服装だと逆に目立つけれどそんな事も言っていられないので病院のスタッフがこちらに気付かぬように病院を後にする。



 周りにいる人たちからの視線は少々痛いけれど無視して出発目前のバスに乗り込む。



 確かこれで家の近くまで行ける筈だ。



 …まずい、金を持ってないぞ。



「どうするの?乗るの?乗らないの?」



 運転手からの視線が痛い。



 しかし無一文ではバスに乗るわけにもいかない。こうなったら歩いて帰るしか…



 そう諦めてバスを降りようとした時、



「あれ、乙姫じゃないか。こんなところでどうした?具合でも悪いのか?それにその服…」



 乗客の一人が声をかけてきた。



 なんだか久しぶりに聞く気がするその声に俺は驚く。



「親父!?親父こそなんでこんなところに…ってそれはいいや助かった!頼むバス代貸してくれ!」



 たまたま運よく乗り合わせた父親にバス代を支払ってもらい、事なきを得る。



「お前まさか病院から抜け出してきたのか?そういうのは関心しないな…治療費だって払ってないだろ?後で立て替えておかないとな。家に帰ったら病院に電話を入れておこう」



 困った時の親父様様である。



 隣に座って一息つきつつ話を聞くと、仕事でこの近所まで来たからそのまま家に顔を出そうと思っていたらしい。



 相変わらず休みの少ないブラックな仕事をしているのだろうか。何度か聞いた事があるが親父は「まぁ部下の面倒を見なきゃいけない立場だからね」としか言ってくれない。よほど人に言い難い仕事をしているのではと少し心配になる。



「しかし俺が居合わせなかったらどうするつもりだったんだ?」



 親父の心配は当然である。考えなしに行動に出た結果のこのざまなので苦笑いを返す事しかできない。



 しかしよくよく考えてみれば服や財布は後で返してもらえるのだろうか。



 服はともかく財布は返してもらわないと困る。大して入ってないとはいえ貴重な持ち金を失うわけにはいかない。



 親父とともに二十分ほどバスに揺られて家の近所まで戻る。



 先に親父を家に入らせて、俺はハニーの家に向かった。



 ハニーから詳しい話を聞ければ大体の事は分かるはずだ。



 そう思ったのだが、チャイムを押して出てきたのはハニーの父親だった。



 白髪交じりの頭、眼鏡をかけた優しそうな表情のおじさんである。



「あれ?権ちゃんならちょっと前にどこかに出かけていっちゃったけど。てっきり乙姫君と一緒なのかと思ってたよ」



 もしかして俺のお見舞いに出かけてしまったのだろうか。



 だとしたら完全に入れ違いだ。もう少し辛抱強く病院で待つべきだったか…?



 しかしそんな後悔をしても今更遅い。



 とりあえずおじさんにお礼を言って自宅に戻る。



 そういえば白雪は部屋にいるのだろうか?白雪がいれば話は早い。



 …が、自室に戻っても白雪の姿は無い。



 着替えて下の階に戻ると、父が既に連絡してあったらしく母が料理を作っていた。



 珍しくちゃんとした服を着ている。




「姫ちゃんが病院抜け出してきたなんて聞いたから驚いちゃったわ~。でも動けるって事は元気って事よね♪」



 にこにこしながら母が食卓に軽食を並べる。



「どうだ、たまには家族三人で飯でも食べないか?」



 それどころじゃない、と言いたいところだが、この機を逃すと父はいつ帰ってくるかわかったもんじゃないので誘いに乗る事にした。



 そういえば海寄ランドで食事をしてから何も食べていないしちょうど腹も減っていた。



 母の作った味噌汁を流し込みながらちょっとした質問をしてみる。



「そういえば海寄ランドの事とかニュースになってない?」



「そういえば朝テレビで見たわよ?」



 母がのんきな声で言う。



 やはり白雪は望みを叶えてくれなかったのだろうか。それとも、やはりハニーが?



 そんな事を考えていると、母の口から答えが告げられる。



「昨日アルタちゃんのライブがあったんですってね~♪姫ちゃんも見てきたのかな?羨ましいなぁ~。今日は違うアーティストがくるらしいわよ♪」



 今朝、そんな特集をやっていたのだとしたらやはりあの大惨事は無かった事にできたのだろう。白雪と泡海には感謝しないとだな。



 そうと解れば安心だ。何も心配する事はなさそうだしゆっくりと食事を楽しもうか。


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