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悪魔でも腹は減る(β)  作者: monaka
◆不幸が終わる話
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第四十一話:織姫咲耶の場合・2

 自分が汚れてしまったと思っている咲耶にとって、その純粋な瞳を見る事ができなかったのだ。


「おねーさん強くてすごくかわいいね!」


「可愛い訳ねーだろ目腐ってんのか殺すぞ」


 子供の言う事にいちいちムキになってしまった事を悔いたが、それ以上に、初めて言われた言葉に対し咲耶は激しく動揺した。



「かわいいよ?強くてかわいいってアニメの魔法少女みたい!」


 魔法少女というふざけた存在と一緒にされた事が恥ずかしかった。



「そ、そんなんじゃねーよ。あたしの事可愛いなんて言う奴ぁ誰もいねーって。たまにかっこいいとかは言ってくれる奴いるけどよ」



 それも最初だけである。中学も高校もそうだったが、女子達は最初、男子に負けない自分の事をかっこいいともてはやすのだが、咲耶は度が過ぎていた。女子達などはすぐに周りから離れ、近寄らなくなる。



「だーかーらー。かわいいって言ってるじゃん。おねーさんばかなの?」


「あ?いい度胸だてめーぶん殴るぞ?」



 その時の咲耶は可愛いという初めての褒め言葉を受けた事への気恥ずかしさから、本当に子供すら殴りかねない状態だった。



「でもおねーさんなんだか寂しそうだなーって。だから声かけたんだー」



 こんな子供にまで気付かれてしまうほど顔に出ていたのだろうか。



「おねーさんの事を守ってくれるよーな男の人はいないの?」



 咲耶はイライラしていた。そんな相手がいればきっとこんなに荒れ果てた生活はしていないだろう。



 自分の事を守りたいなんていう人間も居なければ、自分より強い人間も心当たりがなかった。



「そんな奴いるかボケ。こっちはお前なんかと話してるほど暇じゃねーんだよ。じゃあな」



 それ以上は何を言われても無視しようと決め、少年に背を向ける。



 だが、その時少年が放った言葉が咲耶の人生を変えた。



「じゃあおねーさんの事おれが守ってあげるよ」



 ただの子供の戯言、彼女は解っていた。



 解っていたのに、その言葉を聴いた咲耶は膝から地面に崩れ落ち、子供の前だというのに瞳から溢れ出る涙を止める事が出来なかった。



 その後その少年は事ある毎に咲耶に絡むようになり、次第に咲耶も心を許すようになる。


 一緒に遊ぶようになって、一緒に海寄ランドにも行った。



 観覧車に乗り、ゴンドラが頂上付近に差し掛かったところで少年は言う。


「さくやちゃん、おれのお嫁さんになってよ」



 咲耶は、漠然と自分の事をこんな風に思ってくれるのはこの少年だけだろうなと思っていた。


 だから、この歳の差はありえないと解っていながらもこう返したのだ。


「結婚はさすがに無理だろーな。でも彼女にならなってやってもいいぞ」



 きっとこの少年も成長していく過程で汚い物を沢山見る事になる。そして人は成長と言う名の変化をしていく。


 その先にきっと自分は居ないだろう。そう、勝手に決め付けていた。



 何より、成長した彼に拒絶される事が怖かったのだ。



 だから将来の約束はしない。



 少年は少年だからいいのだ。




 そうやって咲耶の男性への好みが捻じ曲がって行く事になる。



 そして、その傾向が激しくなってきた頃、少年の言った言葉につい本音で返し、すれ違いの果てに二人の関係は終焉を迎えた。



 結果ただのすれ違いだったのだが、今となっては過ぎた話である。



 なるようにしかならない。



 咲耶は少年に振られたと勘違いした際、荒れるのではなく引き篭もった。



 もう自分には何も残っていない、一番大事な物すら失った。



 その喪失感から何もしたくなかったし何も考えたくなかった。



 その現実をそのまま受け止めて、過ぎた事は仕方が無い。そう自分を納得させる為に、その場所に居続ける事はできなかった。



 何かの拍子にあの少年と、星月乙姫と遭遇してしまうかも知れない。



 それに耐えられる自信が咲耶には無かった。



 引き篭もっている間に現れたもう一人の子供によって、精神的には大分安定したし前向きになる事もできたが、咲耶は後の事はその子供に任せて自分は転居の決心をする。



 そこからは咲耶も前向きに社会に溶け込もうとした。



 教職免許も取り、実習を経てついに赴任先が決まる。



 そこで、乙姫と再会する事になったのだが、既にケリが付いている事、と自分を納得させる事で心の平穏を守った。



 咲耶が心の平穏、平坦を守る事に拘るのはその為である。



 一度均衡が崩れた精神はどうなるか解らない。幼い子供だけに向けていた愛情がどこへ向いてしまうかも解らない。



 そんな不安定な状態に陥りたくなかった。きっとまた不安を払うためにあらゆる物に八つ当たりをするようになる。



 自分はそういう最低な人間だ。



 だから、今のこの状況もなるようにしかならない結果であり、仕方がないのだ。



 しかし、彼が病院に担ぎ込まれた事は流石に気になっていた。



 咲耶は学校へ、生徒の安否を確認してくると連絡を入れ、搬送された病院へと向かう。



「もし眼が覚めたらまた膝枕でもしてやろう。それくらいなら…構うまい」


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