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悪魔でも腹は減る(β)  作者: monaka
◆不幸が終わる話
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第四十話:織姫咲耶の場合・1

 織姫咲耶はいつとも変わらない。



 何が起ころうと、彼女の心は平穏で、平坦である。



 昨日の事件はさすがに驚いたが、結局の所何事も無く落ち着いたのならばそれでいい。



 別れがあった事も含めて、彼女にはどうでもいい事だった。



 正確には、人生なるようにしかならないなら結果を受け入れるしかない。という考え方により、なってしまったものは仕方が無いと瞬時に諦められるようになっていたからである。



 自分のその性格は、正直好きにはなれない。だがそうあろうとしている。もしその精神的均衡が崩れてしまうと、自分がいつかのように荒れ果てるのが解っているのだ。



 もともと彼女は粗暴で、気性の荒い性格だった。喧嘩を売られれば買い、売られていなくても押し売りをする。そして全てを暴力でねじ伏せてきた。



 それだけの力があった。



 始めは幼稚園の頃に友達の女子が男子に泣かされた事がきっかけだった。



 今思えば、きっとその女子の事が好きで意地悪をしてしまうという幼少期特有のアレだったのかもしれないが、咲耶にとってそんな事は関係なかった。



 友達を泣かされた。なら泣かさなければ気がすまない。



 最初はきっとそんな単純な動機だった筈だ。




 咲耶は平和が好きだった。何事もなく幸せに毎日が過ぎていけばそれでよかった。それを邪魔する物は排除する。



 それが年々エスカレートしていき、中学、高校と最低限の成績さえ取っていれば何も言われないような学校へ進学、暴れまわる事になった。



 好きで暴れていた訳じゃなく、気に入らない奴を叩きのめしていたらいつの間にか恐れられ、回りから友達が離れていった。



 守りたい物を守りたくて暴力を振るっていた筈が、ただの八つ当たりへと変貌していた。



 それだけ暴れていると同じような連中から目を付けられる。



 学校に何度となく襲撃しにきた不良達は、毎度毎度同じように返り討ちにされて帰っていく。



 全く学習しない頭の悪い連中だと咲耶は常々思っていたが、自分も頭の悪い荒くれ者の一人である自覚もあった。



 基本的に素手だったが、武器を使う際はいつも棒状の物を使っていた。物に拘りは無く、その時ある物を用意する。バットだったりパイプだったり。



 次第に身にかかる火の粉を払うだけじゃなく、自分から喧嘩をしかけるようになる。授業を抜け出して強い奴がいると噂の学校に忍び込み授業中に乗り込んでボコボコにした事もあった。



 あれは流石にやりすぎたと今なら反省できるが、当時の咲耶にはもう善悪の区別すら面倒だった。



 気が付けば誰も近寄らなくなり、同類からもリトルデーモンと変な名前で恐れられるようになった。



 極まれに遭遇する本当にヤバイ奴を素手でぶちのめした時、自分の存在意義はこれしかないんじゃないかと感じた。



 自分は何かがおかしい。腕は一般的な女子と変らない太さだというのに力という意味ではどんな相手にも負けた事が無い。



 一時期自暴自棄になって田舎の山奥に分け入り必死に熊を探した事があった。



 もうそういう相手じゃないと生を実感できなくなっていた。三日かかった。三日かけてやっとの思いで熊を見つけた。



 お腹が空いて仕方がなかったが野生の獣が放つ本物の殺気に鳥肌がたった。




 嬉しい。




 本気で、殺す気で向かってくる相手が目の前にいる。


 たまらなく幸せだった。



 でも結局熊が振るった一撃は片手で受け止められる程度の衝撃だったし、その鋭い爪は物心ついた頃にひっかかれた猫の攻撃と大差なかった。



 しばらく攻撃を受け続けているうちに無性に虚しくなって、ここは自分の居場所じゃないんだなぁと悟り熊を見逃した。




 それからしばらくは何もやる気がおきなかった。平穏な日々は自分が一番求めていた物だった筈なのに、いざそうなってみると回りに何もない事が寂しく感じられる。



 だから彼女はいつでも八つ当たりできる何かを求めていた。



 そんな時、一人の少年に出会う。



「おねーさん強いんだね」


 タバコのポイ捨てをした大人を後ろから蹴り飛ばしたのを見ていたらしく少年が声をかける。


「あ?なんだてめー怪我したくなかったらどっかいけ」


 見た事のある顔。確か近所に住んでる子供だった筈だ。



 咲耶は子供が苦手だった。


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